メイプルウッド・ロード
                     
#2番外編

 〜ムーンライトヘブン☆〜

(5)

「あ………あああああああああああああああああぁぁぁぁ―――っ!!!」

 耳を劈く…といっても、大げさではなかっただろう。

 寝静まる深夜の集合住宅…今、この建物の周りを通りかかる者がいたとしたら…

 それまで昏い壁面だったそのいくつかの窓に、刹那瞬くように……明かりが灯った

光景が見て取れたに違いない。

 そしてむろん、そんな予想を超えた激しすぎる嬌声に、さすがの智也も目を丸くし――

「……っ!?」

 一時腰の動きを止めていた。

「…………」

 隠し切れぬ驚きで、葉月の顔を見やれば、

「…んぅ…ぁ…はぁはぁ…だ、だから言ったじゃない……んっ…あ…」

 苦しげに顔を歪めつつ、智也に咎める視線を向ける葉月。

 時折、刺し入れられた『智也』の鼓動…断続的に下から来る刺激に、身を震わせ。

「ん…もう……智也のに慣れるまで……最初は、私に……させて……」

 ばつわるそうな苦笑を浮かべて言う葉月に、

「あ…ああ」

 動揺冷めやらぬまま、困惑気味に頷く智也。

 やや、釈然としないが、これはいたしかたのないことだろう……。

 そして……

「ん…んっ……んんっ!……あ…ああっ……あああ〜っ☆」

 智也の腹に両手を突き、ゆっくりと動き始める葉月。

 ぎっぎっ…。

「あ…はぁ…っふぅ…や…ダメ……ああっ…や…すご…いぃ……」

 前後にこすりつけるようにスライドさせる葉月の腰の動きに、ベッドが一定のリズム

で軋み音を上げる。

 重そうに実る二つの白い果実が、前後になまめかしく揺れ……そんな淫美な情景に、

智也の手が自然と伸びていく…

 だが、

「んあ…んっ…。ん…ふふ…………だめだってば……」

 葉月は恍惚としながらも、艶っぽい苦笑を浮かべつつ、それを押さえつけ、

「んっ…んんっ……んあぁ……」

 なおも智也の身体を舐めつけるように、腰を前後させる。

 だが、その一方で、発する声がある一定のラインを超えないように…息をひそませ、

動きを調節し……

「んっ…んっ!……くぅ…ふ……あ……」

 また、そんな動きに同調するかのように、葉月の内部は収縮し、やわらかく智也の

モノを締め付ける。

「ん…はぁ…っ……あ…んぅ…っ

 智也の身体の上、まさにくわえ込んだ智也のモノを味わうように喘ぎ、乱れる葉月。

 そしてむろん、智也にとっても、このぬるま湯にひたるような緩慢な快感も悪くはなか

ったが…

「………。」

 何もせず、ただ丸太のように転がっている自分が、ちょっとつまらなくなり…

 智也は両手を腰の横につき、葉月に気付かれぬよう、静かに身体を引き起こした。

 ぐいっ。

「え…あ…?ひぁ……っ…んむっ…!?」

 驚き慌てる葉月を、向かい合わせにだっこし…唇を塞いで、

(これなら……へーきだろ?)

 不安げな葉月の眼前、迫る智也の瞳が、そう語り。

 ずん!ずん!ずん…っ!

 次いで、抱きかかえられたまま、突き上がって来る激しい衝撃に、

「んっ…?ア…っ…はむぅっ…んんんんんんんんんんんんんんん〜っ!!」  

 唇をふさがれ、声を封じられたまま、喘ぎ乱れる葉月。

 ぎっぎっぎっ!

 刹那、抱き合ったまま上下する智也の腰の動きに、ベッドが軋み…二人の全身が

激しく揺さぶられる。

 だが、これもそう長くは続かない体勢…智也はインターバルと、様子見を兼ねて、

いったん腰の動きを止め、葉月の震えがおさまるのを待って、唇を離した。

「…っ…ぷはっ…はあはあはあ……い…いじわる………あ……。」

 思わず漏れた、らしくない自分の言葉に葉月の頬がさらに紅潮し…。

 とくん…つぅ〜

 そして、またひとつ、身体の中から、とろり……熱い何かが溢れ出し、繋がる智也の

モノを熱々と濡らした…。

 智也は、そんな、熟しきった葉月の身体の火照りを肌で感じつつ、

「…くすくす…」

 意地悪い笑みを浮かべる傍ら、

(あ…もしかすると……?)

