夢戦士伝説・U

六本木心中

(2)

「…さてと、それじゃ話してもらいましょうか…。詳しくね……と、その前にあんたの

名前、教えてもらおうかな…?」

 自らも破れた下着、そしてTシャツを新しいものに変え、服を着終えた少女を品定め

するような視線で眺めつつ、話を切り出す知子。

 ちなみに、大方の予想通り、知子の手渡した服は快活に見える少女によく似合ってい

た。

 ともあれ、知子の問いに少女は、
                             
つきかげ れん
「あ…そっか、ごめん…言ってなかったね。あたし月影 蓮。ご覧の通り、銀狼の属性を
  
 ビーストマスター
持つ獣
  士だよ」
        ビーストマスター            ライカンスロープ   
「へえ…獣 戦 士…ねえ? 獣  人 の間違いじゃないの…?」

 口元に笑みを浮かべ、冷ややかな口調で知子が言う。

「し…失礼ね!あんな伝染病と一緒にしないでよ! あたしはちゃんと自分の意思で

『変身』できるもん!」
                                       
 ビーストマスター
「ふーん。でもその割りには、簡単に元に戻っちゃったじゃない? 獣 戦 士って
                    
 コントロール
のは、変身を自分の意思で完全に制  御できるんじゃなかったっけ…?」

 即座に顔色を変え、なにやら勢い込んで反論する蓮に対して、知子の口調はさら

に意地悪いものへと変わった。


 ライカンスロープ   ビーストマスター 
 獣   人と獣 戦 士…両者共に、特異な条件から獣に変身し、野獣の能力を

得た者たちのことである。

 まず、ここでいう獣人とは、精神に破綻をきたすほどの極度の恐怖などにより、潜在

的に持つ獣の因子―獣性が異常覚醒を起こし、身も心もその獣性に支配されてしま

った人間のことであり、また、蓮が言ったように、先に『獣人』となった人間にその牙

や爪で傷付けられると、その者もやはり同じように『獣人』となってしまうところから、

ある種の伝染病と言えるかもしれない。

 対して、『獣戦士』とは、先天的に獣性の覚醒は済ませており、その後、魔術的影

響などをうけることにより、変身・及び野獣の運動能力を身に着けた者たちのことで

ある。

 また、現在知子が言っているように、前者が己の意思に関係なく変身し、心身ともに

獣そのものと化してしまうのに対し、後者は自らの意思で変身し、変身後も通常の意

識を保ったまま行動できるというのが、両者の大きな相違点である。

 もっとも、獣戦士が、いくら自分の意志で制御できるとはいえ、それにはやはり少な

からず魔力が関わっているわけで、今回のように強い魔力の干渉を受ければ、その

制御がままならなくなることもある。

 そして、もちろん知子にもこの知識はあったのだが、ムキになる者を見るとからかい

たくなる元来の性分がこの言動を生んでいたのだった。

 ともあれ、

「だ、だって、しょうがないじゃん! あたしまだ『獣戦士』になって二年なんだよ! 

 それに、本格的な魔法使いの人とやりあうのなんて、初めてだったんだから!!」

 知子の思惑通り、顔を真っ赤にしながら、口を尖らせて憤然と言う蓮。

 また、いつもなら、ここからさらに追い討ちをかけるところなのだが、それでは話

が進まないので、知子は自分の悪いクセを押さえつつ、

「あはは…わかったわかった。冗談よ。さ…自己紹介の続き続き。年は?」

「ふん、17! そっちより五つも若い『花のせぶんてぃ〜ん』! ったく…やっぱ、

ウワサ通り性格悪いね。知子さんって…」

 蓮はふてくされながらも答え、精一杯の復讐として年の違いのところだけわざと強調

するように告げた。

 一方、昨今気にし始めたところをモロに指摘され、知子はあからさまに不快な表情を

示し……

「ぐっ…わ…悪かったねオバさんで……って、え?あんた何であたしの事知ってんの

…?」

 だが、それ以上に蓮の発言は驚愕に値するものであり、知子はまともに顔色を変え

た。

 そう、なぜ初対面である蓮が自分のことを知っているのだ…?

