メイプルウッド・ロード
〜#4.ワーフの夜は青天の霹靂〜
(7)
刹那―――――― 二人の間に、奇妙とさえいえるヘンな間が生まれ…… 「………え……?由美……なにしてんの……お前……」 「……え…?わかるでしょ……?脱がすの……」 呆然とした声でマヌケな問いをする瞬に、きょとんとした顔のままごくふつーに答える由美。 そして再び、ベルトを外す作業に取り掛かる。 かちゃかちゃ…… またここで、よーやく我に返ったように瞬は、 「……って、え…ば…ばか……ちょ…ゆ、由美っ…!…や…やめ……」 「いーから☆いーから☆」 「い…いや、いーからじゃねーって…!」 さすがに焦って、身を起こしかけるが、これまでの快感にマヒしていたカラダは思ったより力が 入らず…… また、 「あーもーっ!いーからおとなしくしてなさ〜い!いつも瞬だってあたしにしてるコトでしょっ!」 などと言いつつ、自らの身体を押さえつける由美の両手に阻まれて。 瞬のジーンズは、少しずつずり下げられていく……。 まさに、女性なら『きゃー犯される―』的な状況だが………… むろんそんなリアクションなど見たくもないし、瞬もするつもりもない。 しかもこのとき、瞬の心に芽生えた若干の期待感が、さらに抵抗しようと言う気持ちを妨げ、 「………………。」 結局瞬はその状況を黙って見つめ、されるがまま。 また、そーこーしているうちに、 「んしょっ!」 するっ。 なにやら、力を込めた由美の声と共に、瞬のジーンズは完全に両足から引き剥がされ――― 下半身がスース―とした、なんとも心もとない感覚とともに、トランクス一枚姿になる瞬。 「……う…ぁ……」 とはいえむろん、こんな姿はもう何度も見せているし、本来ならどーということもないハズなの だが…… (……………あぅぅ……) この特殊な状況が、なにやら瞬の気恥ずかしさを芽生えさせてしまったようで…… またさらに、 「きゃあぁぁ〜☆ やっだー瞬、恥っずかしい〜♪ あ☆ね、ね、写真でも撮っとくー?」 (………………かぁぁぁぁぁ……) それに追い討ちをかける弾んだ由美の声に、さらに瞬の顔はトマトのように赤くなり…… 「う…うるせ…っ! も…もうっ、お…お前…っ…と、とにかくなんとかしろよな…っ!」 頂点に達した恥ずかしさに、多分にしどろもどろにになりながら、ヤケクソ気味に言い放つ瞬。 すると由美は、 「は〜い☆なんとかしまーす♪」 びしっ、と敬礼さえしかねない勢いで、小気味よく答え、再度…今度は瞬の横に添い寝をする ように身体を横たえ、 …………ちゅっ☆ 悔しさやら恥ずかしさやらイロンナ期待やらで真っ赤に染まった瞬の頬に軽くキス。 またその時、 (……?……) 密着する下半身…スパッツ越しの太モモに、なにやら異質な固い感触……。 「……ん…?……」 おもむろに視線を下げてみれば、そこには…自らの太ももに挟まれながらも、青いトランクスを いびつな形に隆起させ、まさにかたくなに自己主張する瞬の……………………………。 とたんに由美は、目をすーっと細めて、意味ありげな笑みを瞬に向ける。 「ふぅぅぅぅ〜ん…?」 「………………っ…!」 むろん、そんな笑みの意味がわからぬわけもなく、由美に悟られた自らの身体の変化を恥じる ように、瞬はぷいっと顔を背ける。 (くすくす……) そんな瞬の仕草にほくそえみつつ、由美は右手をトランクスへと伸ばしていき、そっとその先端に 触れ…… 「え……?あ…ちょ…ゆ…由美……?」 その感触に驚いた瞬が慌てて顔を起こすも、 ちゅっ。 「……んんっ…?」 由美は軽いキスで瞬を黙らせ、そのスキに、異様な脹らみを見せているトランクスの隙間から、 するするっと手を差し入れ……生の瞬自身に、そっと指先を添えた。 「……?……んう……っ!」 屹立するソレを通し、ダイレクトに伝わってきた由美の指先の感触に、息を飲み嗚咽する瞬。 次いで、ソレが握り締められる感覚とともに、 「ほぉぉ?なんだかんだ言ってココは正直ですな〜〜☆」 「ば…ばっかやろ!そ…そーゆー話しかたやめ……うぁ……っ!」 からかう由美に、瞬が抗議の言葉を発する暇もなく、 りゅ…りゅっ……りゅっ…。 せまいトランクス内部で、うごめく由美の手が上下の動きを開始する。 (……くぅ……っ!な…なんだコレ……しゃ…シャレになんね…んぅっ!…) その感想は、耐えがたい恥ずかしさに対してか。はたまた未だ経験したことのない快感に対し てか。 いずれにしても、自らでする行為の数倍以上のその感覚に……… 「…くっ!…うあ…ぁっ!!」 