メイプルウッド・ロード
                     
〜#4.ワーフの夜は青天の霹靂〜

(6)

「……んっ…んぁっ……んっ……んふぅ……っ…………」

 やや荒くなった息遣い、少しだけ悦の混じった可愛いあえぎをその口に、身をくねらせる由美。

 また、そんな由美をさらに昂めていくべく、瞬の唇が…指先が、未だTシャツ姿の由美の身体を、

白い布地をゆがませて、まさぐっていく……。

 だが、

「はぁ…ん…………あふっ……んふ…っ…んふふっ…☆…」

「…………。」

 どこか……由美は、自分の予想するのとは違う反応を示しているようで……

(……あれ?……)

 そんなかすかな違和感に、瞬は怪訝な表情を浮かべる。

 そんな中、

「ん…ぁ…っ……あは…っ…☆……んっ…ふふ…っ…☆」

 時折のあえぎを口にしつつも、瞬のすることをちらちら伺いながら、笑みを浮かべる由美。

 その様は、瞬のすることを逐一観察し、そのタッチを愉しんでいる感さえある。

 いつものように、昂まる快感に乱れていく様子は一向に―――ない……。 

 そう、瞬の違和感はコレなのだ。

 むろん、豹変化は完全。これまでに覚えた由美の感じるポイントを、正確かつ的確に攻めている

はずなのに、由美のボルテージはある一定のところでとどまったまま、それ以上高まっていく気配が

ないのだ。

 いや、それどころか……

「…ぅん……あふっ……ふふ…っ…」

 喘ぎの合い間に、時折浮かべる笑みが、『ん〜?それでもヒョーヘンしてるの〜?』とでも言ってる

ような感すらある。

 そして、そんな不可解な由美の反応は、瞬の焦燥を誘い、

「……く…っ…」

 逸った瞬は、まだ早いタイミングにも関わらず、自らのギアを上げ、由美をまさぐるその五指に

一段階強い力を込める。

「……んっ…!……」

 手のひらの布越しに伝わるふくらみの感触から、やや固さを見せ始めたその突起を指先でつまみ、

「……んぁ……瞬……?」

 様子の変わった瞬の愛撫に、由美が怪訝な声を上げていることも気付かず、突起をつまんだ指先

に力を込め………

 ………こりこりっ。

 だがコレは、回転の不十分なエンジンを強引にシフトアップするようなもの。

 このタイミングでそんなことをすれば、当然………

「……っ?…! 痛……っ」

 まだ出来上がってない身体への強すぎる刺激に、由美は、顔をしかめて小さく苦鳴を上げる。

 またその瞬間、瞬は我に返り、

「……っ!? あ……ご…ごめ…んっ…」

 同時に、ヘンなアセりの呪縛から解放され、瞬は全ての動きを止めて―――

「わ……わりぃ…い…痛かったか……?」

 ものすごく申し訳なさそうに、目下の由美に心配そうな顔を向ける。

 そんな瞬に、由美は、まだちょっと痛そうな苦笑を浮かべつつ、

「ん……あは……ちょっとね…☆」

「あ…ま、マジごめん……」

「……あはは……ばか。そんなに謝ることでもないって。ちょっと…って言ってるでしょ☆」

「…………。」

 反省しきりの様子を見せる瞬をフォローする由美だが、瞬はいまだ目線を外し、自らの行い

を深く後悔している様子……

 由美はそんな瞬を見かねて、しょうがないなといった感じで、

「……ってゆーかさ〜、」

「…ん………」

「瞬……なんかちがう?…とか思ってたんでしょ?」

 そんな、全てを見透かしたような由美の言葉に、

「……え……?」

「あはは……やっぱりね……☆」

 なんだかよくわからないコトで得心する由美に、瞬はわけがわからず、

「え…?な、なんだよ……?」

「あ…いや…だからぁ……あたしね…もう瞬が次どーするか――とかわかるんだよ……☆」

 なんだか得意げに言う由美に、だがやはりイミがわからず、首を傾げる瞬。

「……?」 

「ん〜、だからさ……気持ちよくさせてくれようとしてるのは、わかるんだけど……

 ん〜……何ていったらいいのかなぁ……」

 由美は急に照れたような口調になり、

「瞬ってこーゆー時は……その…メチャクチャ優しいじゃん……? だから絶対あたしが嫌がるような

コトはしないし……。

 今も…別にそのまま続けてもいいくらいだったのにさ…ちょっと、あたしの反応が変わっただけで

あんなに心配するしさ……

 それにね…いつもいつもあたしばっか先に、気持ちよくなってっちゃうってのも、結構ハズかしい…

