夢戦士伝説・U

六本木心中

(7)

「いい…? じゃ、話、元に戻すわよ。

 それで、死にもの狂いで…辛い思いまでして、あんたが守った人達はどうしたの…?」

 蓮が落ち着きを取り戻したのを見計らい、尋ねる知子。

 そして、蓮は言いにくそうに口をもごもごさせつつも…だが、努めて即答した。

「……え…えっと………その…さらわれちゃった……」

「あぁ…?誰に?」

「どこによ?」

 当然の疑問が、勇太郎と知子、二人の口から同時に発せられる。

 また、もちろん蓮にも、即座にこの質問が返って来るのは予測できただろう。

「…う…う〜ん………二人ともちょっといい…?」

 蓮は答える代わりに、席を立ち、出入り口の扉に向かう……。

 なるほど、答は外にあるようだ。

 知子と勇太郎は無言でそれを承知し、蓮の後に続いた。

    

「ね、知子さん、勇太郎さん、こっから先の景色さ、何か違和感感じない?」

 家を出てすぐ左……元、六本木の大通りを東へ、蓮は指を差す。

 かつて街だった頃の名残であろうか、一応以前の道の通りに森は開けており、

蓮が示す先は、さしずめ手入れの行き届いてない並木道然とした景色が広がっていた。

 まあ、違和感と言えば、何もかもが『違和感』なのだが……『こう』なってしまった現状

を考えれば、とりたてて不思議なところはなく、

「ん〜……?」

「そう…言われても…ねぇ……」

 道なりに広がる青空を見上げつつ、二人は揃って首を傾げる。

「う〜ん…そっか、(夜の街の)帝王と女王でもわかんないか……ま、こんだけ地形が

変わってりゃ、無理ないけどね……」

 困惑する二人に、蓮は頭を掻きつつ、

「じゃあさ、知子さん、この先に魔力かかってんの分かる…?」

「え…、ああ、……んっ…と……」

 蓮の言葉に頷き、軽く念を集中する知子。

 すると確かに、微かではあるが、前方に魔力のわだかまりを感じ…

「ふ…ん、幻術ね。なる…この先に何か見られたくないものがあんのね。

 ……でも、蓮、あんたよくわかるね〜。魔法使えないくせに……」

 知子は眉をひそめつつ、横目でちらりと蓮を見る。

「え…? だってあたしは……」
        
  ヴィジョン
「あ…そっか、『真実の眼』の力があんだっけ、『銀狼』には。」

 『銀狼』の眼には幻を打ち破り、真実を見透かす能力が備わっているのだ。

 ともあれ、知子は納得したような顔になって、再び前方にある偽りの景色に対峙し、
         
コイツ
「ま、とにかく、幻術をなんとかしなきゃ、話になんないわね」

 面倒臭そうに頭を掻きつつ、呪文の詠唱に入った。

 『…円盤に満つる亡者……絶えざる苦痛と憎悪を以て……

 にわかに…

 …ぞぞ……っ…。

 周囲に背筋が凍るような霊気が満ちる。また、間を置かずに空間から黒いモヤの

ような物が染み出だし……やがてそれは渦巻いて、知子の周囲に十数個の黒い円

を描き出していく……。

「へ…? も…亡者……って、ちょっと、勇太郎さん、な…何かやばそうな呪文だけど、

だいじょぶ…なの……?」

 突如発顕した、ただならぬ気配と異様な光景に、ちょっと引いた様子で勇太郎の服

の裾を引っ張る蓮。

「え?ああ、でーじょぶだよ。あいつの魔力は暗黒に属するもんだから、呪文は結構

おどろおどろしいもんあっけど、ようは……ホレ、あの黒いフリスビーみてーのが吹

っ飛んでって、狙った目標切り裂くだけだから」

 対して、勇太郎はこともなげに応え、知子の周囲に生まれた黒い円盤を指差した。

「ふーん。ならいいけど……って、あ、そうだ、あたしさっきから思ってたんだけど…、

 知子さんの唱えてる呪文って、あたしたちにもわかる、日本語…だよね? 

