甘い欧州旅行

      インキュバス
第八章「牡夢魔
〜エーゲ海に捧いじゃって…

 

(1)

「んああああぁぁぁ〜〜っ!」

 上体を大きくのけ反らし、後ろ手にシーツを握り締め、達していく美恵さん。

「くぅっ!」

 にわかに襲いかかる強烈な収縮感に耐え切れず、俺もまた果てゆき……放散された

女の香りに包まれるように、彼女の上に折り重なっていく。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

 頭上から舞い降りてくるような甘美な余韻に酔いしれるまま、俺たちはまどろみの中へ

溶け込んでいった………。

    

 ……とまあ、いきなりな展開だが、

 ここは、神々の住まう国ギリシア――その首都アテネ。

 透けるような青空と輝く太陽……

 真っ白な壁が連なる町並みには、豊潤なオリーブの香りが漂い、

 どこからか耳に届くハープの調べ。

 そして、見下ろす丘より望むは、碧く美しいエーゲ海……。

 そんなものを想像し、俺がこの旅で、かなり楽しみにしていた所である……のだが。

 ………ええ〜っと……。

 だがしかし、俺の想像と現実のアテネはどこか…いや、かなり違っていた。

 空路にてウィーンよりアテネに入った俺たち一行。

 観光用リムジンバスの窓から目に入ってきたのは……

 冬枯れの空はどんよりと曇り、立ち並ぶ近代化されたビルディングに、寒々とどこか煤

けた感さえ覚える町並み。

 …………え?あれ……?ここ……どこ……?

 まこと肩透かしをくらったよーな気分になり、

 市内観光の最中…話が違うぞ然とした顔で、添乗員の洋子さんを見やれば。

「ん〜〜まあ、なんか期待膨らませ過ぎて、キミみたいにがっかりするひと多いけどね。

一応首都なんだし、こんなもんよ…アテネは。しかも特にこの時期はねー。ま…今度ま

た夏にでも来ればいいじゃない…あはは」

 ………って、ねーさんねーさん。それ完全に添乗員のセリフぢゃないってば。がっかり

してる観光客に追い討ちかけるかフツー……。

 などと思いつつジト目で睨む俺に、さすがにマズいとでも思ったのか、

「んーと…まぁ…明日は船乗って(エーゲ海の)島巡りするから……天気さえ良ければけ

っこうギリシャっぽいとこ見れるわよ」

 とまあ、一応フォローらしいものを入れてまとめてたけど。

 ともあれ、今日の観光で唯一『らしい』場所といえば、切り立った高台(アクロポリス

の丘とゆーらしい)の上に鎮座するパルテノン神殿…だったのだが……。

 ……うーん……。

 そこもまあ…なんとゆーか、汗水たらし苦労して登った割りには、さほど期待してた荘

厳さは感じられず。

 加えて、シーズンオフのせーか、観光客の姿もまばらで閑散としており、受ける印象

は…いまひとつパッとせず…なんかこう………

 あー、いやいやっ、これでも二千余年の歴史を刻んだアテネの祭殿…偉大なモニュ

メントの一つなんだからっ!そうそう、これがロールスロイスのフロントグリルのデザイ

ン元だって話だしっ、ほらほら…そこのズレてる支柱なんか、栄枯盛衰の理を表わして

るとゆーか過ぎ逝く歴史の哀愁をかんじるとゆーか……(汗)

 などと、思い付くまま無理ありまくりの好材料を並べ立て、ダークな方向に向かいそー

になる自分の気持ちを必死になだめよーとする俺。

 だが、

「ねーねー基明君…」

 やはりこーゆーのに興味がないのか、そそそ〜っと歩み寄ってきた美恵さんが、

「ねえねえ…あのさー、言っちゃ悪いけど……なんか建設とちゅうでほったらかしになっ

てる工事現場を視察してるみたいねー」

 うあ…

 いっちゃったよこのひと……。

 し−ん。

 そう…。誰もが皆思ってて、でも決して言ってはいけないそのひとことをあっさり口に

しちゃった美恵さんのせーで、俺のみならず一同の周囲の空気が白くなること十数分。

 いや…本っ気で悪いぞそれは………。

 …ほら、聞かなかったことにしてそっぽむいてる洋子さんの肩もこころなし震えてるし

……。

     

