甘い欧州旅行
第六章 蒼ざめた古城
(4)
このときすでに、俺は光の粒に対する気味悪さ…というか、恐怖はほとんど感じていなかった。
いつも以上に高ぶる俺の興奮がそれを薄れさせていたのか、はたまた、
てめーらなんかに美恵さんをどーこーさせてたまっかよ!
という、対抗心がそれを凌駕したのか、それは定かではないが、ともあれ俺は、ほとんどためらいもせずに、長く伸ばした舌を美恵さんの股間でわだかまるその光のるつぼの中に突っ込ませていた。
「ひゃぁっ!? あああッ! あはァッ!!」
ビクンッ! と、これまでになく、大きく身体を震わせる美恵さん。
おそらく、前置きなく差し入れられた俺の舌の感覚に、たまらず腰を引こうとしたのだろうが、あいにく、光の帯に身体を固定されているため、身動きできない。
そのため、俺の舌の感覚を他に逃がすことなく、すべて受け止めてしまったのだろう。大きく見開いた目で、正面を凝視したまま、美恵さんはいつまでも身体を震わせていた。
お☆ こりゃ、いいかも。普通ならこーいうシチュエーションの場合、逃がさないように腰を押さえつけなきゃ、いけねーからな……
などと、俺が場違いに不謹慎なことを考えていると……
「あああっ!? も…基明クン……ま…また…こ…こっち…が…ああッ!」
…ん? あ、そーか。
慌てたような美恵さんの声に、舌の動きはそのままで、目だけを上に向けてみれば、
俺が手を放したスキを付いて、またも美恵さんの両の乳房に光の粒が群がっていた。
くっそーっ! てめーらっ、しょうこりもなくっ!
俺はすかさず両手を伸ばし、光の粒を押し退け、下から持ち上げるように両の乳房に手を添え、同時に全く同じ動作でその突端を中指と人差し指で挟み込んだ。
「あっ、あっ、あっ! あ…っ…そ…それ…い…イイッ!! ああーっ! くはァッ!」
いつも以上の、それも2点同時に来た強い刺激に、動かぬ身体を小刻みに震わせ、絶叫を上げる美恵さん。
火照って、うっすらと紅のひいた肌から大粒の汗が一気に流れ出す。
幸い……というか、なんというか、美恵さんの身体はいまだ光の帯によって完全に固定されているので、俺は彼女の身体を支えることへの意識は配らずともよく、指や舌の動きに集中できた。
と、そのとき、
《…Kei…Keineswegs! 》
……ん?
突然聞こえた…いや、頭に直接響いた『声』。
それは明らかに、俺に嫌悪を向ける不気味な『声』だったが、不思議と俺は怯むことなく、もはや行き場を失い、美恵さんの乳房の谷間辺りでぼわっと球状にわだかまるだけの光の塊に、嘲りの一瞥をくれ、
へ…テメーらの浅知恵がウラメに出たな……
そう毒づくと、再び10本の指と舌に、いま持てる全神経、全技術を集中させていった。
「ひゃっ!! あぁぁぁッ!! や…あ…す…すご…いよっ! も…基明クンッ!!」
唯一自由に動く首を前後左右に激しく振り乱して、喜悦の悲鳴で喘ぎまくる美恵さん。
軽くウェーブがかった栗色の髪が宙に舞い、その度に飛び散る汗の飛沫が月明りできらきらと輝く……
俺は上目遣いにそれを眺めながら、美恵さんの奥深くまでねじ込んだ舌をぐるぐるとかき回し…
「あ…ああっ!? くはぁ…ッ! な…なにコレ? あっ、あっ、あっ! す…すご…スゴイッ!」
同時に指で挟み込んでいた両方の乳首を強く摘み上げた。
「あ…ひ…ぅ…………ッ!!」
うわずった美恵さんの喘ぎが、声にならない悲鳴と化す。
「う…んあぁっ! はあッ! はあぁぁッ! はあっ! はぁっ!」
この止めどない執拗な俺の3点攻めに、一気に高ぶっていく美恵さん。吊されたような格好のまま、天を仰ぎ、吐息で顔の周りを白く染める。
「ひゃ…あっ! はあっ…はあっ…はあっ!! う…はぁっ! あ…かはあっ!!」
薄闇の中、ぴちゃぴちゃ、という水音と、獣のように荒げた美恵さんの呼気の音だけが淫らに響き、また次第に、ブルブル…ブルブルッ…と断続的な彼女の身体の震えがその間隔を狭めていった。
舌で感じる美恵さんの中が熱い………
…もうすぐ…だな。
そう思ったとき、
《………Es gehoert mir!》
今度ははっきり聞こえた。
声だ!