 あたし魔法の呪文ってもっと意味不明の言葉が並ぶもんだと思ってたけど……」

 少し安心したような顔になり…また、かねてよりの疑問を口にする蓮に、

「ん?あー、そんなことはないみてえだぜ。ま…俺にはこむずかしい理屈はわかんねー

けど……何でも『呪文』ってーのは、自分の中にある魔力を引き出す鍵みたいな役割

持ってんだと……。んだから、その自分の持つ魔力に合った鍵…まあ、呪文っていう

意味の乗った言葉を唱えることで、その魔力の扉を開けて、魔法の効果になって現れ

るっつーワケだ。

 んで、結局、開ける扉は自分の中にあるわけだから、自分が一番理解しやすい言葉

で唱えんのが…………あん…?」

 そこまで言って、勇太郎は口をつぐむ。呪文の詠唱を中断した知子が、疎ましそうに

こちらを睨んでいたからだ。

「……あのね……ちょっとあんたら、横でごちゃごちゃうるさいよ。飛距離出さなきゃな

んないから、コントロールが難しいってのに………。

 いい?制御に失敗したら、あんたらんトコに飛んでくかもしんないかんね……!」

 あからさまに、迷惑そうに言う知子。またその周囲には……

 ヴンッ…ヴヴンッ……!

 奇怪な異音を伴い、高速で回転し浮遊する十数個の漆黒の円盤……。

 本来は、物理攻撃の効かない精神体の怪物にも有効な攻撃呪文であり、だからこ

そ、このような場面でも使える呪文であるのだが、むろん物理的な破壊力もあり、見

た通り、こんなものが直撃したら、ただではすまないだろう……。

『………。』

 勇太郎と蓮、二人の頬に一筋の汗が流れる。

「……ま…まぁ、魔力のねえ俺たちには関係ない話だ。」

「…そ…そだね……」

 そしてほどなく、知子の呪文は完成した。
 ザスト・ノワニール
「黒翼乱円舞!」

 目標に向かい、両手を指し示す知子。それに従い、制御から解き放たれた十数個の

黒い円盤たちが次々と、宙を疾る。

「………よし。この辺ね。」

 距離にして、200メートルほど前方。

 間もなく、黒い円盤たちは幻術のかかっている辺りに逹し、知子のコントロールによっ

て、その周辺を飛び交い、なにもないはずの空間を切りつける…

「……お?」

 そして、勇太郎の眉が跳ね上がるのと同時に、

 まるで景色の映像が投影されたスクリーンが切り裂かれるがごとく、目の前に広が

る青空、そして木々の景色に亀裂が入り、やがて幻術による偽りの空間が崩れ落ち

――。

 現れた真実の景色……。
         
 現 在 地
 広がる青空。六本木から東の方向に続く並木道然とした道……

 …はて………? 