 ま…まあ、そんなこんなでいろいろ疲れたアテネの一日。

 ともあれ、その後いつもどおり、夕食後のホテルのバーにて、

 神々の威厳も地に落ちたこの都を偲ぶ想いで、ピスタチオナッツを頬張りつつ、ミソス

ビールを流し込んでいた俺に……

「ほらほら…そんなに落ち込まないの。女神ならここにいるじゃない☆」

 昼間の反省の色も何もなく、地元のブランデー…メタクサで作ってもらったアレキサン

ダー片手に美恵さんが言う。

 ………ったくもう、まーた始まったよ。いや…落ち込んでないけど、んなベタベタなも

んにツッコむ気は起きないっての。

 などと思いつつ、

「………。」

 口には出さず、冷めきった表情を見せる俺に、だが美恵さんはめげることなく、大人の

オンナの笑み(本人のみそう思ってる)を垣間見せ、

「ふふん……まあ、あたしがなぐさめてあげるから…

 …………ほ〜〜う…☆

 ……とゆーわけで。

 あまり関係ない話にずいぶん時間をとってしまったよーだが…。

 このえっちな女神さまになぐさめられるまま……冒頭のよーになったわけである。

  

 しかしまあ…なんちゅーか…こう…人間、欲が満たされると寛容になるものである。

 なんだかいまひとつだったこのアテネも、まんざらではないように思えてくるから不思

議だ…。

 うんうん…やはり、神の力は偉大だということか…(笑)

 ともあれ…そんなわけのわかんない自己完結でまとめた俺は、ヘッドレストに背もた

れ、くわえタバコの煙を大きく吐き出した。

「ふう……」

 ふと視線を下げ、隣に横たわる美恵さんを見やれば……

「…すぅ…すぅ…」

 今だ汗の跡を残しながら、乱れ髪を頬に張り付かせ、早や安らかな寝息を立ててい

る美恵さんの可愛い寝顔。

 軽く拳を握った両手を胸の前で合わせ、やや身体を丸めて俺の方を向き横たわっ

ている。

 くすくす…。いやいや…カラダはご立派だけど、本気で年上には見えねーぞ。

 そして…

「………☆」

 心地好い余韻と安堵に浸りつつも、不意に頭をよぎるイタズラ心。

 …う〜ん……まだ早いし、なんかこのまま寝ちゃうの…もったいないよな……

「んっ…」

 俺は軽く身を捩って、サイドテーブルの灰皿で煙草をもみ消すと、

 へへ…ちょっと遊んでみよっと…☆

 などという無邪気な笑み(?)を口元に、ゆっくりと美恵さんの身体に手を伸ばしてい

った………。

  

 胸の前で組まれた腕を優しくどかせば、

 ぽろん…。

 …いや、むろん比喩だが、そんな感じで。露になった形の良い乳房が自らの重みで

横向きにこぼれ落ちる。

 …ま…とにかく……☆

 込み上げる喜びをできるだけ押さえつつ、俺は人差し指をぴんっ、と立てその桜色をし

た突起をつついてみる。

 つんつん☆

 むろん愛撫などとはほど遠い……まるっきりイタズラである。

 次いで、

「ん……」

 その柔らかいふくらみに軽く触れ……

 むにむに☆

 やさしく力を込めた分だけ、指はその柔肌に沈み込み…掌に伝わるやわらかな弾力。

「〜〜♪☆」

 言葉にならない感動を覚える俺。

 いや…今さら何を…と思われるかもしれないが、

 相手が起きてるときには色々気を使わないといけないので、普段はこんな風にここまで

この感触のみに没頭することはできないのだ。

 唯一無二の柔らかさ。世界広しと言えども、触れただけでここまで人の心を動かすも

のがあるだろうか……。

 などと、なにやらおーげさなことを考えつつ、

「………。」

 淡い照明の満ちる部屋の中、ひとり妙な興奮と感動を胸に、俺はゆっくりと次のステッ

プに入っていく。

 大きく広げた両の手のひらで、左右対称にやわやわとこねまわすような動きに加え、

人差し指と中指で突起を挟み込み……

 きゅっ…くりくりっ☆

「ん…ふぁ…」

 刹那ぴくんっと身体を震わせ、小さく開いた口から美恵さんの吐息が漏れる。

 …っと!