っていうか、なんか悔しい感じもするんだよ。

 だから……今日は、ちょっとガマンして……いつもと違う反応したら、瞬…どーするかなぁ…って

見てたの☆」

 などと、あたかもバレてしまったイタズラを白状するように話す由美。

「…え…?……え………?」

 とは言え、そんなことを聞いても、やはりどーすりゃいいのかわからず、瞬は、ただうろたえるのみ。

 またそんな瞬を尻目に由美は、

「あ…そだ!じゃあたまには、瞬の思うように…ってゆーか、あたしのこととか気にしないで、瞬自身

が気持ちよくなれるようにしてみれば☆」

「……へっ…?」

 ………と言われても、瞬は困ってしまう。

 というのもこの瞬、そもそもえっちゴトに関しては、今までなりゆきまかせの勢い次第にしてきた

傾向が強く、そうイロイロと細かいことを考えてコトに及んできた訳ではない。

 ただ本能のままに…とか、欲望の赴くに任せて…と言っては語弊がありそうだが、それでも

今まで、特に意識することなく『自分の思うよう』にして、充分以上に女性を満足させることが

できていたのだ。

 まあ、それはそれで、類いまれな非凡な才能ゆえに…という他はないが。

 ともかく今でも、じゅーぶん『自分の思うよう』にしているつもりである。

 しかも、女の子を感じさせる→見ていて楽しいし嬉しいし自分も興奮する→そして………☆

という流れが、今までのセオリー…というか、鉄板のパターンというか……由美の言う、『自分

自身が気持ちよくなる』方法はコレ一本しか知らないのだ。

 そんなところにもってきて、急に『私、ナイスアイディア思いつきました!』みたいな顔で

『自分にとってのベストのこと』以上のコトをしていいよと言われても、果たしてどーしたら

いいものやら…………………

「…い、いやあの……で、でも…そ…そんなこと…い……言われてもよ…」

 ともあれ、そんな風に瞬が困りまくっていると、

「あ〜もぉ、しょうがないなぁ……」

 由美は急にじれったそうに声を上げ、

「今日は、あたしが先にしてあげるよ……んふふ〜☆されたことってのはあんまないんでしょ?」

 なんだかとんでもないことを言い出し始める。

「え……う、うん……じゃねー!な……なに言ってんだお前?」

 うっかりうなずきかけ……だが当然慌てふためく瞬に、

「ん〜、だっていつもいつもおんなじなんて能がないじゃん?

 それに……されてるばっかの女って……マグロ?とかっていうんでしょ?

 あたし…そーゆー風に思われんのヤだし……」

「い…いや……思わねーって……」

「ええ? でも葉月がそーゆー風に言ってたよ」

 おおげさに驚いた様子を見せて言う由美…また、あろうことかいきなり飛び出した人物の名に、

瞬はさらに混乱し、

「……はぁ!? は…葉月がって……? い…いやいやちょっと待て。お前…葉月とかにドコまで

話してんだよっ?」

「ん〜〜?大体……全部?」

 少し考えるような仕草を見せつつも、こともなげに答える由美に、瞬は絶句……。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「あ…でもね、葉月言ってたよ。あたしの言ってるとおりなら、瞬って相当テクニシャンだって☆」

 ………そんなことは聞いてねえ。
                               
フリーズ
 などとも、思ったが、瞬の頭の中はもはや完全に思考停止状態。

 茫然自失とはまさにこのことをいうのだろう。

 顔を真っ赤にしたまま、動くことも話すこともできずに……瞬はただ由美の上に重なったまま、

地蔵のように固まるのみ……。

 また、そんな瞬に対して、由美は変わらず弾んだ様子で、

「ね……だからまー、そーゆーことだから☆ 今日は瞬に、いつものあたしの気分を味あわせて

あげるよ

 ナ二が『そーゆーこと』なのかは、まったくもってわからないが………

 ともあれ由美は言うやいなや、展開についていけず戸惑う瞬の首に両手を回し―――

「……え?あ…ちょ…な…なにすん……」

 さらに下から伸ばした両足を瞬の腰に絡めてホールドさせ……

「んふ…こーすんの☆」

「……って、え……?あ……?お、おい…っ…?う……うわぁっ!」

 ぐるんっ!

