いちばん熱かったあの夏に・・・(13)

 

「なによ和也? どったの、急に海の方へ行こう…なんて言い出して……」

 帰国を明日に控え、荷物の整理も一段落着いた夕方。

 和也は舞を誘って、人影もまばらとなったライエビーチに来ていた。

 そして、和也は舞の質問に歯切れの悪い口調で話し出す。

「いや…その……お前言ってたろ? 来るときのバスの中で……」

「……え?」

「ほら、『ステキな人とここを歩けたら、最高……』とかなんとか……。

 ……ま、まあ…『ステキな人』ってのはあてはまんね−けど……」

 うしろあたまを掻き乱し、顔をくしゃくしゃにして苦笑する和也。

「え…?ああ…」

 対して舞は、一瞬驚いたような顔を見せた後、

「そーね。あてはまんないわね」

 あっさりと言ってのける。

「…う。」

 和也はやや鼻白み、

「ちぇ…やっぱそう言うとは思ったけどよ、そんなにはっきりといわねーでも……。

 でも…ま、今回はこのてーどでガマンしといてくれよ。次に来んときゃ、もちっとマシ

になってる……と、思うからよ」

「え? また連れてきてくれんの!? らっきー☆ あ…でもぉ、その時でも、それは

きっとあてはまんないわよ」

 喜びの表情をさらりと真顔に変え、やはりあっさり告げる舞。

「え……? ちょ…お前、ミもフタもないこというなよ。んなもんわかんねーだろ…

俺だって5、6年もすれば……すっげえカッコ良くなるかもしんねー……」

「はいはい…ストップ。…あのねえ、和也…?ひとつ言っとくけど、あたしは何も

カッコイイ男と歩きたいー、なんて言ってないわよ」

 口を尖らせ反論する和也の言葉を遮り、舞が言う。

「へ?」

「あたしはねー……『ステキなひと』と歩きたいって言ったの。 だから、あてはまん

ないって言ったのは……その上に、『すっごく』が付いて……」

「……??」

 やや、赤らんだ顔で舞が伺うも、和也は首を傾げて、なにやらその意味を考え込ん

でしまう。

 呆れた舞は、手で額を覆い、重い溜め息をついた。

「あーあー、撤回撤回。もういっこ付け足すわ。その下に……」

「え…?」

「『バーーーーカ』ってね!!」

 和也の眼前に潜り込み、両目をぎゅっと閉じてしかめっ面をする舞。

「『すっごく』…『ステキな』…『バカ』……?」

 一方、和也はわけがわからず、とりあえず言われた言葉を繋ぎ合わせてみる…。

 …いや…なんとゆーか……。バカである…ホントに……。悲しいくらいに……。

 むろん、最もそう感じてたのは他でもない、舞であり…。

「………。」

 テレと怒りで赤く染まった顔でキッと和也を睨みつけ、

「もーばかぁっ!」

 勢いよく両腕を伸ばし、未だぽかんとした顔を浮かべている和也を突き飛ばした。

「…え? おわぁっ!?」

 不意を突かれ、和也は2・3歩たたらを踏み……。

 そのスキに、舞は和也にくるりと背を向け、波打ち際へと駆けていった。

「お…おいっ!ま…待てよ舞!」

 慌てて、後を追う和也。

 しかし、舞はいつものようにそのまま逃げ去るわけではなく、和也の伸ばす手に、

あっさりと捕まった。

「へ……?」

 拍子向けする和也に、ゆっくりと振り返る舞……

 沈みゆく夕陽に照らされ、赤く染まったその顔……静かな笑みを携え、まっすぐに

和也を見つめて……

「…和也………」

 ざぁぁぁん…!