悲鳴に近い嗚咽を口に、身を捩り…両脇に投げ出していた拳を堅くぎゅっ、と握り締める瞬。 由美は、そんな葉月のレクチャーどおりの瞬の反応が、ますます面白くなり、 (くふふ……☆…んで…次は……) 上下する手の動きを多少弱めながら……何かを耐えるようにぎゅっと目を閉じ、苦しげな表情 を浮かべている瞬を見つめつつ、そっと唇を近づけていき…… 「ん……」 「んん…っ!?」 再び重なってきた由美の唇に、吐く荒い息を止められ、大きく目を見開く瞬。 するとそこには、間近に迫った由美の大きな瞳が、イタズラっぽく輝いていて…… (んふふ〜ん……♪) (…?…う……く…くそ…っ……) 自分が、完全に由美の思い通りになっていることを悟り、歯噛みする瞬。 だが、そんな瞬の悔しさも空しく……間髪いれず、重なる唇のすき間をこじ開けるように、 ねじ込まれてきた由美の舌に、口内を弄ばれ…… 「んぁ…む……ん…ちゅ……ん…ふ…」 りゅ……りゅ……りゅ…… また下半身の、柔布で擦られているような感覚の前に…… 「……んん…っ?んぅ…っ…ん……ん……」 その甘く、とろん…とした感覚に、瞬は次第にすべての抵抗の力を失っていく。 ちゅ…くちゅっ……ぴちゅっ……。 徐々に苛烈さを増していく口づけに、重なるふたつの唇から発せられる水音と、 「ん…んふっ……あむっ……」 「ん……っ……んん……っ」 二人の淫靡な吐息が、その瀟洒な調度の空間に溶けていき……… ふたつの身体から発せられる熱気が、ヒーターの温風と混ざり合って、室内の気温はさらに 上昇していく―――。 ------そんな中、 「ん…ぅ…はぁ…はぁ……ん…あ…ぁ……っ」 瞬は、身も心も溶け落ちそうな感覚に包まれながら、由美の所作に全てを委ねきっていた。 このまま、いつまでもこの感覚に浸っていたい………心底そう思って……。 だが、そんな瞬の甘い想いを切り裂くように、 ………どくん…っ!! 唐突に……また強烈に。それは―――来た。 (……う…っ……!?) 痛いくらいに昂ぶった感覚が、下半身から。 (……んぁ……や……やべ…っ…) そして、充分すぎるほどわかりきっているその感覚は、瞬にもはや一刻の猶予もない様相を示し ていた。 さらに、間の悪いことに…というか、この状況なら当たり前だが……先ほどより先端から溢れ 出ている潤滑油によって、それを握る由美の手の動きは、いっそうスムーズに上下するように なっており…ますます加速度的に、瞬の絶頂を近づけていく。 「……くうぅぅっ!」 この、どこかへ飛んでいってしまいそうになる感覚を前にして、瞬は小さな…だが鋭い苦鳴を 上げ、大きく身を震わせる。 また、そんな痛烈な何かを耐えるような瞬の様子に、 「……?…あは……瞬…もうイキそーなの?」 唇を離し、イタズラっぽくも優しい笑みを浮かべる由美。 「……え……?」 問われて瞬は、若干の悔しさ、そして恥ずかしさを感じたものの、もはや全く否定できない この状況に、 「……あ…ああっ。」 首を捩って由美から目を切り、ぶっきらぼうにうなずいた。 「くすっ……」 そんな瞬の態度に由美は小さく笑うと、握ったソレをいったん離し、両手を使ってトランクスを ずり下げる。 その途端、妨げるものがなくなった瞬のソレは、宙を仰いで雄々しく反り立ちー――― 「………。」 由美は無言で、それを握りなおすと、瞬の顔を見詰めながら…… りゅっ…りゅっ……りゅりゅっ…… 「んぅ…っ!! んあぁぁっ!?」 こらえていたものを吐き出すように、瞬の口から悲鳴が漏れる。 トランクスの中…という縛りがなくなった由美の手の動きは、先ほどのそれをはるかに上回る スムースさで上下し…瞬にもたらすその感覚は、先ほどトランクス内部でされていたのとは、 段違いのものであった。 「んあぁっ!だ…だめ…だっ…ゆ…由美っ!」 そんな、引くこともなくただ押し寄せるだけのような巨大な快感の波に、瞬はあっという間に 絶頂まで導かれ…… 「―――っ!?―――」 額の中心あたりで何かがぱちっ!と弾けるようなものを、感じた瞬間――― ………どくんっ! 仰け反り、ひしがれた瞬の身体が大きく震え…… 「くぅっ!…んああ……っ!!!!」 苦しげな嗚咽とともに、その迸りが宙を舞った………………。