 反射的に慌てて指先の力を緩める俺。

 いや…起きたからって…別にビビることはないんだけどさ……

「ん……ふぅ…………すぅ…すぅ……」

 ともあれ、軽い俺の驚きをよそに…美恵さんの寝息は再び安らかなものに戻っていく。

 ほっと息つき…

「ん…?」

 と、そこで、突起の感触が変わってきたのに気付く。

 ……へぇ☆やっぱ寝てても感じるものなんだ。

 新鮮な発見に心躍らせ、いつしか俺の興味は、寝てる美恵さんがどう反応するかに

移っていった。

 ……つつぅ〜☆

 子供のイタズラのような手の動きを本格化させ、心なし熱を帯び始めた美恵さんの

肌の上を軽やかに走らせる。

「……ん…ぁ……」

 そんな俺の指の動きに、美恵さんは時折びくっと身体を震わせ、

「……ふ…ぅぅ……んんん……

 眠ったまま、悩ましげにその表情を歪ませる。

 …ふ〜〜む☆

 いつもとは違うエロチシズムに、俺の興奮にがぜん拍車がかかり、

 ちゅ☆

 やわやわと乳房の感触を楽しみつつ、やや赤みを帯びてきた美恵さんの頬にそっと

口付け……、

 …ふぅぅぅぅぅ〜っ☆

 そのまますす〜っと顔を移動させ、耳元に寄せた唇で熱い息を吹き掛ける。

 びくんっ!

「ん…んん〜ぅっ…んふぅぅぅ…っ……」

 いまだ瞼を閉じたまま、肩をすくませ、めーわくそうに眉をひそめる美恵さん。

 くくくっ、おもしろいっ☆

 さらに俺は、乳房をまさぐる手をゆっくりとお腹へと下ろしていき……

「……はぁ…ん」

 指先で螺旋を描くように下腹を伝いつつ、いまだ湿り気の残る草むらをかきわけ……

 くちゅっ……

 すでに新たな潤いを湧き立てている泉……その水面をすくうようにゆっくりと指を動か

していく――といっても、ここで起きられては元も子もないので、触れるか触れないかの

極ソフトなタッチで……。

「はぁ…ぁぁ…ぁ…ぁぁぁぁ……」

 意識がない分、より素直に…また敏感に快感を受け止めているのだろうか、美恵さ

んは、じれったそうな吐息を漏らしつつ、ごろっと身体を転がし仰向けになり、

「ん…うぅぅ…ん……

 ヒザを立てて俺がしやすいように足を開いていく。

 そして……

 あ………え…えと…もう中に入っちゃってる…?

 そう錯覚するほど、溢れ返る熱い潤いに俺の指はまみれていった。

 また、繰り返されるソフトな俺の指の動きに、

「あ…はぁぁ…ん……

 満足そうな甘い溜め息と共に、眠ったまま、自ら身体を開き愉悦の表情を浮かべる

美恵さん。

 ふわぁぁ〜〜☆

 未だ見たことがないそんな淫らな寝姿に、俺の頭の芯がぼーっと熱くなっていく…

 ちゅ…ちゅぷっ……。

「………?」

 入れないように注意していたつもりだが、俺の指は早や第二関節くらいまで中に沈

み込んでいた。

「ふぁぁぁぁ…あ…!あ…はぁ…っ…はぁぁ…っ……」

 美恵さんの甘い吐息に甲高いトーンが混ざり始め、にわかに息遣いが荒くなる。

 あ…やば…

 我に返り、このまま深々と沈み込ませたい衝動を堪え、指を引き抜く俺。

 そう、ここまできたら、もひとつどーしても試してみたいことがある。

 すなわち、このままひとつになったら、ど−なるのか……。

 そんな高鳴る鼓動と思惑を胸に、俺は仰向けの美恵さんの身体に密着し、

「……んっ……」

 美恵さんの背中とシーツの間に身体を割り込ませ、横向きに後ろから抱き締める格好

になる。

「んぁぁ…」

 気怠そうな声を上げる美恵さん。

 目覚めは近いようだが、ちょうど心地好いまどろみ状態なのだろう。何の抵抗もなく俺

にされれがまま。

 そして俺は、手早く自らの股間に手を潜り込ませ、すでに猛りまくっていたそれを握り

しめると、彼女の柔らかなお尻の隙間に割り込ませていく。

 ……ぬる……

「ん……」

 ここ…だな……。

 先端で、熱い滑りを感じた瞬間……

 ずずっ!!

 俺は勢い良く美恵さんの中に侵入っていった。

  

(2)へつづく。

 

 

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