甘い欧州旅行

第六章 蒼ざめた古城(ノウシュバンシュタイン)

(3)

 

苦痛に歪む俺の目線の先で、慌ててこちらに駆け寄ろうとする美恵さんの全身が、先程木戸から漏れ出した青白いモヤにすっぽりと包まれていたのだ。

「な…なに…これ?」

 目の前で手をかき、モヤを払い除けようとする美恵さん。

 だが、その瞬間、

「え…や…な…なに!?

 美恵さんの周りにわだかまるモヤが、払い除けようとするその手にまとわりつくように集まり、まるで吸い込まれるように袖の中に消えていった。

 そして……

「え……? あっ! や…あ…あ………」

 わだかまっていたすべてのモヤが消えてしまったその直後、ビクンッ、と大きく身震いし、美恵さんはなぜか奇妙に身体をくねらせ始めた。

「あ…あ……い、いやぁ……な…なんか、か…身体の中…這いまわって…るゥ……」

 あたかも自分自身を抱き締めるような格好で、顔を歪め身悶えする美恵さん。

 確かに、信じられない…信じたくない光景だが、美恵さんの服の中には何かがいる。

 もちろんそれが、今しがた美恵さんの服の中に入っていった、あの青白いモヤだということは、容易に想像できたし、たゆんだ服の布地を透かして、美恵さんの身体の要所要所にそのモヤが放っているのだろう、青白い光が漏れているのが見て取れた。

 やがて、それは、何かを求めるように美恵さんの身体の上を移動し始めた。

「え…な…何?」

 美恵さんの肩口に集まり始めた青白いモヤの光。それは染み出るように服の外に漏れ出すと、螺旋を描き、蛇のように彼女の両腕に巻き付いていった。

「あっ! や…やだっ!」

 一際高い美恵さんの驚嘆の声。自らを抱きしめる両手に力が込められたように見えたところからすると、どうやら、両腕に巻き付いたモヤの光の帯が堅く閉ざした両腕をこじ開けようとしているようだ。

「んんーっ!!

 美恵さんは必死にその力に逆らうが、相当に強い力がかかっているのか、徐々に徐々に両腕は開かれていき……

 「ああっ! いやあぁぁぁっ!」

ついに、両腕は完全にこじ開けられ、美恵さんは両肘をだらりと下げたままの、吊されたマリオネットのような格好にされてしまった。

「やっ! な…なによこれぇ…? う…動けないっ?」

一応両足は地に着いてるものの、おそらく立っていることさえ自分の意思ではないのだろう。極端に内股になったような両足がぶるぶると震えている。

「う…み…美恵さん……」

 一方俺は、いまだ続く苦痛を堪え、何とか声を絞り出すも、全身が麻痺したような感覚に捕らわれ、身動きできず、ただじっとこの信じられない光景を眺めているだけ。

 そして、そんな俺たちを嘲笑うかのように、美恵さんの服の中にいる何かが一際強く輝きだし、一斉に蠢き始めた。

「あ…あ…あ…あ…い…い…いやぁぁぁぁ……はぁ…ぁ…ん」

 動きのままならぬ身体をくねらせ、もがく美恵さん。

 ぽおっ…ぽぉっ…っと、濃い輝きを放つ無数の粒状の光が、衣服を透かして美恵さんの身体をあちらこちらへと移動しているのが見て取れる。

 それが美恵さんにどの様な感覚をもたらしているのか、伺い知ることはむろん出来ない。が、嫌悪に歪む顔から察するに、おそらく、気持ちのいいものではないだろう……

 そう、このときまでは……

 やがて、美恵さんの身体の各所に散った『光の粒』はある特定の部分に集中していった。

「ああっ! や…やだよぉっ…あっ…そ…そんな…っ……と…こ……っぅぅぁ…あ…」

 ぱぁぁぁっ、と黄金色にその輝きの色を変え、美恵さんの胸、或いは腰周りから股間にかけて集中し始めた無数の光の粒……

 また、集中過多で飽和状態になったか、それらは染み出るように布地の隙間から溢れ出し、波打つようにざわめいて、美恵さんの乳房と腰周りの曲線を鮮明に象っていった。

 うまく表現できないが、あえて言うなら、まるで極薄のシースルーの衣服が透けて、その中に着けている金色の下着が光り輝いているよう……

「……ぁ……?」

 ある種、幻惑的なこの光景に俺はしばし目を奪われてしまう。

 だが、その間に、

「っっはぁぁぁん……あ……あ…は……ん…んァァ…ン!」

 気付けば、美恵さんの声のトーンが変わっていた。

「あっ…あっ…あっ…いっ…い…やぁ……ンっ…あ…はぁぁぁ……っ」

 びくんっ、びくんっ、と小刻みに身体を震わせ、美恵さんが口から漏らすその声はもはや喘ぎ声のそれに近くなっていた。

 ……ちょ…ちょっと…やばいぞ……このままじゃ……………って…あれ……?