そして――― 「あ…わ、わあぁっ!?」 その様を目の当たりにして、驚く由美の声。 また、少し間をおき、ぴくんぴくんと痙攣するソレを未だ握り締めたまま、 「え…ちょ……す、すご〜い……こ…こんなになるの…?」 誰にともなく問い掛けるような感嘆は、なるほど初めて見たにちがいない、いかにも由美らしい 素のリアクション。 だが、そんな由美の反応は言うまでもなく、まともに瞬の気恥ずかしさと罪悪感を引き出し、 「あ…ああ……わ…悪ぃ……」 「え……?あ、あはは……ばか…あやまることでもないでしょ。ってゆーか、瞬、ちょっと ティッシュとってくれる?」 落ち込みかける瞬を軽い口調でフォローし、瞬のそれを握ったままの由美は、ほとばしった モノのせいで動けぬ自分を示唆しつつ、困った笑みを浮かべて言う。 「あ…ああ……」 また瞬は、いまだ戸惑った様子を見せつつも、そんな由美の状態を慮り、なるべく下半身を 動かさぬように、側らのサイドテーブルに手を伸ばした。 しゅっ、しゅっ、しゅっ……… 備え付けのティッシュホルダーから適当量のティッシュを引き抜き、 「……えっと………」 一瞬自分はどうしようかと、躊躇する瞬に、 「あ…いいよ。全部こっちにちょうだい。いま瞬にあんま動かれると困るから。そのままじっとしてて」 「……え?」 やや焦った口調で、だがテキパキ言う由美の言葉に、ふと気付けば、 「………あ……」 瞬は、自身の腹や胸、そして太もも…その他にも生暖かい感触を感じ…… 「………う…。」 どーやら、かなり盛大に飛び散ったようであることを知った………。 「…………」 ともあれ、コレはまさに由美の言う通り、動かぬ方が賢明。 なんとも情けないことこの上ないが、由美に任せるしかないようである。 そして…… しゅしゅ……ふきふき…こしゅこしゅ………きゅっ…きゅっ……… 「……………。」 情けないやら恥ずかしいやらで、瞬は目を移すことができなかったが、それでも気配や、時折 ティッシュが肌に触れる感触で、下方にいる由美が忙しなく動いて、その処理をしてくれている様子 が伺える……。 しばし瞬にとって、そんなどこかまんじりともしない時間が過ぎ…… やがて、 「……ふう。こんなもんかな……」 全ての処理が終わったらしい由美の声。 そんな、たまっていた洗濯物を片付けスッキリしたように言う由美に、瞬はあらためて、 「あ…そ…その……わ…悪かったな……」 「え……?なんで?」 再度ばつわるそうに謝る瞬に、由美は再び隣に横たわりながら、きょとんとした顔を見せる。 「い…いやその…なんでって……びっくりしたろ?」 「…うん。びっくりしたよ。で?」 こともなげに聞き返してくる由美に、瞬は戸惑いつつ、 「……う。だから……そ…その……ヤじゃ…なかったか?」 「……ん?……なんで?」 「い……いや……だって…よ……」 言いよどむ瞬に、だが由美はものすごく意外そうに、 「えー?でも…瞬だっていつもあたしにいろいろするじゃん?アレ…ヤなの?」 「…え? や…ヤなわけねーだろ」 「でしょ?それとおんなじだよ。面白かったよ☆」 (い……いや……おもしろいってのは、なんかちょっとちがうよーな………) 意外な由美のリアクションに、どー答えていいかわからず、ビミョーな顔を浮かべる瞬。 また由美は、付け加えるように 「それに……くすくす……☆ 瞬、けっこーカワイかったしね♪」 思い出し笑みを浮かべつつ、からかう由美に、瞬はまともに鼻白んで、 「ば…ばかやろ…っ!」 やや荒い声で返すも、由美は全く怯まず…むしろ弾んだ口調で、 「ね〜〜、なんだったら、もっかいシてあげよっか〜?」 「ば…っ!?…な…なに言って……」 先ほどの戦慄がよみがえり、慌てて向き直る瞬だが、 「くすくすくすくす……☆」 由美はそこでじっとしたまま、すました笑みを浮かべているだけ。 「……ったく…」 またも遊ばれていることに気付き、舌打ち混じりに顔を背け、嘆息する瞬。 また由美は、そこでごろりと仰向けに寝転び、顔だけをこちらに向けると、 「ふふ〜ん……でも、だったらどーする? 今日はこれでおしまい…?」 なんとも挑発的な笑みを浮かべて言った。 「……え…?」 瞬はそんな笑みに多少たじろぎつつも、自らに向けられた由美の気持ちを、くすぐったいような 感じで受けとめながら…… 「ふ……ふん…そんなワケねーだろが……」 テレを隠し切れない不敵な笑みでそう言って、ゆっくりと由美に重なっていく瞬。 由美に完全に玩ばれていることを認めつつ、だがその反面、決して不快ではない奇妙な 心地よさを感じて―――。 想い…交わるふたりの心と身体が、ゆったりとした時の中に、混ざり溶け合い……… …………ワーフの夜は、なおもますます甘く、深く更けていく………。
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(8)へつづく。