 にわかに視界が回転し、瞬が驚くいとまもあらばこそ。

 上下の体勢を入れ替え、由美は瞬の上に馬乗りになり、

「ふふ〜ん☆」

 してやったりの表情を浮かべつつ、両手をがっちり掴んで、瞬のカラダを組み敷いて、

「さて………にひひ☆」 

 まさに、エモノを手中に収めた猫の笑み。

「ど……どーする気だよ…?」

 瞬はそんな由美の笑顔にちょっとコワさを感じながらも、わかりきってる問いを口にする。

「ん〜、まずわ、こないだ葉月に教わったの試してみよーかな〜って☆」

 由美はそれに答えつつ、そのまま瞬の上にうつ伏せに寝そべるように身体を密着させていき…

 …むにゅ…。

 ふくよかな弾力ある乳房が、やわらかく押し潰されていく感触を、胸元に感じつつ……瞬は、

「お…教わった…って……。お、お前らふだんどーゆー話してん……んんっ!」

 だが、多分に興味深い瞬の問いは皆まで言えず。

「ん……んんっ?んむ…っ!」

 即座に降ってきた由美の唇にその口を塞がれ……また、にわかに流れ落ちてきた由美の

黒髪にその顔の周りを包まれて……。

「んぅっ…!…んっ……んん……ん…ぅ………」

 立ちこめる甘い香りとやわらかい唇の感触にぼーっとなりつつ、瞬はやがて……

(ん…ま…いいか……たまにはこーゆーのも……)

 などと、いつものノー天気さが顔を出し、その思考は徐々にお気楽モードへ移行していく。

 さらに、さほど多くはない経験ながら、瞬は今まで女の子側から一方的に何かされて、そうそう

興奮させられた覚えもなかったため――――――

 今は勢い込んで調子に乗ってるものの、どーせ由美のソレもタカが知れてる…多少感じたフリ

でもしておけば、そのうちアキるか満足するだろう、とでも踏んだのだろう……

(ま……とりあえずさせたいようにさせといて、適当なトコロでチェンジすればいーだろ……)

 だが、そんな風にたかをくくり、鼻で笑ったその矢先………

「…………んふ…っ…

 名残惜しさを感じさせる動きで、由美が唇を離し……

 するする…と、自らのTシャツが、あご下辺りまで捲られていくのを感じる中――― 

 ぬ゛るっ。

 次いで……

 ぞくぞくぞくっ!

「……っ!?」

 驚愕に値する、凄まじい感覚が瞬の胸板に走る!

 驚き慌てて、顔を起こしてみてみれば、

「ん〜?あっれ〜?もしかしてこーゆーのされるの初めて?」

 そんな瞬の反応に、わざとらしく驚いた風の由美の嘲笑。

 瞬は多分に戸惑いつつも、

「う……うっせー…ちょっとびっくりしただけだよっ」

「ふぅ〜ん…?そう……」

 強がる瞬に、由美は疑わしい笑みを送りつつ、

「んじゃ…続けるね……☆…………ん……」

 言って再び、瞬の胸に顔を埋め、その細い指先とやわらかな唇で、執拗な愛撫を再開する。

「ん…んちゅ……あむ……」

 由美は先ず、その小さな両の突起を――片方は指先で優しく、またもう片方はその潤んだ唇で

包みこみ………

 といっても、なにか取り立てて特別なことをしているわけではない……ないのだが、

 瞬にとっては、ほぼ初めての経験…加えて、葉月の教えとやらを受けた由美の手指・唇の動作は

、そのひとつひとつが、巧妙な動きをみせており……… 

(…んぅ…っ!…な…なんだこりゃ……?)

