しようね☆・Ⅱ～好きにして☆～（３）
ぎし…ぎし…
ベッドのきしむ音を耳で捉えながら、耐えがたい快感に耐える俺の頭の中で、ひとつのイメージが出来上がっていく。
静かな海面に生まれる幾つもの小さなさざ波。やがてそれらは折り重なっていき、大きな波になっていく。
高く高く隆起したそれは、その頂点で白い波頭を見せ始め………
――って、やばいぞ！そろそろ……
思いのまま、この浮き上がるような快感に身をゆだねていた俺はそこで我に返り、ぱちっと目を開けた。
「ら…らいか…」
おそらく、苦しげな表情をうかべていただろう、呻くような俺のその声に、
「ん…？ ああ……んふふ♪」
振り向いたらいかは、ひと目で俺の言いたいことが分かり、優しい表情を浮かべる……が、
「あは☆………でも……だめ。
」
途端に、その表情を、にんまりと意地悪い笑みに変えた。
「え…？ちょ…ちょっと、らいか…マジやばいって……！」
本気で慌てる俺。
だがらいかは、そんな俺を尻目に、身体をやや浮かせると、
――え？
「ん…っ…しょっ…と」
中に『俺』を包み込んだまま、身体をひねって、こちらを向いた。
まあ…つまり、いわゆる、通常の騎乗位になったわけだが……
むろん、今の俺は、ンなのんきな解説をしてられる状態ではない。
らいかが身体を回転させたおかげで、中にいた『俺』はその動きによって、ぐりぐりっとねぶられ…
「うああっ……」
弾けそうになったのは、なんとか堪えたが、恥ずかしながら、かなり大きな声を上げさせられてしまった。
そして、らいかは、そんな俺を真正面から見下ろし、
「ふふ～ん♪ イカせて欲しい…？」
「………」
もちろん、アーもスーもなく俺はこくんと首を振ってうなずく。
「じゃ…さ、ひとつお願いしていい？」
「へ…？」
片手を股間の方へ移しつつ、なにやら言い出すらいかに、俺は苦悶の表情を浮かべたまま、問い返す。
「あの…さ、友達に取られちゃったらいかのぱんつ、アレ…ちゃんと取り返してきてね☆」
「え…ええっ！ な…なんだよいきなりこんなときにっ？」
唐突ならいかの『お願い』に、一瞬状況を忘れ、慌ててらいかの顔を振り仰ぐ俺。
「だって、たけあきだって、友達がらいかのぱんつとか持ってたらヤでしょ？ 何に使われるかわかんないし……」
「い…いやまあ…それはそうだけど…………」
至極もっともならいかの意見だが、俺は難色を示して、言葉をにごらせる。
――それにアイツだって、返せって言って、そう簡単に返すとは思えないし……
だが、そんな俺の葛藤をよそに、らいかは、
「ふ～ん…じゃあ取り返してくれないの～？」
そう言って、後ろ手に俺の股間に手を回し、らいかの中に没している少し下の部分…ちょうどふぐりあたりに指先を這わせて来た。
――うあ。だ…だめだそこ！
身体の真下から来るような、ぞくりとした感覚に、俺の全身の快感が甦り、
「う…あ…わ…わかったわかった！……わかったから……」
「じゃ…約束ね☆」
悲鳴に近い俺の言葉に、ウインクで応えるらいか。
――やれやれ、これで、ようやく拷問も終わったか……
だが俺がそう思った矢先、
「んっ……」
らいかは腰を浮かせて、俺のものを引き出してしまった。
「え…？」
わけがわからず、懐疑の目を向ける俺に、らいかは引き出した俺のものを、やはり後ろ手に握り締め、
「じゃ…もうひとつ約束。取り返してくるまで、えっちはお預けね☆ …あ。でも今日はかわいそうだから、コレで…☆」
「え…そ…そんな……あうっ！」
慌てる俺が反論する間もなく、らいかは、熱く濡れそぼったそれを上下に激しくしごき始める。
ひんやりとしたらいかの手のひらを感じ、再び強烈な絶頂感が俺に襲いかかってくる。
「う…くぁぁ……」
「ね……たけあきも……」
刹那、朦朧となった俺の意識の中に飛び込んでくるらいかの声。
