しようね☆]〜すぺしゃるばーすでぃ☆〜
(2)
そして、数十分後…
ばたばた…!
「た…たけあき〜!」
風呂上りのせいだけではない赤さを顔に、パジャマ姿のらいかがリビングに入ってきた。
「……ん?どした?」
俺は、精魂込めて作り上げたローストビーフを切り分けしながら、何気ない顔を向ける。
「……う。」
そんな俺の態度に、一瞬、鼻白むらいかだが、
「ちょ…ちょっとぉ…こ…コレ……これが……プレゼントなのぉ……?」
胸元あたりを押さえつつ、伏し目がちにおずおずと俺に目を向ける。
俺は、吹きだしそうになる思いをこらえつつ、変わらず何気ない口調で、
「ん…?ああ、いや…それはほら、こないだの『お詫び』はいまいちらいかが気に入らなかったよーだから…とかなんとかで、例の3人からのプレゼントだよ……☆」
「え…ええ〜?だ、だったら、あたしに直接渡せばいいじゃないのよぉ…な…なんでたけあきに……ったくもう…あの子達は……ぶつぶつ……」
いまだ赤い顔のまま目をそらしつつ、なにやらめーわくそうに呟くらいか。
だがしかし、恥ずかしそうにしながらも、すでにパジャマの上に浮かんでいるその線と、着替えに行こうとしないところから、まんざらでもないことが伺える。
にひひ…☆こりゃ、あとが楽しみだ☆
などと思いつつも、俺は何気ない態度を崩さず、
「ま…とにかく、座れよ……料理冷めちゃうぞ…」
「あ……☆」
俺の言葉に意識がテーブルへと移り、らいかは途端に顔を輝かせて席に着く。
そして…
「らいか…誕生日おめでと〜☆」
…チンッ☆
二人の手にしたグラスの中で、レモンスライスを浮かべた赤いサングリアが揺れた。
やがて、ささやかながらも楽しい二人のパーティは進み…
「ふ〜、美味しかったぁ〜☆」
満足げにフォークを置いたらいか。
俺は、ささっと手早くテーブルを片付け、本日のメインエンタティナーを冷蔵庫から取り出す。
じゃ〜ん☆
らいかお気に入りの店で買った、イチゴがいっぱい乗った特大のバースディケーキである。
「きゃ〜☆」
料理を見たとき以上の歓喜の悲鳴をあげるらいか。
……む。
ちとフに落ちない点もあるが、それはまあさておき。
ともあれ俺は、その真っ白な台座の上に二十数本ローソクを立てようとし…
…ジロッ!!
睨むらいかの視線で止められ、5本くらいにする……。
ま…とにかく、部屋の明りを落とし、用意していたBGM…俺の時らいかが歌ってくれた河村隆一の『Birthday』をかけようと、オーディをのリモコンを手に…
と、そこで…
「ね…たけあきが歌ってよ…」
揺らぐローソクの向こうから、らいかの声。
………は?
「……へ?」
リモコンをオーディオに向けたままの格好で、凍りつく俺。
らいかはさらに、にこにこ顔で、
「だって…たけあきのときは、らいかが歌ったじゃん。だし…そーゆーのじゃ心がこもってない気がするし…
ね…だから…歌って☆」
「え…で…でも俺……こ…この歌…歌えないし……」
予定外のらいかの申し入れに、まともに取り乱す俺。
「ん…あーいいよ。じゃ違うので…。ほら…はっぴばーすでぃとぅゆ〜♪……なら歌えるでしょ?」
「あ……う……で…でも……その……」
本気で困る俺に、らいかはなおもにこにこ顔で、咎めるように…
「あ…!ほらほら早くぅ…ローソクが溶けちゃうよ〜☆」
………すっごく楽しそーだ……。
…うう〜、くそ……車の中とかで歌うと迷惑がるくせに……。
しかし、ともあれ歌わないと先にすすめないよーだ。
しょ…しょーがない。ちゃっちゃっと済ませちゃうか……。
観念した俺は、意を決し、軽く息を吸い込むと……
「は………はっぴばーすでい…と…とぅーゆ〜♪………」
…しばし……。
ローソクの灯りのみのシーンと静まり返った部屋の中に、ろーろーと俺の調子っ外れな歌声がこだまする……。
………って、マジむちゃくちゃ恥ずいぞ!これわ。
「…はっぴ…でぃ……とぅ……ゆ〜……♪」
まさに消え入るように。俺の声のトーンは落ちていき、にわかに染まりだしたその顔も徐々にうつむいていく…。
するとらいかは…
「あーだめだめそんなんじゃ。ぜ〜んぜん聞こえないし、らいかの顔見てない。
………もっかい最初っからね☆」
…う……うぐぐ……。
まさに砂をかむよーな思いで。苦痛の表情あらわに、顔をゆがませる俺。
訴えるような視線を向けるが、らいかはまるで取り合う気は見せず、両手で頬杖ついたその向こうから、ただにっこりと微笑むのみ……。
……く……くそぉ……(泣)
…ともあれ、それから、俺はその後もらいかの厳しい指導のもと、さらに5、6回歌いなおしさせられ、
……………………。
じょーだんでも比喩でもなく、まさにこの拷問のような時は過ぎゆき…
「ふぅぅぅぅ☆」
もはや半分ほどになったローソクが、らいかの息で吹き消され、よーやく部屋は明るさを取り戻した……。
ぱちぱちぱち☆
憔悴しきった俺の耳に、ひとり楽しげならいかの拍手がこだまする……。
く…くっそ〜、あとで覚えてろ……。
復讐の念を込めつつ、俺はざっくりとケーキにナイフを入れた。