 それまでとあまり変わりばえしないようであるが………。

「………へ……?」

「………あぁ?」

 唯一変化のあった、ただ一点を見詰め、知子と勇太郎は驚愕の声を上げていた。

 そう………あるはずのない『もの』が、そこにあったからだ。

 この有名すぎる建造物の名を知らぬ者は、おそらくいないだろう……

 言わずと知れた、首都東京のシンボルであり――

 地上333メートルの高さを持つ日本一の電波塔――――

 ―――東京タワー。

 それは、かつてとまったく変わらぬ外観のまま、そこに立っていた。

 広がる森の中、あたかも一際高くそびえる巨木のように。

『…………………………………。』

 有り得ない光景を前にして、呆然と立ち尽くす知子と勇太郎。

「…え……あ……お、おい……こ…これも幻術か…よ……?」

 震える指先で前方を示しながら、勇太郎はやっとの思いで言葉を口にする。

「ううん…ちがうよ。アレは正真正銘、現実の、現在の東京タワーの姿だよ」

「ば、バカ言ってんじゃねえよ! 俺らがあんだけ派手にドンパチやって、あんな細っけ

ーモンが無事ですんでるはずねえだろが!」

 努めて冷静に応じた蓮に対し、勇太郎は多少興奮気味に詰め寄った。

 一方、知子は、

「な…なるほど…ね、空間変異と強力な結界の二重効果でエネルギーの衝突を回避…

したのか…、後は広範囲の幻術でカモフラージュして……
                        
 オヤブン
 ふ…ん、『マリオネット』の奴、土壇場で『夢魔』裏切って、保身に回ったって…訳…

ね。」

 未だ、驚きの表情を見せつつも、頭に浮かんだ確信に近い推測を口にする。

「なっ? マ、『マリオネット』…って、あの……」

 それを聞き、さらに顔をこわばらせて向き直る勇太郎に、
                  
 ガキピエロ
「そーよ。あの…底意地の悪い道化師よ。こんなコトができんのはアイツくらいっきゃ

いないわ………。」

 雄々しくもそびえ立つ目の前の塔を凝視したまま、知子は重く低い声で言った。

 額から流れ出た一筋の汗が、彼女の頬をつたって落ちる。

「じ…じゃ、あのぼうずたちの親父さんやおふくろさん、さらったのも……」

 重ねて尋ねる勇太郎の顔は、血の気すら引いていた。

「多分…ね。そうでしょ……蓮?」

「う…うん、まあ、あたしは…その『マリオネット』っていうの知らないけど…みんながあそ

こに連れてかれたのは確かだよ。………でも、そんなにやばい相手なの?」

 二人のただならぬ様子に声を出しかねていた蓮だが、知子に問われ、答えると共

に疑問を口にした。

 圧倒的な力を持つはずの夢戦士である二人を怯えさせる存在、『マリオネット』とは

一体…?

「ああ、『夢魔』が直接下に置いた八人の…いや、人っていうか匹ってゆーか……
                          
 ガ キ
ま…いいや。そのうちの一人でよ。見かけは子供がピエロの格好してるみたいな奴な

んだけどよ………ある意味、『夢魔』よりやっかいなヤツかもな。目的がはっきりしね

え分、何考えてんだかわかんねえし……そのうえ、魔力は知子たち六人の魔法使い

ひとりひとりに匹敵するしよ。………あ、今はそれ以上か……」

「そうね、でも……」

 蓮の問いに答えつつ話を振る勇太郎に、腕組み、目を閉じ重々しくうなずく知子。

「でも…?」

「なんだよ、知子? 何かいいテがあんのか?」

 真剣な表情で口々に尋ねる蓮と勇太郎に、知子はゆっくりと顔上げ、片目をつぶっ

たまま、

「勇太郎、あんた……解説、うまくなったね。なんか純輝みたい☆」

「っだああああああっ! 何言ってんだよ?この緊迫したムードのときにっ!!」

 場違いな知子の物言いに、頭をかき乱して気色ばむ勇太郎…だが、

「……だって、マリオネット相手に緊迫したムード作ったってしょうがないじゃない…

 人が困るトコ見たくて人類滅亡に手貸してたような奴なんだよ……って何よ、蓮?」

 知子は眉をひそめて応じ……またそんな彼女の服の裾を引っ張る蓮が、

「ねえねえ、『純輝』って、あの神谷純輝さん…? 雷電の知将、光の戦士…の?」

 『神谷純輝』…やはり、夢戦士の一人で………と、今回は登場もなくあまり関係ない

ので、説明は省かせていただく…。

「そ…そうだけど…? …って、そうだ、聞こう聞こうと思ってったんだけど、何であんた
     
 あたしら
そんなに夢戦士のこと詳しいわけ…?