促されるまま、俺はらいかの股間へと手を伸ばし、熱くぬめった泉の中へ指を沈みこませた。
「あ…ん…ぅっ！」
一瞬だけ、手の動きを止め、身をのけぞらせるらいか。形の良い乳房がぷるんと揺れる。
そして、俺はただやみくもにらいかの中をかきまわす。
「あ…ああっ！…た…たけあきぃ～ま…また…そこに…あたって…あああ～っ！」
どうやら体勢上、鉤状に折り曲げた指先が、再びあの部分を突いていたようだ。
髪を振り乱し、甘い香りを周囲に撒き散らしながら、悦びに打ち震えるらいか。
だがむろん…いや、だからこそ、なのだろうか、俺のものをしごくらいかの手の動きはさらに激しくなり、
「うぁぁぁっ…ら…らいかっ…お…俺……」
目を閉じた額の上で、ばちばちと閃光が弾け始めたのを感じ、俺はもう微塵も我慢できないことを告げる。
また、らいかも、中にいる俺の指が折れてしまいそうなくらい、自ら激しく腰を揺さぶり、
「あああ～っ！ら…らいかも……らいかも…あっ！ああぁっ！いっ…イッちゃ……う……」
そして………
「うあああっ！」
「や…ンあああっ！はぁぁぁぁーッ！！」
俺たちは、互いの手の中で……果てた………。
エピローグ。
「……んっ…はぁぁ……たけあき…☆」
余韻で身を震わせるらいか。潤んだ目をしてそのまま俺の胸へ倒れこみ、
「大好きだよ☆」
テレくさそうに微笑んで、俺に唇を合わせてきた。
「ああ…俺も……」
これ以上ない幸福感に包まれ、俺もそう言って、らいかの肩に手を回す。
そのとき、
らいかは、すっと唇を離し、
「でも…やくそくは忘れないでね☆ 取り返してくるまでえっちはなしだよ☆」
満面の笑顔でそう言った。
……………あああああ。そ…それがあったかぁ～～！
心の中で悲鳴をあげる俺。
そしてらいかは、俺の腕をこじ開け、それを枕にして満足そうな笑みを浮かべたまま、目を閉じた。
数日後。
らいかとの約束を果たすため、俺は友達の家に出向いた。
もちろん、アポなし訪問である。
カンのいい奴のこと、これから「行く」などと言えば、すぐにピンときて、よけいにめんどくさいことになりそうだったからだ。
……とはいえ、どーすっかなぁ～？奴のいる前で、そうそう部屋の中を物色するわけにもいかないだろーし……
などと考えつつ、俺は奴の部屋の前で立ち止まり、ためらいつつも、インターホンを押した。
ピンポーン。
「はい？」
奴の声。
「あ…俺…たけあき。…あのさ……」
…プッ。
だが、俺が言い終わらないうちに、インターホンは切れ、代わりに、
どたどたどたっ！
ドアの向こうから、なにやら慌てたような足音が聞こえてくる。
そして、
がちゃっ。
わずかに開いたドアの隙間から、やや不安げな奴の顔が覗いた。
――なんだコイツ？チェーンロックまでしてやがる……
「な…なんだよ…たけあき？」
「あ…ああ、いや…ちょっとそこまで来たんで……」
引きつっているのがありありとわかる不自然な笑みを浮かべて聞いてくる奴をかなり訝しく思ったが、とにかく中に入れてもらわないと困る。俺は適当なことを言って返した。
「あ…そ…そっか。でもわりーな。今ちょっと……」
だが、そう言い掛けた奴の背後、
「なーにー？お友達ぃ？はいってもらえばいいじゃーん？」
部屋の中から聞こえた軽やかな口調は、女の子の声だった。
―――ほぉ。なるほどね☆
「ふぅぅぅぅ～ん？」
したり顔の視線で奴を射抜く俺。
やがて、ドアは沈痛な表情を浮かべた奴の手によって大きく開かれた。
「こんにちはー☆」
――へえ☆
ともあれリビングに通された俺。次いで投げかけられた明るい声の主を見て、俺は心の中で感嘆の声を上げていた。
そう、どことなくらいかに似た感じの女の子だったからだ。
――かーっ、やるねぇ、コイツは。ホントに宗旨変えしやがったよ（笑）