 ふとそこで何かに気付いた。

 そして、思いついた推測を試すために、再度葉月の身体をきつく抱きしめ、

「……え?…あ…や……んむっ…」

 驚きうろたえる葉月に構わず、またしても唇を熱く合わせて、腰を激しく揺さぶった。

「んっ!!んんんんぅ〜っ!んっ!んふぅっ!んくぅっ!」

 暴君にも思える、智也の所業だが、これにはちゃんとわけがある。

 そう、今まで葉月は、敏感すぎる感覚と『声』を抑え込もうとする思いが先に立ちすぎ

て、その上の、より深い快感を『味わう』余裕がなかったのではないか…と。

 ゆえに、それに気付いた智也は、先に達してしまうほどの刺激を送り、一時過敏な感

覚を麻痺させた上で緩やかな動きに変えれば、その余裕を持たせられるのではない

か……と考えたわけである。

 そして、その目論見は、見事に的中したようで……

 若干、勢いを緩めた智也のその動きに、激しすぎる葉月の反応は次第に弱まってい

き……

「んむっ……んはっ!…はぁ……ふ……ぅっん!」

 唇を離しても、葉月の口から先ほどのような甲高い嬌声は漏れず。代わりに…

「あ…あはぁぁぁ……はぁ…はぁ…ぅ…んぅぅぅ……

 深く熱い快感に悶え、身をよじり…ハスキーな女の喘ぎを漏らし始めた。

 かくて、案ずるものは何もなくなり……葉月の『変化』を見極めた智也は、そっと抱き

しめる力を緩めると、再び仰向けに寝転がり……

「んっ…」

 再度…改めて、下から葉月を突き立てる。

「ひあぁぁぁぁ……!」

 ストローク幅の長い、深く力強い上下の動きに……

「あ…はっ…あ、熱…ぅ…んっ…や…す…すご…んあぁぁっ…い…いい…イイッ!」

 変化していく自らの感覚に驚きつつも、身体のより深くに届くような…鈍く…だが鮮明

な快感に、葉月は歓喜に震え、もはや何も躊躇することなく喜悦の喘ぎを撒き散らした。

 そして、

 絡み合い、溶け合い……、いまだ感じたことのない悦びを貪る二人……

 より熱く…より深く…互いに、その悦びの極限だけを求める気持ちが、遠く感じていた

頂を急速に近づけさせ…

 どくんっ!

「んっ…んあ……っっ!と…智也っ!」

「う…く……葉月っ!」

 視界がかすみ、思考は白濁し、恐ろしいまでの快感が二人の身体を駆け巡る。

 いつのまにか握り合っていた手のひらが、痛いほどに固く結ばれ……

 どくんっ!!!

 熱く弾ける智也のほとばしりに…

「…っ!?」

 刹那、葉月の瞳が見開かれ、

「ひ…ゃ…ぅ…ぁ…あ……――――――――――――――――――っ!!!!」

 大きく開いた葉月の口から、声…いや、音にならない絶叫が迸った。

   

 そして―――

「はぁ………ぁ……」

 すぅ〜っと、高みより落ちていくような、心地よい脱力感に包まれながら、しばし、

甘美な余韻を味わう二人。

 瞼の上、舞い降りる睡魔が、より深く心地よいまどろみへと誘い……

 だが、ひとときでも永くこの感覚に浸っていたい…という思いが、かろうじて二人の

意識を繋ぎとめていた。

 そんな中、

 ふと葉月は、智也の胸に横たえていた顔を起こし、

「……ね……」

 額に浮かぶ玉の汗を輝かせ、いまだ火照りがちな…だが先ほどまでとは、どこか違

う、潤んだ瞳を智也に向ける……。

「……ん?」

 そんな視線の真意を探りつつ、やや興味深げな目線で問い返す智也。

「……え…?あ…。」

 すると葉月は、急に我に返ったように…。また、なぜかうろたえた様子で、

「う、ううん…。そ…そう……そ…そろそろ……呼んであげても……いいんじゃ…

ないかな?……って……」

 懸命にその表情をいつもの冷笑に戻しつつ――いまだ残る余韻のせいだろうか…

妙にたどたどしく言う葉月の態度に、

「……???……」

 どこか解せないものを感じ、不思議そうに首を傾げる智也。

 もっとも、それは女性特有の、意味が深いようで浅いような…ともあれ、男には

一生理解できない、不可解かつ不明瞭な仕草であり…さしもの智也と言えど、いくら
     
 よくわからない
考えても解析できないことではあるのだが。

 まあ、これもまた、『ビミョーナオンナゴコロ』の成せる業といったところか。

 そしてまた、そんなことより…智也にとっては、この葉月らしからぬギクシャクした

素振りが妙に可笑しく……またなにより、滅多に見ることの出来ない、葉月の『女の

子』としての部分を垣間見れたような気がして…

「……くすくす…そーだな……」

 智也の口の端が自然と緩んだ。

「………。」

 また、そんな智也の笑みをどー取ったのかは知らないが、一瞬きょとんっとした

葉月の顔が、あからさまに不快な表情に変わり…

「…ん!」

 自分でも気付いているのだろうか…まったくらしからぬ、『フツーの女の子』然とした

ぶっきらぼうな態度で、サイドテーブルより手に取ったコードレスホンを、智也の眼前

に差し出した。

「あ…あはは…」

 そして、こちらもまた、怯んだような苦笑、頭かきかき…『フツーの男の子』に成り下

がった態度でそれを受け取り……それでもなお、送られつづけるムッとした視線を封

じるように、智也はそっとその眼鏡を取り―――

「…(む〜)…。」

 が、それでも葉月は表情を変えず。

 また、初々しくも、今の智也には全くの逆効果だったそんな葉月の素顔に…

「………。」

 智也は………………………………。

    

 窓の外―――

 白々と明け始めた、紫天の中空…未だ昇らぬ太陽の代わりに、傾いた満月がぽっか

りと漂う、ヴィクトリア…真冬の早朝。

 智也は、胸の上…顔を埋め横たわる葉月の頭にそっと手を置き…

 ぴっ…ぴっ…ぴっ……。

 気だるく濁る思考を奮い起こして、ランドリーの電話番号を頭に浮かべつつ、

 コードレスホンのボタンを押していった。

 声を整え、いつもの自分に戻しつつ………。

  

メイプルウッド・ロード#2番外編〜ムーンライト・ヘブン☆〜 完。

-2002.10.2-

 


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