 臍を噛み、耳元の小砂利を握り締める俺………って、あれ…う…動く?

 正常な思考が出来るようになっていることに驚く俺。

 そう、いつのまにか、俺の頭の中のがちゃがちゃが消えていた。

 そして、麻痺したように痺れて動かなかった手足も動く!

 ……あ?…え? い…いや、それならっ!

 考えるいとまもあらばこそ、俺は立ち上がりざま、思いっ切り地面を蹴っていた。

 

「あはァ…あ…あ……も…基明……く…ぅん……た…たすけ…て……あっ! いやあ……  あ…あっ…こ…コレ…あっ…か…感じ……感じすぎちゃう……のォ……あ…や…やだよぉ  ……こ…こんな…の…あ…あっ…ああああ〜〜〜ッ!!

 愉悦と苦痛が入り交じる複雑な表情を見せ、駆け寄った俺に哀願する美恵さん。

「う…うんっ」

 俺はやや躊躇しながらも、大きく頷いて、美恵さんの背後に回り、背中からはがいじめにするよう彼女の両脇に手を通した。

 そうだ、とにかく、このはり付け状態をなんとかしなきゃ……

 だが、脇から差し込んだ俺の手が美恵さんの腕に触れた瞬間。

 ぞわわっ……

 まるでアリの大群がそこを行進しているような感覚が、俺の手の甲に走った。

「……っ!」

 身の毛もよだつとはまさにこういうことを言うのだろう。

 手こそ放しはしなかったが、俺は一瞬凍り付いたように固まって、その部分に目を移した。

「う…うわ……」

 見れば、俺の手の甲に乗った光の粒が、場所を間違えたかのように、ぞわぞわと俺の手を避けて再び美恵さんの腕に絡み直しているところだった。

 ……こ、こんなのに身体中這い回られてんのかよ……?

 背筋に冷たいものを感じながらも、俺は渾身の力を込めて、美恵さんをそこから引き離そうとする。

 だが……

「くぅっ!」

 美恵さんの身体は、まるで鉄の鎖でがんじがらめに縛り付けられているかのように、そこからまったく動かない。

「くっ、このっ、このっ!」

 俺は烈気を吐き何度も頑張ってみたが、引き離すどころか、彫像のように固まっている美恵さんの体勢を変えることすらできなかった。

 そして、むろんその間にも美恵さんの身体を這い回る光の粒の蠢きは止まらず、

「ひっ…! あ…はァ…っ…ん! だ…ダメ…ぇ…あ、あたし…あ…いっ…ィィ……

あ…う…うそ…よ…き…気持ち悪い…のに……あ…へ…ヘンに…なって……あ…は……」

抵抗する美恵さんの声色から、次第に理性が失われていく。

 …っ! ど…どうしたら…いいんだよっ!?

「み…美恵さんっ!? だめ…だめだよっ!! 美恵さんっ!」

 俺はいつのまにか美恵さんの身体を強く抱き締め、その背中に顔を押し付けて泣き叫んでいた。

「はっ…!? く…くぅっ、く…苦しいよ…基明…クン」

「だ…だって、ど…どうすりゃいいんだよっ!?

 首を捩ってこちらに顔を向け、眉をひそめる美恵さんに、俺はまるっきり八つ当たりの口調で言い返す………

 ………ん?

 ふと、浮かんだ疑問に、俺は抱き締める両腕の力を無意識に緩めていた。

 すると……

「あ…あひぃ…あ…あ…だ…だめ…あ…そ…そこぉっ!」

 その途端、美恵さんは再び光の粒の愛撫で、喘ぎ出す。

 …あれ……? ひょっとすると……

「くっ!」

 ぎゅっ!

 閃いた何かを確かめるように俺はもう一度、美恵さんを強く抱き締めた。

「はぅっ! だ…だから、苦しいって…ば!」

「!」

 やっぱり!

 正気に戻った口調で咎める美恵さんの声を聞いて、俺はおぼろげながらも確信した。

 どうやら、光の粒が与える快感より、生身の俺が加える感覚の方が勝っているようだ。

 …となれば、俺が与える感覚で、光の粒より先に、いきつくとこまでいかせちゃえば、この状態から解放されるんじゃないか……?

 多少、強引な論理にも思えたが……こうなりゃ、なんでもやってみるっきゃない!