などと思いつつ、
「あ…ども。たけあきです」
俺は軽い会釈で、彼女に挨拶を返した。
普通なら、このあと軽い世間話に入るところだが、
「ほ…ほら…お前の用件はこれだろ？」
俺と一緒に入ってきて、すぐに奥の部屋へ姿を消した奴が、小さな紙袋を手に部屋から出てきた。
もちろんその紙袋の中身がなんであるかは言うまでもないだろう。
――ふーん。なかなか気が利いてるじゃん……ま…つーより、彼女の前でよけーなことを言い出される前に、早いトコ厄介払いをしたいってのがホンネだろうけど……。
けど、こないだは散々な目にあわされたんだ。お前がそー出るんなら、ちびっとばっかし俺もお礼しないとな☆
「おー、よくわかったな」
ともあれ、俺は何気ない口調で奴から紙袋を受け取り、
「あ…一応、確認させてもらうぞ」
そう言って、俺は折りたたまれた袋の口を開け、ちらりと中を覗き込む。
――おし。ちゃんとらいかのだな。
そして、俺は言葉通りそれを一応確認すると、おそらく生きた心地がしていないだろう奴に意味深な笑みを送って、
「ああっ！ば…ばかっ、だ…出さなくても分かるだろ！」
おもむろに袋の中に手を突っ込もうとした俺の動きを、慌てて制止する奴。
――へっ、ばーか。かかったな☆ こーゆーコはな、おめーが今までつきあってきたよーなブランド女と違って、好奇心旺盛なんだよ。そんな態度見せてっと……
「ねーねー、なにそれ？」
予想通り、好奇の目を光らせ、俺と奴どちらへともなく、尋ねてくる彼女。
――ほらな（笑）
そして、俺は、
「ああ…そっか、彼女の前で見せるもんじゃねーな。わりいわりい」
「ええ～？何よ～？気になるじゃん～」
内心ほくそ笑み、すっとぼけた口調で言ったそんな俺のひとことで、いっそう好奇心をくすぐられたのだろう、目を丸くして、さらに追求してくる彼女。
目の前で額に汗を浮かべている奴の焦りが手にとるようにわかって、非常に面白い☆
「あ…い…いや…な…」
「ああ…パンツだよ。こないだコイツ俺の家に泊まってさ……」
言葉に詰まる奴に、俺は合図を送って、助け舟を出してやる。
「やーだー。パンツの貸し借りなんてしないでよ～」
呆れたように言う彼女。また、袋の中身が何であるかを知って、興味も薄らいだご様子。
そして、
「ま…返すもん返してもらったし、俺はこの辺で失礼するわ」
「え…もう帰るの？変な気使わないでもっとゆっくりしてけばいーじゃん」
男心をまったくわかっていない、どこかの誰かさんのようなセリフを吐く彼女に、
「あーいやいや、俺も家にらいか…カノジョ、待たせてっから……それに、せっかくの二人の時間を邪魔するほど図々しくないからさ。俺は。」
俺は苦笑まじりにそう言い、また、言葉の後半は彼女の横で拷問から解放されたような顔をしている奴に、心底、嫌味タップリに言ってやった。
二人に見送られる玄関先、
「んじゃ、お邪魔さま☆」
くつのヒモを締めて立ち上がった俺は、ドアノブに手をかけて、
「あーそうそう、らいかのやつ、すげ―怒ってたぞ。お気にのヒモパンだったのに！ってよ…」
肩越しに持った紙袋をぶらぶらさせ、そう言った俺の言葉に、背後の二人がどういう反応を示したか、それはわからない。
とりあえず今回は、焦った顔の奴がこれからどー弁解するかを想像することくらいで、カンベンしてやることにする。
――といっても、口の達者な奴のこと。どーにかこーにかしてごまかすだろーがな……
「じゃーな」
そんなことを思いつつ、俺は振り返りもせずに、後ろ手にドアを閉じた。
――さて、まあこれで気も晴れたし、らいかとの「約束」は果たせたし、帰ったら………☆
足取りも軽やかに、らいかの待つ家路へと急ぐ俺。
その顔には、きっと満面のいやらしい笑みが浮かんでいたにちがいない……
おしまい（＾＾；