そのニュアンスからここ何日か聞いているドイツ語だろう……が、むろん意味は全く分からない……
分からないが……不思議とその意思がなんとなく伝わってきた……
『それは私のものだ!』? けっ! じょーだんじゃねー。誰がてめーなんかにやるもんかよっ!
強い思いをこめて、俺は、もはやかなり小さくなったその光のわだかまりを睨み付けた。
すると、
ぼわっ………
美恵さんの胸元にくっついていた光の塊が、まるで俺の強い意思にたじろいだように、ぷかり…と宙に浮かんで、美恵さんの身体から離れた。
い…今だ!
突如閃いたその直感のまま、俺はずりっと、美恵さんの中から舌を引き抜き、
「え…? あ…やっ!? あ…そ…そこ…は……」
俺の狙いに気付きうろたえる美恵さんにはもちろん構わず、淡い草むらと肉ひだを舌でかき分け、俺はやや上方にある小さな突起を素早く探り当てると、一気にそこに吸い付いた。
「あ…ひゃ…だ…ダメッ! あっ!? あ…あ…あ…あ…あああああ〜〜〜っ!!」
激しく身体を痙攣させ、消え入るような声までも震わせる美恵さん。
このままでも、『すぐ』だろうが………
けど、まだっ!
俺は口に含んだ突起を舌先で弾くように転がし始め、また同時に両方の乳首をも同じように人差し指で弾き回した。
つまり、俺は美恵さんの都合3点の突起を同時に、全く同じ動きで攻め立てたのである。
すでに絶頂に差し掛かっているときに、この動きはたまらないはず!
「あ…あひっ! く…はぁぁぁっ!! す…すご…スゴイィィィィイーッ!あ…あた…あたしぃっ! こ…こわれ…ちゃぅっっ! あっ! んはあぁぁんっ!!」
そんな俺の持論を証明するかのように、美恵さんは首がちぎれんばかりにかぶりを振り乱し、古城の周囲に絶叫を轟かせた。
美恵さんの身体から離れた光の粒の塊が、名残惜しげに円を描いて宙を舞い……
「あぁぁ…んっ…んはぁ…っん…あ…あたし…き…きもち…よすぎ…て……て…あはぁっ!も…もう…い…イク…よ……イク……い…イッても…いい…い?」
美恵さんは潤んだ目で俺を見下ろし、うわずった声でしゃくり上げながら、そう訴る。
「…ん」
思わず首を横に振ってしまいそうになったが、さすがにこの状況で、ギャグやる根性はなく、俺は美恵さんに小さく頷いた。
そして、美恵さんはそんな俺を確認すると、
「ンッ…ハアアアアアァァァァァァァァーーーッ!!」
一瞬、俺の位置からは美恵さんの首から上が無くなってしまったように見えたほど。
美恵さんは、頭を後方にそらして、まさしく、天を衝く歓喜の叫びを上げ……達していった。
……あ!
同時に、美恵さんの絶叫に弾き飛ばされるかのように、光の粒の塊が夜空に舞い上がり、消えていった。
そして………
「は…あ…あああぁぁぁ………」
がっくりと、首をうなだらせて深い息をつく美恵さん。余韻でぶるぶると震える身体の振動が感極まり……
ぴ…きぃぃぃん………
何か硬いものが砕けたような、高く澄んだ音が周囲に響き渡った。
「…?」
な…今度はなんだ? ……え?
きょろきょろと辺りを見回す俺の前で、美恵さんの身体の自由を奪っていた光の帯がまるで剥がれ落ちるように、ぽろぽろと剥離していき、
「……………」
風に流される塵のように俺たちの周りを渦巻いたかと思うと、やがて舞い上がる火の粉のように天高く消えていった。
ぐらっ……
呆然とそれを見送っていた俺の目の前で、美恵さんの身体の束縛が解けていく。
あ…っと! あぶねーっ!