 次々に、ゾクゾクと込み上げてくる刺激と感覚に、懐疑、驚嘆する瞬。

 とはいえ、たった今強がった矢先に、そんな心情を悟られたらまたからかわれるに決まってる。

「……っ…」

 瞬は意地となけなしの根性で、その感覚を押さえ込み――――――

 また、そんな瞬の苦悩を知ってか知らずか、由美はさらにその動きをエスカレートさせていき…

「ん……ん……ん……」

 ……ぴちゅ…れろ…っ………さわさわ……

 右胸の小さな突起を口に含み…その内部で舌を転がしつつ、またもう片方…左胸の突起は、

その周辺で小さく円を描くように指先でなぞり、尖った中心にちょんちょんと触れ……

 そんな動作を間断なく、だが緩急つけて繰り返し、絶え間ない刺激を瞬に送り続ける由美。

「……ぅあ……っく…ぅっ!」

 そしてこの、不規則かつ断続的に襲い掛かってくる未経験の刺激は、思いもよらぬ快感を瞬に

もたらし―――

 得も知れぬ…ふわ〜っと浮び上がりそうな感覚に、瞬は思わず……

「……んっ…くっ……ゆ、由美……お前……なんでそんなに…上手いの……?」

 嗚咽交じりに言葉を漏らしてしまう。 

 むろんそれに他意はなく、むしろホメ言葉に近い瞬の素の感想だったのだが……

「……っ!?」

 そんな瞬の声を聞き、由美は急に動きを止めると、なにやら赤らんだ顔をがばっと起こして、

「あ……あー―、ちょ…ちょっと……カン違いしないでよね!あ…あたしは、ただ……葉月に教わ

ったとおりに……」

 どこかばつわるそうに、言葉を途切らせ…

「だ…大体……こんなのするの初めてなんだからね!」

 真っ赤な顔で、組み敷く瞬を睨みつける。

「え……い…いや……だ、誰もそんなこと聞いてねー……」

 戸惑いつつ、もっともなことを言う瞬だが、それと同時に、由美はまた何か別の考えに至ったよう

で、少し考えるような仕草を見せると…

「…ん?……ってことは……、もしかして瞬…かなり気持ちよくなっちゃったりしてる……?」

「ば……ばか……み、みりゃわかんだろそんなもん……」

「……あ……☆」

 ぶっきらぼうに言ってそっぽを向く瞬に、由美はとたんに顔を輝かせ……

「えへへ……☆ でも……さっきはよく見てなかったから、わかんないもん。

 ふーん……そっか……じゃあ、こんどは、よく見てよっと…☆」

 なんだか嬉しそうに言いつつ、再度瞬の胸板に唇を近づけていく。

「……って、ば…!も…もーいいって……んあぁっ!」

 瞬は再び慌てて、抵抗を試みるが、

「あむ……んちゅ……んむっ☆」

 ぞくぞくっ!

「え…うぁ…!…ん……ぅっ……」

 再度、胸板に感じるゾクリ…とした感覚に―――震え脱力してしまう。

 結局瞬は、一度覚えてしまった快感の波に逆らうことができず…………。

 またさらに由美は、先ほどの宣言どおり、

「んぁむ……ちゅ…ちゅ……ん〜?(じぃ〜〜。)……んふ…☆……ぺろっ☆(じぃ〜〜。)」

 今度は瞬の表情をじっくり観察しつつ、その反応を確かめながら、上目づかいに舌をはわせ……

指を操り――――――

 れろれろ……ぴちゅ…っ……さわさわ……きゅっ……

 そして、そんな由美の姿は、視覚的にも瞬の快感センサーをさらに強烈に刺激し、

「……っ…?………っくぅ…っ!」

 瞬の興奮はますます高まっていってしまう。

「んふ……くすくすくす……☆」

 またそんな中、由美は、いつもとは逆に瞬をいいようにしているという優越感にひたりつつ、胸板の

愛撫は唇だけにまかせ、そっと指先を浮かせると…

(…んと、次は……)

 などと思いながら、軽く立てた五本の指先で瞬の身体を撫でるように、つーっと、下に下げていき…

(………ん〜、こう見えて、結構イイカラダしてんのよね〜☆ 瞬……)

 なにやら胸内でつぶやきつつ、力が入って硬く6つに割れた瞬の腹筋のスジに沿うように、その

指先を歩ませ……さらに下方へと降ろしていく。

「はぁ…っ…はぁぁ……はぁ…ぁ…」

 一方そんな折、次々と襲い掛かる快感の波にもようやく慣れ、吐く荒い息を整え始めた瞬だっ

たが、

 ………じー……… 

 なにやら下方より聞こえる―――ファスナーの下ろされる音に……

(あ〜、そーいやまだズボンはいたままだったな…………)

 ぼ〜っ、とした感覚の中、どこかひとごとのように思い―――――――――

(………って、お…おいっ!?)

 一拍遅れて、次の由美の狙いに気付く。

 瞬は即座に、宙に浮くような感覚を霧散させ、

「……えっ?ちょ……お…おい?ゆ…由美っ…!」

 がばっと顔を起こし、慌てて下方を見やる。

 すると、いつのまにそこに移動したのか、今まさに自らのジーンズのベルトに手を掛け、

「………っと…ん……?」

 きょとんとした目をこちらに向けた、由美と目が合った………。

(7)へつづく。

   

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