 大きめの波が二人の背後で崩れ落ち…舞い散る飛沫がきらきらと、夕陽に輝く。

 刹那吹き抜ける一陣の浜風が、しなやかな舞の黒髪をなびかせ………

「あは…☆」

 舞はややはにかんだような笑みを口元に浮かべた。

「……ね?1度めは事故。2度めはあたしから。……じゃあ…3度めは………?」 

                          みなも 
 水平線で半円を描く太陽が、たゆたう水面に溶けてゆき……

「…………。」

 今……二つの影がひとつになった…………。

始まりはゆるやかに

                  またたく想いは閃いて

                    
ほむら 

             焔群のごとく燃え上がった…ふたつの心。

                         
あか
              そう、夏という名の朱い季節のもと

ふたりをめぐりあわせた熱い夏のもとで………。

  

…エピローグ…

「…ずや……和也!」

「……ん…あ…?」

 身体を揺する舞の手に、和也はうっすらと目を開けた。

 狭い椅子にくくり付けられた身体を感じ、ここが機内であることを確認する。

「ほーら! もう着くよ!」

「ん…んん……あむ…あれ? もう東京?」

 あくびを噛み殺し、目をこすりながら言う和也。

「はぁ? 寝ぼけてんじゃないわよ。……あ、あの辺、ワイキキじゃない?」

「へ………?」

「ほらほら、和也も見てみなよー☆ キレーだよぉ!」

 驚き、思わず身を乗り出そうとする和也。

 が、シートベルトが邪魔して、舞の差す下方の景色は見えなかった。

「………あ…え?」

 しかし、その位置から見える空は、確かにどんより曇った東京の空ではなく、どこま

でも突き抜けるような、青い南国の空であった。

「……え?え?え?」

 混乱する和也。しばし頭の中で夢と現が行き交い…やがて、

「…………あ。そっか」

 寝起きの乱れた思考が整理され、和也はその時すべてを理解した。

「……ん? 何が『そっか』なの…?」

「い…いや、何でもないよ」

 不思議そうに尋ねる舞に、頭を掻きつつ安堵混じりにテレ笑いを浮かべる和也。

「……? 変なの……。ねえ、そんなことより……」

「…ねーねー、ぱぱのおともだちのおウチって、どこぉ?」

 怪訝な顔を取り直し、言いかけた舞の言葉は、だが甘ったるい少女の声に遮られ

た。

 そう、口を挾んできたのは、舞の膝の上――和也と舞…二人の間に生まれ、今年

3才になる娘の声だった。

 むろん、そのつぶらな瞳は闇に輝くこともなく。母ゆずりの可愛らしい八重歯が強

固な狼の牙に変わることもない。

 ともあれ…

「―ハレイワ辺りだっけ…清正クンと弓香さんが建てた家…どんなのだろうね?」

「ねーぱぱぁ…どこぉ?」

「え?え?」

 二人からの同時の質問に困る和也。

「うーん、ここからじゃ見えないんじゃないかなぁ?」

 とりあえず、娘への答えを優先させる。

 と、同時に目線を上げて伺えば、なにやら舞はやや不満げな顔をしていた。

(……って、しょーがねーだろ……)