 俺は、美恵さんを抱き締めたまま、前方へ回り込み、

「あっ!? も…基明クン?」

 荒々しくブラウスの裾から手を差し入れると、指先で滑らかな彼女の肌を駆け上がり、一気に手のひらを乳房まで上昇させた。

「くぅっ!」

 ぞわわ…っと、まるでアリの大群の中に手を突っ込んだような感覚が指先に走ったが、構わず俺はすぐさま五指を蠢かせ、そのふくらみをまさぐり始めた。

「あ…や…ちょ…基明くん……あ…ん……」

 当然、俺の行動が不可解に思えたのだろう、一瞬驚愕の表情を見せる美恵さんだが、すでに身体のほうは『出来上がって』いたらしく、ぞくぞくっ、と身体を震わせると、すぐさま甘い声で喘ぎ始めた。

「んっ…く…ふ…んぁ…ぁ」

 その様相は、明らかに先程から光の粒に受けていた反応とは違っていた。

「あ…ああ…やっ…ん…も…基明クンっ…き…気持ち…イイッ!」

 どうやら、俺の考えは当たっていたようだ。美恵さんは光の粒の動きより、俺の手の感触の方をより強く、正確に感じてくれている。

「あっ…はぁぁ…んっ…ん…ん…も…基明ク…ン…こ…こっちもぉ……」

 俺が触れてるのと逆側の乳房に目を移し、切なそうに言う美恵さん。

 見ると、俺の手が触れている方の乳房は輝きを失っており、代わりにその逆側の乳房の方がより濃い輝きを放っていた。

 どうやら、俺の手に邪魔された光の粒が、そちらの方に移っていったようである。

 …なる……、俺が触っているところは触れないというわけか……だけど、こっちの手ぇ放したら、美恵さん倒れちゃう………って、あ。そっか、光の帯のせいで動かないんだっけ。

 気付いた俺は、美恵さんの背中に回していた腕を解き……、

(…っと、両手突っ込んだら服やぶけちゃうよな……)

 するする…っとブラウスをたくし上げ、その裾の部分を襟ぐりのところに引っ掛けた。 

 月明りの中、(あらわ)になった美恵さんの白い肌……俺がまさぐる逆側のブラがその形通り三角形に輝いている。

(………!)

 …っと、びびってる場合じゃない。

 続いて俺は再び美恵さんの背に手を回し、ぷちっ、ぷちっとホックを外す……

 戒めを解かれ、こぼれ落ちる美恵さんの両乳房……その片方は俺の掌で覆われていたが、もう片方は……

(う…うわぁっ!?

 思わず声を上げてしまいそうになったほど、俺は仰天した。 

光る砂……そうとしか表現できない無数の細かいチリ状の発光体が、ところせましと張り付いて、美恵さんの乳房を鮮明に象っていたのだ。

 また、特に強い輝きを放っているその先端の部分では、光の粒同士がざりざり…ざりざりっ、と互いにこすり合うようにうごめいて、あたかも絶妙なタイミングで美恵さんの乳首をいたぶっているようだった。

 く…くっそー、コイツら(?)よくわかってんじゃねーか……

「あ…ああっ、あぁ〜っ、も…基明クン…や…やめちゃ…ダメぇ…や…やめると…あ…ま…また…あ…ひァッ…はああぁ〜んッ……」

 ……おっと…そうだった……

 俺は慌ててまさぐっている方の指先に力を込め、多少ためらいながらも、空いてる手を蠢く光の中に突っ込ませた。

「う…ううっ!」

 再々度感じるあのざわざわ感に眉をひそめる俺。

先程までと違い、見えている『その中』に手を突っ込んだのだ。光の粒に覆われる自分の手…その様を目の当たりにして、気色悪さは倍増である。

 よって、俺は思いの外、美恵さんのふくらみをわしづかみにする手に力が入ってしまった。

「ひっ…痛ッ! も…基明クン……もっと、やさしくぅっ……」

 息を詰まらせ、軽い悲鳴を上げる美恵さん。

 って、呑気なコト言ってくれるよ。コッチはこんな得体の知れないモンの中に手ぇ突っ込んでんだぜ……っと……ん?

 ざざぁ〜〜!

 むろん、そんな音を立てているわけではないが、またも俺の手に邪魔され、光の粒たちが美恵さんの肌の上で移動を始めた。

 そう、俺の手で両の乳房を封じられた現在、次に行く先は、もちろん……

「……!」

 俺が視線を下げたとき、ざわざわと蠢く光の粒は、美恵さんの下腹部をつたい、すでにその大半をジーンズの中に没しかけていた。

 あっ、このっ!

 俺は慌てて美恵さんの乳房から右手を放し、ソイツらを追っかけるように下に伸ばして、ジーンズのベルトに手を掛けた。

「あ…あっ…え…え…?」

 光の粒の動きか、俺の動作に対してだかは知らないが目を白黒させて戸惑う美恵さん。

そして、その間、俺が手を放したのをいいことに、移動しかけた光の粒が再び乳房に戻っていく…が、今は無視。こっちの方が先決である。

 俺は手慣れた動作でベルト、ボタンを素早く外し、身体をしゃがみ込ませる勢いで、美恵さんのジーンズを下着もろとも一気に引き下げた!

「あ……きゃあああああああ!」

 暗い夜空に轟く美恵さんの悲鳴。

 ……ったって、こんなヘンなのに()られるよかマシ…でしょ?

 俺は構わず、美恵さんの前に跪いた格好で、こうこうと逆三角形を形取って輝くその局部に唇を寄せていった。

 

蒼ざめた古城」(4)へつづく

 

TOPへ もくじへ 「甘い欧州旅行」もくじへ