 そんな訝しげな表情を見せる知子に、
                 
 マ チ
「ええ…? やっだなぁ、夜の東京で『天野知子』の名前知らないヤツなんていないよ!

なんてったって、残した伝説が凄すぎるもん! ほら、渋谷のクラブでのあの話とか…
           
こ ろ
…あ。知子さんの時代はディスコって言ってたっけ…」

「…………。」

 あきらかにトゲのある蓮の口調に、知子の猫目が吊り上がる。

「…あ、ちょっと怖いよその目…。ま、いーや…で、ラスカラだっけ…?店の名前。あそ

こで八時間連チャンぶっとおしで踊り狂ったとか…逆ナンでオヤヂに一晩で二百万

使わせたとか……」

「ちょ…ちょっと、も、もういいわよ」

 あまり自慢できるものではない自分の過去を露呈する蓮に、知子は慌てて制止をかけ

る…が、

「…あと、六本木で女グセの悪いタレント引っ掛けちゃ、プロダクションにフライデーネタ

吹っかけたりとか―――」

 その声は蓮の耳には届いていない。指折り数えながら、さらに知子の残した数々の

『伝説』とやらを語り続けている。

「ったくもうっ!あんたいいかげんにしな……」

 たまりかねた知子は声を荒げ……だが、その瞬間、蓮は急に真顔になると、

「……しかーし! その実態は、世の人の精神を脅かし、世界を滅亡へと導かんとする
                 
ドリームマスター
『夢魔』の軍団と斗う十二の『夢 戦 士』がその一人…」

 まるで括りに入った講談のくだりの如く語調を高めた。

 なんだか、どこからともなく、扇子を叩く音が聞こえてきそうな雰囲気である。

「…っ!?」

 驚き、たじろぐ知子。

 蓮は、軽い笑みを浮かべてひと呼吸入れ、なおも続ける。

「…その力、禁忌の魔術…暗黒を源とせんとするも、その心は深淵なる正義の下にあ

り!
                                      
あまの ともこ
 …魔を以て魔を制す黒き魔導士……人呼んで、闇の狩人こと『天野知子』。

 ここに見参!」
                       
のたま
 蓮は最後のくだりを小気味良く一息で宣うと…

「…ってなところかな?」

 ひととき、間を置き、上目使いで知子を見つめてにやりと笑った。

「……………。」

 呆れ半分驚き半分で、さすがの知子も開いた口がふさがらず、その困惑は、しばしの

間、声が出せないことで表現された。

 いやまあ…口上の出来不出来はともかくとして、目の前の少女『月影蓮』…彼女はい

ったい何者なのか…。なぜこうも自分のことを知っているのだ?
           
ドリームマスター
 しかも、自分が『夢 戦 士』と呼ばれる常人とは異なる人間だというまで………。

 知子の頭脳は困惑に包まれながらも、論理的に少女の正体を導き出そうと考察を始

めていた。

 ビーストマスター                              あたしら
(『獣 戦 士』になって二年…十七才…『夢戦士』を知ってる……)