へなへなと崩れ落ちた美恵さんの身体を慌てて抱きとめる俺。
《…Ich…verlieren… Das Kraft……Tun
Sie, was Sie möchten……》
美恵さんの身体の重みを腕で感じたその瞬間、またも意味不明の声が俺の頭に直接響き………
………え?
まるで真っ白いモヤに覆われていくように俺の意識は薄れていった。
………………あ…………………………………………………………
…………………………………
………。
そして、
……あ…れ…?
ふと気付くと俺は、ホテルの前…先程の開かない扉の前に立っていた。
「ちょっと、基明クン! 何ぼーっとしてんのよう?」
背後から焦れたような美恵さんの声。
……って、い…今の全部俺の妄想かよ……? おい。
「基明クン!?」
戸惑いで、ぼけっと突っ立っている俺を、不審に思ったか、さらに強い口調で声を掛けてくる美恵さん。
「あ…ああ…ごめん…」
未だ動揺は収まっていなかったが、とりあえず美恵さんに促されるまま、俺は扉の取っ手に手を掛けた。
あ、開かないんだったな……
思いつつも、手の動きの方が一瞬早く、俺はレバー式のノブを下に下げていた。
かちゃ
……それにしても、なんつ−妄想見てんだよ俺は……ヘンだなー、そんなにタマってるワケないんだけどな……なんで………
………って、『かちゃ』?
ぎいいいいっ
物思いに耽りながら、俺は重く大きな扉を押し広げていた。
……………………え………?
あ……開いた……?
「わー、な…なんでなんでぇ? あたしがやっても全然開かなかったのにィ! すっごーい、基明クンっ! さすが男の子だね!」
驚きまじりのはしゃいだ声でわけのわかんないことを口走りながら、俺の脇をすり抜けて中へ入っていく美恵さん。
「…………」
俺は自分のしたことさえ信じられず、ただ呆然と立ちすくむ。
……え? な…なんで……でも……けど……
「基明クン! なにしてんのよー。ひょっとして、もう眠いとか………? あー、だめだめっ! ダメだからねー。
………今日は寝・か・さ・な・い・わ・よ」
いつまでも扉の前から動かない俺を振り返り、ふと表情を変え(あんまし似合わない)不敵な笑みで睨み付ける美恵さん。
うー、いかんいかん。まだ、現実と妄想がごっちゃになってるよ……
で、なんだって? ふふーん、かわいーこと言ってんじゃん。けどそりゃ、俺の台詞だっつーの!
「あ…わり。いま行く」
ようやくいつもの思考回路に戻った俺は、後ろ手に扉を閉め、美恵さんの後を追った。
と、そのとき……
…………ん? なんだ……アレ?
踵を返し俺に背を向けた美恵さんの襟元から、ふわりと浮かぶ一粒の小さな光……
……う…うそ…だろ?
それは、薄暗い照明の中、ホタルのようにふわふわと宙を舞い、目を疑う俺の前で忽然と……消えた。
《…Ich gab Sie meiner Kraft…vollstaendig……》
そして、頭の中に『妄想』の中で聞いたあの声が………。
な…何? ち…『力』…?
また、同じように、その意思というか、言葉にする前の思考そのもの…とでも言おうか、そんなようなものが俺の頭の中に直接流れ込んできた。
さ…『授けた』って、おい……な…何を…?
うろたえつつ、やけに熱く感じる両の掌を掲げてみれば、そこには、ぼんやりと光り輝く俺の両手があった…………。
これ以後、しばらくして、俺は『ある特別な時』にのみ発揮できる妙な力を身に着けてしまったことに気付くのだが……
残念ながら、それはこの旅が終わってからのことである……
……はは…まいったねこりゃ……
*このお話は、一部(えっち部分(^^;)を除いて、ほぼ本当にあった話です。
みなさんも、ここ夜のノウシュバンシュタイン城に行くことがあったら、十分お気を付け下さい……
☆さらに詳しいことが知りたい方はこちらを御覧下さい。