 …言っとくけど! 実はあんたが変装したマリオネット…つーオチはナシだかんね。」

 なにやら喜々として、口を挾んだ蓮に対し、知子は訝しげな顔を向けた。

「くっくっくっ……実は……って、そんなわけないじゃない……あ。勇太郎さん、ちょ…

ちょっとぉ、そんな身構えないでよ。…MOよMO! 」

「MO?」

 一方、顔色を変えた勇太郎のことなど気にもかけずに、知子は聞き返す。

「うん。恭介さんのポッケに入ってたの。なんか、知子サンたちのプロフィールみたいの

が入ってるヤツ……」
    
 まどか
「ああ、穏香がシャレで作ったアレね……でも、あんたパソコンはどこで…ってよりも

そういや、あんたン家、電気通ってたみたいだけど……あれは?」

「ああ、あれは車のバッテリーかき集めてきたヤツとか、自作のソーラーシステムとか
                 
 まどか
…だよ。こう見えても、あたし、穏香さんの後輩だから……」
 やまむら まどか
 『山村 穏香』…卓越した頭脳を持つ、彼女もまた夢戦士の一人であるのだが……、

やはり残念ながら今回出番はなく、純輝同様…説明は省略する。

 ともあれ……
          
    西東京工業大学付属高校
「…後輩って、じゃお前…西 工 大 付 属か?」

「へええ、じゃ、頭いいんだ? ほんと見掛けによらないわねー」

「そ。まあ、穏香さんみたいに優秀じゃなかったけどね…それに、年違うから、

同じ校舎に通ってたわけじゃないし……まあ、穏香さんの名前は有名だったけど、

実際に顔見たのはあのディスクの中の画像で初めてだったんだけどね……」 

 口々に感嘆の声を漏らす二人に、頭掻きつつ苦笑を浮かべて答える蓮。

 一方、なにやら、またもズレていってるような三人の会話に、

 ………。

 彼らの背後…遥か梢の彼方では、当の問題であるはずの東京タワーが、何か寂し

げにそびえている……。

 が、まあ、それはともかく……   

「ふーん、けど…写真も入ってたんか、アレ……?」

 胸ポケットから取り出した煙草をくわえつつ、もはや世間話然とした口調で尋ねる勇

太郎に、

「うん、デジカメで撮ったらしいのが。全員分と……」

「そーね。ま…でも、あくまでシャレで作ったヤツだから、夢戦士の核心に触れるような

事はほとんど……」

 勇太郎の問いに、ほぼ同時に答える蓮と知子…だが、

「あ…そーそー、そーだ☆それに…知子さん?…知子さんの……くふふ…

「…入ってないはず……だ…し………………」

 言葉途中で、知子は蓮の含み笑いの意味に気付き、

「……って、あああああーっ?!」

「ど…どうした、知子?」

「み……………見た…の?」

 驚く勇太郎を無視し、押し殺した声でおそるおそる聞く知子。

「うん☆”TomokoSnap”ってフォルダに入ってた。……だめだよ〜、知子さ〜ん、

あーいうのは、ちゃんとセキュリティかけとかなきゃ……」

「え…☆なんだなんだ?」

 ゴシップを嗅ぎ付けた記者のような顔になる勇太郎に、

「あのね……知子サンの、悩殺………」

「…っだああああああああああああ〜!」

 やおら大声を上げ、勇太郎に耳打ちする蓮の言葉をかき消し、蓮にすがりつく知子。

「ちょ…ま、マジかんべんして。け…消しにいこ……ね、今すぐ!」

 だが……

「ええ〜?」

「でも…なあ?」

 珍しくうろたえる知子がよほど面白いのだろう、蓮と勇太郎はにやにやと笑みを浮か

べ、まるで取り合わない。

 顔をうつむかせた知子が、何か呟いたのも知らずに………

 そして……
     
アヴォ・レビュー
「………降魔従隷印……。」

  

「……くす☆ もお…やだあ、あたしってば あ。こんなポーズも? 若〜い!」

 一人、蓮の家の中に戻り、何やらはしゃいだ様子で頬を赤らめ、ノートパソコンのキー

を叩く知子。

 画面には、画像ビューアソフトが開かれており……グラビアアイドル然とした、しどけな

いポーズを取った十七、八才の頃の知子の姿が次々にスライドされている。

 一方、窓の外では、

 ぼがぁぁぁん!

「きゃああっ!このっ!このっ!このぉっ!!……もう! 勇太郎さんのうそつきっ!