 などと、舞のジト目にやや怯んだ目で返す和也。

 また、その間に、娘が…今度は舞の顔を見上げ、尋ねる。

「ねーままぁ、きよまさくんって、かっこいいひと?」

「ええ、パパより、ずぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっとね!!」

 娘の質問に、舞は冷ややかな笑みで、和也を見詰めたまま答えた。

「……おいおい」

 苦笑いで、その視線から逃れる和也。

「……ん?」

 ふと見れば、なにやら娘の頬がぷーっとふくれている。

「まま、きら〜い! ぱぱのほうがずっと、ずぅぅぅーっと、かっこいいんだもん!」

 舌足らずな口調で息巻く娘。その勢いに気圧され、舞は目を丸くする。

「あ…あはは、そうだったね。ゴメンゴメン。あたしたちのパパが一番ステキよね」

「すてきじゃない。かっこいいんだもん!」

 くしゃりと髪を撫でる舞の手を嫌がるように、娘はその膨れっ面のまま、そっぽを向

いた。

「……んふ…。でもね、理美ちゃん、男のひとは『カッコイイ』より『ステキ』な方がいい

のよ……」

 そんな娘に、優しい笑みを浮かべ、うつむき加減に呟く舞。

 すっかり、母親の顔になって……。

 ポーン。

 やがて、シートベルト着用のサインが灯り、到着を告げる機内アナウンスが流れ始

めた。

「…………。」

 口元に笑みを浮かべ、互いに目と目を見合わせる和也と舞。

 馳せる二人の想いがこのときだけ、あの夏へと帰る……

 そう、いちばん熱かったあの夏に…。

   

                                              完。


あ と が き

 みなさんこんにちは、るますりーです。

 えー、まずは、えっちもないなんだかアレな(^^;この物語を最後まで読んでいただき

誠にありがとうございます。

 いやもう、ねっとりじったりしたえっち物語を書き上げたときよりも、いろんなイミで遥

かに恥ずかしい思いに包まれながらのアップとなりましたが(^^ゞいかがだったでしょう

か?

 さて、今回のこの作品、当HP10万アクセス突破記念☆と言えば、聞こえはいい(?)
       
       るますりーのぐーたら
かもしれませんが、諸  事  情でアップが遅れ、ンなもんとっくに過ぎてるし(汗)、

 実は、別サイト別ハンドルで掲載してたものをこの度、こっちに持ってきたもので

あったりします。

 あ…。今、「おいおいそれじゃ手抜きじゃねーか」…と思ったでしょう?

 …いや、あながち、そーぢゃない…とも言い切れませんが…。

 最初は「今書いてる新作えっちじゃ間に合いそーもないし…」などと思ってました

し……(^^ゞ

 しかし…しかしですよ。これがまあ、フタを開けてみればビックリという奴でして……

「おー☆、10まんかぁ!それじゃここはひとつ記念として…ちょっと恥ずかしいけど、

皆さんに、るますりーのらぶらぶえっちの原点とも言える作品を見ていただこうかな

?」

 などと、いたってカルイ気持ちでアップに際し、とりあえず当作品のチェックに入った

ところ…

「な…なんだこりゃ?いっくら昔に書いたものとはいえ、こんなモンを今まで公表してた

んかい!?」

 …という、赤面どころじゃすまないシロモノだったりしたわけです。

 あ…いや、「コレでもじゅーぶんハズかしーんじゃ…」という声は聞こえないフリでか

わすとして…(^^;

 ともかく、そのため、推敲というより、ほとんど全編改稿(汗)という事態に相成りまし

た。

 こんなことなら、新作えっち書いた方が早かったんじゃ…という説も多分にあります

が、まあその辺は、いわゆる専門用語で、「あとの祭り」と言う奴でしょうか。

 …とまあ、いつものよーにイイワケが長くなりましたが(^^;

 マジメな話、この作品…先に少し話した通り、私がこの「るますりーのホームページ

☆」を開くより遥か以前、えっちなんてとても…ポッ☆…と頬を染めてた頃に書き上げ

たものであり―――(いや、だから、マジメな話です。まだ帰らないよ―に。(^^;)

 ――と…ともかく、私のらぶらぶ系作品の原点であります。

 おそらく、この作品がなければ「ロフト」も「メイプル」も「レイン」も生まれなかったこと

でしょう。

 …いや、だからナニ?…と言われても困りますが(^^;

 ともあれ、そんなわけ(?)で、この「いちばん熱かったあの夏に…」。

 10万アクセス突破☆に添えてみました。

 とはいえ、念のため言っておきますが、もちろんえっちを忘れたわけではありません。

 次回は必ず、『にひひ☆』な(^^;らぶらぶえっちを書かせていただきますので、どうか

呆れないで、今後ともよろしくお願い致します(^^ゞ

 それでは、

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m

2001年8月8日、るますりー。

 

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