ホワイトルーム・4

Milkey Night〜帳の降りたサーフライダー〜

 

(10)

 ―――――そして…………

 開いた窓から吹き込む――甘い香りをはらんだ夜風が、やさしく素肌を撫で、

 ざ…ぁ…ぁぁ…ん……

 かすかに聞こえる波音が、かろうじて現在自分のいる場所を教えてくれる…。

 ―――そう、ここは、ハワイ……。先生の泊まるなんだかゴージャスなホテルの一室。

 そこで、俺と先生は甘い甘いひとときを過ごし―――

 んでもって、俺は今…………………

 ………………………………………。

 ……………………あれ……………?
               
しろ
 ひとり余韻に酔いしれ、皓くまどろんだ思考の中……ふとそこまで考えて――

 だが、そこから先は、なんだかまるで霞がかかったように記憶が曖昧になっているこ

とに気付く。

 ともあれ、

 え…え〜と……う〜〜ん……………

 混濁した思考を整理し始めるのと共に、次第にまどろみがほどけていき……

 また同時に、

 ……ぬ゛る………

「……………?」

 ……な…なんだ……?

 ぬめっとした下半身の刺激に覚醒し…ようやく俺はうっすらと目を開けた。

「ん……?」 

 それでも仰向けのまま…首さえ起こさず、目だけを動かし、刺激の元に視線を送れ

ば………

 ちゅく…ちゅく…

 淫らな水音混じりに、俺の股間に顔を埋め、

「………(んふふ…

 まだぐったりとしているソレを咥え込んだまま、俺を見つめる先生の妖しい笑み。

 …………っ…!?

 たちまち俺の頭の全回路に赤いスイッチランプが灯っていき、混濁した思考が唸り

を上げて起動する。

 また、さすがに気だるさの残る体で、がばっ!とはいかなかったが、それでも俺

は驚愕の色濃く、動きの鈍い身体をむっくりと起こし上げ……

「………え?ちょ……せ、先生……?」

 だが、先生はそれをいなすように、指先をつぅ〜っと俺の下腹に這わせつつ、

「あむ……んっ……いいわよ…まだそのままで……元気になるまでは……」

 一時、ソレから唇を離してやさしい笑みを浮かべる。

 そんな、思わずとろん…となってしまいそうな先生の笑みに、俺は再びベッドに

身体を預けて、されるがまま………

 ………はぁ…

 ……って、ちょっと待て。『元気になるまでは』って……?

 聞き捨てならない先生の言葉に、とろけてしまいそうな気分を奮い起こし、

「……って、ちょ…先生?ま…まだ……する…の……?」

 首だけ起こして、驚愕の表情のままおそるおそる尋ねる俺。

 すると、先生はしんそこ意外そうな顔を浮かべて、

「ん〜?あたりまえじゃない。だって…あたし何度イカされたと思ってンの?キミだけ

1回ってのは、ズルいわよ」

 え……いやあの…ズルいとか言われても……。

 ともあれ、そんな先生の物言いに、俺は何と返していいかわからず口ごもっている

と……

「しかも…また一番イイときに途中で…ね〜……」

 ………う゛…。

 そう言って咎めるように見つめる先生の瞳に、まさに返す言葉もなく。俺は完全に

沈黙した。

 また先生は、そんな俺の困惑の表情を面白がるように、

「んふふ……ん〜…でも、もーちょっと刺激を強くしないとダメ…かな〜♪」

 なにやら言いつつ、まだ情けない姿のソレを指先で弄びながら、再び唇を寄せ、

「……あむ…っ」

「……え?……あ…ぁ…」

 いまだソノ感覚は鈍いものの―――、口の端を笑みの形にゆがませたピンク

の唇が、やわらかくソレを包み込んでいく光景に……

「んぅ……!」

 思わず呻いてしまう俺。

 さらに先生は、そんな俺の様子に満足そうに微笑んで、

「…ん…

 口をすぼめて、頬をへこませ…………って、……え………?

 ちゅうぅぅぅぅっ!

「……っ?…んあぁっ!」

 いきなり襲い掛かってきた先生の激しい吸咽に、頭のてっぺんまで突き抜けるよう

な感覚が迸り、さすがに俺はあからさまな悲鳴を上げてしまう。

 また、そんな俺の反応に、

「んふ…口の中でぴくぴくしてたよ……コレがいいの……?」

 イタズラっぽい笑みを浮かべつつ、そう言ってもう一度同じ事をしようとする先生。

 だが俺は、慌ててそれを止め、

「い…いやいやいやっ!ちょ…先生…ちょっと待って…」

「……ん?よくなかった…?……痛い…?」 

「あ…。い…いや…痛くはないけど…えっと…いきなりそんな強烈なのだと…その……」

 やや心配げに首を傾げる先生に、皆まで言えずに、もごもごと言いよどむ俺。

 そう、確かに強烈な感覚ではあった。もし仮に『万全』の状態のときにされてたなら、

おそらく俺は今ごろ、その凄まじいまでの快感に身を委ね、歓喜に打ち震えていたこ

とだろう……。

 だが、今のこんな有様のときにされると……それは快感とゆーよりむしろ……

 例えて言うなら――痺れた足を思いっきりくすぐられているような感覚……それが局部

のみに集中し、極大化したもの…とでも言えば近いだろうか。

 ともあれ、先生の口の余韻と痺れの残る俺のモノは、いまだ……と言うより、その強烈

な感覚をコワがって、逆に縮こまってしまったよーな感さえある。

 …うぅ……、なんか…ナサケねーな〜……。

 などと、そんなとりとめもない気恥ずかしさと気まずさに俺が口ごもっていると…… 

「……ふ〜ん。じゃあよーするに、刺激が強すぎても元気になれない…の?」

 その様相から何かを察してくれたように、どこか神妙な口調で言葉を繋いでくれる

先生。

「う…うん…まあ…」

 そして俺は、やはりまだ気まずげに、こくん…っと頷く。

 すると先生は、くすくすと笑みを漏らしつつ、

「ふふ…けっこうデリケートなのね。栗本の身体も……」

「……う…。う゛〜〜〜、『も』ってのはなんだよぅ………」

 からかうように言う先生の言葉に口を尖らせ、ささやかな抵抗をする俺。

 ダダっ子のような自分に、なんだかさらに居たたまれない気分になってしまうが

……

「あはは…気にしない気にしない。よくわかんなかったあたしも悪かったし……

今度はちゃんとしてあげるから☆…ね

 苦笑混じりにそう言って、イジケかけた俺をなだめる先生の態度と口ぶりに、

 不思議と、それまでよどんでいた俺の思いが一気に氷解し――――、
                                                                  かお
 刹那、俺の脳裏に、忘れて久しい保健医である『もうひとりの先生』との貌が

かぶった……。

(11)へつづく。

 

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