 少女にまつわる情報が知子の頭の中で目まぐるしく紡ぎ合わされ……

 そして、

「ま、まさか……」

 とあるひとつの解答が知子の頭に導き出された。

「……で、でも……」

 だが、それを確認するには、一抹のためらいと、重くのしかかる自責の念を抱かずに

はいられなかった。
                       
ちから
「え…えっと……じゃあ、あんたのその能力はやっぱ、あたしらが戦ってる最中に呪文と

かの影響を受けて……?」

 意を決し、話を切り出す知子。

 だがそんな知子の様子とはまったく対照的に、蓮はいともあっけらかんと答え始める。

「うん。だって、空間転移だの、超気象変動だの、大規模原子配列変換なんかをあんな

に派手に、それも短時間にやっちゃあね…。そりゃ、周りの環境とか生物に影響が出な
                             
ここら
い方がおかしいってもんだよ。その証拠にほら…港区一帯は大森林になっちゃったし…

 新宿からどこら辺までか知らないけど、あの辺は砂漠になってるし……」

「………」

 知子の顔が曇る。が、蓮はそれに気付かずに続けた。

「あー、それにね、東京…ううん日本だけじゃないみたいだよ。おかしくなっちゃたのは。

こないだ会った、空間転移で飛ばされてきたってアメリカ人なんかの話じゃ……

 ん……?あれ…知子さん…?」

「………………ごめん…」

 視線を虚空に流し、呟くような低い声で知子は告げた。

「え…? あ! ちが…や、やだな、あたしそんなつもりじゃ……」

 遅まきながら、知子の心情を察した蓮は慌ててとりつくろうが、知子はそれに対し、

苦笑で応えただけで、再び視線をそらせた。

「ち、ちょっとぉ…、あ、あたし、知子さん達を責めてるわけじゃないよぉ…。

 だって、知子さん達がいなけりゃ、地球ごとなくなってたかもしれないんだし……

 まァ…クラブとかで遊べなくなっちゃたのは、ちょっと寂しいけど…。

 でもさ!あたしは結構気に入ってるんだよ、こういう生活。ワイルドでさ…それに前
                
シルバー
のサビてた茶髪よか、この銀髪の方がカッコイイし……」

 知子の前でくるりと回って、誇らしげに白銀の髪をなびかせる蓮。

 風に乗ってふうわりと蓮の甘い香りが漂う…。

「…あは、いいよ、気を使わなくて。あたしも別に間違った事したとは思ってないから…。

 けど……ね、やっぱりこうあからさまに出ちゃった影響の大きさを見せられるとね…

いっくら図太い性格のアタシでも…ちっとは落ち込むんだわ……」

 蓮の意を汲んで、努めて明るくふるまう知子。だが、笑みの合間に見せる哀しい瞳

が決して少なくはない落胆を顕著に表していた。

「知子…さん……」

 そんな様子から、蓮もかける言葉を失い、重い沈黙が木立の中に落ちる……。

 風になびく木々の葉ずれが響く森の中……

 知子は自分でも気付かぬうちに、あの二年前の惨劇に想いを馳せていた。

  