知子さん呪文唱えてなかったじゃないっ!」

「だああああ!爆空砲!! だっ、だから、言い忘れたけどっ、簡単な呪文とか加減しなく

ていい奴は……ちぃっ! イメ−ジだけでできちゃうんだってよっ!」

 …どどぉ〜ん!

「はっ!つあっ!…ちょっ…そんな大事なことっ、言い忘れないでよっ!」

 …ばごーん!!
                                      
 レッサーデーモン
 怒声と罵声を口々に。勇太郎と蓮が、知子に召喚された十数体の下級魔族と切り結

んでいた。

 勇太郎の放つ技の轟音が、蓮の上げる奇声が、時折知子の耳をつき、

「もう! るさいわねぇ。人がせっかく……」

 眉をひそめ、二人の奮闘ぶりをなんとも迷惑そうに眺め見る知子。

「………ま、でも…そろそろいい加減にしないとね。あいつら相手じゃデーモンもそんな

に持ちそうにないし……」

 だが、呟く言葉どおり、確実に対峙する魔族の数を減らしていく二人の力量から、確か

にいつまでもノスタルジック(?)な気分に浸ってる場合でもなく……

「しゃあない。んじゃ、若かりしあたしよさらば!……って、やっぱ勿体ないから、パスか

けて取っとこ〜っと。………ん?……うあ。こんなのも撮ったんだっけ〜?」

 閲覧を中止し……だが、開いた設定ウインドウの向こう側で、年不相応な下着を身に

着け、悩ましいポーズを取り、妖艶な笑みを浮かべる自分の姿を見入った。

「…あ。そっか………イザとなりゃあのテが……」

 刹那、渋い表情になり、なにやらつぶやく知子。

 叩くキーの音が一瞬止まるが……

「……いやでも……いくらなんでもアレは……使うワケにはいかないわよね……」

 直ぐに思い直し、画面上に重なったウインドウを順に閉じていき、

 ぱたん……。

「さて」

 立ち上がる動作で、ノートパソコンの蓋を閉じ、知子は外へ向かった。

   

 そして……
          
 かお
 固い決意をその貌に。

「…何の罪もなき人々の胸に混乱と困惑を植え付け……あまつさえ、その尊厳を凌辱

し、仲睦まじき親子の情愛を引き裂く魔物……マリオネット! 待ってなさいっ!!」

 風に髪などなびかせつつ、凛とした声を轟かせ、

 びっ! 

 木々の向こうに聳える東京タワーを指差す知子。

「天に代わってこのあたし、人呼んで、魔を以て魔を制す、美しくも黒き天才魔導士……

…」

 と…ここで知子は言葉を止め、その決意の表情を崩し、なにやら困った顔になって背

後の蓮に振り返った。

 むろんのこと。知子が目線を向けた先には、レッサーデーモンを全て打ち滅ぼし、肩

で息する蓮と勇太郎がへたりこんでいる。

「…で、この後何だっけ……蓮?」

「はあはあ……しっ、知らないよっ!それになによ!その『美しくも…天才』ってのわ

っ!?」

「ば…バカヤロっ!!そんなことよりっ!てめ、知子っ、なんてことしやがんだ!?」

「へ…?ああ、やーねえ、何怒ってんのよぉ〜二人とも?いーじゃん…決戦前のちょ
     
ウォーミングアップ
っとした準備運動だと思えば……」

 口々に怒声を上げる二人に、手をひらひら振ってさして悪びれもせずに言う知子。

「………ほぉ〜……」

「…準備運動…ねえ…………」

 火に油を注がれ、二人の殺気が膨れ上がる。

「………あ…あははは………」

 耐えきれず知子は、引きつった笑みを浮かべ、踵を返して再び東京タワーの方へ向

き直り、

「と…ともかく、じゃ、行くわよ! 目指すは魔の塔へっ!!」

『……いいかげんにしろぉぉぉっ!!』

 二人の怒りが炸裂し、さらに出発が遅れたのは、もはや言うまでもない……。

  

(8)へつづく。

 

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