 始まりは、いまわの際にあった老人の夢だったという……。

 あるはずのない偶然…いや、決してあってはならない偶然が重なり、その怪物は

夢という名の混沌より這い出してきた……。

 その怪物は『夢魔』といった。

 夢魔…それは夢を操り、悍ましき悪夢や妖しい淫夢を見せる魔物である。

 この魔物の好物は生けとし人の精気であり、古来より、夢魔に取り憑かれた者は、

恐怖や快楽によってその精神を破壊され、やがては死ぬまで精気を奪い取られるとし

て恐れられてきた。

 だが、数年前、ある特殊な条件にて生まれ出で…人類を恐怖のどん底に陥れた怪物

、『夢魔』とは、古来より伝えられしその同名の魔物を遥かに凌駕する恐るべき能力を

持った存在であった。

 その能力の最たるものは……悪夢の具現化。

 つまり、伝承によれば、夢魔とはその糧である人の精気を食らう際、邪魔になる人

の理性を取り除くため、夢という人の想像の世界を操作し、強制的に恐怖や快楽を覚え

させる――いわば、悪夢を見せることによって精神を破壊するものであったが、ここでい

う『夢魔』は、より多くの人間の精気を搾取するべく、操作し見せる悪夢をさらに現実の

ものとして、実体化させる能力を持っていたのだ。

 そう、人の理性を崩壊させるもっとも分かりやすい形…恐怖の形をとって……。

 即ち、実体化した悪夢とは、人の想像上の架空の生物…それまで伝説や物語の中で

のみ存在し得た異形の怪物や魔物だったのである。

 かくて……

 人類全てにとって、覚めることのない悪夢が始まった。

 人類の繁栄の象徴ともいえるあらゆる建造物は、突如割拠した身の丈十数メートル

はあろう巨人のその振り下ろす拳でいとも簡単に粉砕され……

 そんな突然の狂った光景を目にわけもわからず逃げ惑う人々の前には、人型をし

ながら人ではない、おぞましき妖魔の群れが立ちはだかり、邪悪な笑みを浮かべて襲

い掛かった。

 さらには、幾多の伝説にある、小山ほどの巨大な体躯を持つ竜が数多く飛来し、その

吐き出す息が高熱の炎の形を取って大地を焦土と化し、より多くの命を奪っていった。

 もちろん、人類は己が文明の編み出した数々の武器を用いて抵抗を試みた。

 しかし、人の扱える最強の武器、原子の炎を以てしても、押し寄せる『夢魔』の軍団を

止めることはできず…いや、そればかりか、そんな凶悪かつ融通の利かない兵器の

乱用は、さらに新たな焦土を作り出し、より多くの同胞の命を奪い……

 そう、皮肉にも『夢魔』の策略を後押しするように、さらにあまねく恐怖を呼ぶ結果と

なっていった。

 こうして、死が日常となり、うずまく叫喚と累々たる無残な骸が転がる、まさに地獄と

化した人の世。

 かろうじて生き延びた者たちも、とめどない魔物の軍勢に抗ずる術はなく……

 恐怖と絶望に覆われ、脆くなった精神はことごとく、また容易に『夢魔』に支配されてい

った。

 そんな止まることのない異形の怪物達の殺戮と破壊、また尽きることのない『夢魔』の

無限の欲望の前に、人々の運命は死…あるいはその肉体の寿命が尽きるまで、精気

という養分を『夢魔』に捧げるだけのこの世でもっとも脆弱な存在となりえ―――― 。

 だが……

 その一方で、この惨劇を憂い、暴虐の限りを尽くす『夢魔』の前に立ち塞がる存在が

あった。

    

 精神界と呼ばれる世界がある。

 それはいわば、時空の狭間に浮かぶ、人の心や夢などの形を持たない精神体の拠

り所…すなわち、人の思う気持ち――想像力によって成り立っている世界。

 加えて言うなら、この恐るべき魔物『夢魔』が、かつて『在った』世界でもあり、そこに

は善も悪もなく、いや…言い換えれば、人の思う数だけ、善も悪も平等に存在し、入り

混じる両者の思いが自由気ままに体を表す世界であったといえるだろう。

 さて、ところが現在、人の世で『夢魔』が行っている暴虐がこのまま続けば、どういう事

になるか。

 怪物共の手によって命を絶たれた者はもちろん、『夢魔』に身体を乗っ取られた人間

は精神を崩壊され、『思う』という心の動きを失っていく。

 どちらにしろ、人の根絶は免れない。

 これは、人が『思う』ことによって成り立っている精神界にとって、自らの存続に関わる

由々しき事態であった。

 そこで、精神界では強者を集い、人の住む物質界を守るために、『夢魔』の討伐を決

したのである。

 とはいえ、あらゆる物が定められた形を持つこの世…物質界において、あくまで虚ろ

な思念体である彼等は、突然変異によって新たな存在となった『夢魔』とは状況が異な

り、その存在自体が不安定であったため、精神界では思うだけでその思念が直接『力』

となった彼等の強大な力もこの世界では満足に発揮できなかった。

 このため、彼等はこの世界でその存在を安定させ、なおかつ彼等の持つ見えざる

力を確固たる形として具現化させねばならず―――。

 ゆえに、彼等は人という生命体の精神面に入り、心の中から呼び掛けることによって、

彼等の意思を伝え、その強大な力の源を授けることとした。

 物質界において確固たる存在である人が自らの意思でその力を行使せんとすれば、

彼等の持つ虚ろな、しかし強大な力もやはり確固たる形を以て発揮できると考えたから

である。
                                 
ドリームマスター
 そして、その選ばれた人間達こそが、知子たち、後に『夢 戦 士』と呼ばれる十二人

の少年少女たちであった。

 だがむろん、突然心の中に別の意識が入り込み、訳の分からぬ怪物と戦え…など

と告げられ、それをすんなり快諾し受け入れる人間はいないだろう。

 知子を始め、他の選ばれた者たちもまた、突如課せられた運命に戸惑い躊躇し、或い

は拒みもした。

 だが、この世界の誰かが『夢魔』と対峙しなければ、世の人間の精気は全て『夢魔』

に食い尽くされ、世界は滅んでしまうのだ。

 それになにより、『夢魔』が自らの脅威となる存在を許すはずもなく―――

 精神界より訪れた『彼等』が知子たちの心に入り込んだ時点で、『彼等』の意識がこ

の世界で具現化したこととなり、その気配を察知した『夢魔』が知子たちに向けて、前述

にもあった人の想像力より生まれる怪物たちを差し向けたのだ。

 こうして、わけもわからぬまま…だが、迫りくる危機に己の生命を守るべく、戦いを余

儀なくされた知子たち若き夢戦士…。

 多分になしくずし的ではあるが、それでも知子たちは自らに課せられた過酷な運命に

躊躇しながら、その授けられた強大な力を用いて『夢魔』の繰り出す怪物たちを次々に

撃破していった。

                       も の
 やがて、その秘めたる力が、全ての存在にとっての巨大な邪悪、『夢魔』に及んだと

き…

 あの最後の死闘、最終決戦の火蓋が切られたのだった。

  

 それはまさに言語を絶する、熾烈を極めた戦い。

 燃え盛る紅蓮の炎が天を焦がし……、大地は紙のように引き裂かれ……、

 凍て付く大気があらゆる物を塵と化し………。

 両者の繰り出す巨大な力は、この地球という狭い舞台の上でまともにぶつかり合って

いった。

 そして……

 ……どのくらいの時が経ったのだろうか…。

 一瞬の静寂…。

 その後、大地を震撼させる絶叫が全世界に響き渡った。

 それは、恐るべき存在、『夢魔』の断末魔……。

 終わった……。

 そう、夢戦士たちは『夢魔』という巨大な脅威を打ち倒すことができたのだ。

 …………だが、

 その代償はあまりにも大きいものであった。

 人智を超えた強大な力のぶつかり合いとなったこの戦い。

 両者の繰り出した極短期間においての激しいエネルギーの流出・及び衝突は、この

地球という天体の存続を揺るがすほどの甚大なるダメージをその地表に与えていた。

 これにより、星自体が受けたダメージより回復しようとする力…地球的規模における

治癒機能が働き、その反動で、地形や気象の大規模な変動が起こり、世界各地で考え

られない自然環境が出来上がってしまったのである。

 その結果、世界の人口は、以前のおよそ数百分の一にまで減少し、むろん多くの建造

物はほとんど見る影もなくその原形をとどめてはおらず……

 さらに、その多くは『夢魔』と共に葬られたものの、先に知子が遭遇した『コボルド』の

一団のように、難を逃れ生きながらえた異形の怪物の姿も決して少ないものではなく、

そんな環境の中、かろうじて生き延びた人々も過酷な生活を強いられることとなった。

 そう、恐怖がついえ、人々の心に安息が訪れたわけではなかったのである。

 知子は思う…。

 夥しい人の命を奪い、長い年月を経て培われた文明を瞬時に崩壊させたこの勝利。

 果たしてこれが本当に勝利と言えたのであろうか……。

「………………。」

 馳せる思いは無限に伸びてゆき、これまでに何度となく行ってきた深い謝罪と哀悼の

意を込め、知子は静かにその両目を閉じた。

  

(3)へつづく。

 

 

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