メイプルウッド・ロード
〜#4.ワーフの夜は青天の霹靂〜
(8)
そして―――――― この夜、初めてと言っていいだろうか、ようやく落ち着きを取り戻した瞬。 また、いつものペースに戻ればなんのことはない、瞬は手馴れた動作で由美の身につけて いるものを、まるで果物の薄皮でも剥くように、するりするりと、一枚一枚取っていき… 「ん…あ…やぁ…ん…瞬…え…えっちぃよ……」 はにかむような由美の声にも、今は動ぜず。 やがて瞬は、全てを脱がせた由美を組み伏した格好になり……… 「…………」 刹那、無言でその動きを止めた。 (………う〜ん………) なにやら、由美の身体に目を落としつつ、何か考えている様子だが……? 一方、そんなヘンな間を訝んで、由美は閉じていた目を開け、 「……え?ちょ…ちょっとぉ…な、なに…?は…恥ずかしいでしょ!」 強気な口調で言いつつも、自らを抱きしめるように両手を交差させ、その大きな胸を隠すように しながら身をすくませる。 また瞬も、そんな由美の言葉と仕草にやや慌てたように、由美の顔へと視線を戻し、 「あ…わ…わりい…でもよ……」 「…な、なによ…?」 言葉を途切らせる瞬に…いまだ恥ずかしげにしつつ、由美が尋ねると、 「いや…あのさ…お前、昨日…太ったって言ってたけどよ……」 「…―――っ!?」 (―――かぁぁぁぁぁぁぁぁ…っ!!!!!!!!!!) 場違いにもとーとつに。なにやらモノスゴイことを言い出した瞬に、由美の顔は瞬時に赤く燃え上 がり……… 「う…うるさいっ!!ば、ばかぁっ!!な、なんてこと言うのよっ!サイテー!フツー言う?この状況でっ!?」 ものすごい早口で怒声を乱射し、瞬の真下で暴れだす。 むろん瞬は慌てて由美を抑えつつ、いなしながら…自分の発した失言をとりなすように、 「あ…ああっ!? い……いやいや違う…違うって!」 「……う〜〜」 また由美も、押さえつけられた事もあったが、とりあえず怒りは横におき…でもジト目で瞬を睨み ながら、 「なにがちがうのよ…?」 ものすごい迫力である。下手なことを言えば、即断罪。そんな感じで。 瞬はおびえながらも言葉を選んで、 「……う…。い…いや……だからさ…昨日は暗かったから、よくわかんねかったけど、結局お前 …その……胸とケツ以外…どこが太ってんのかな……って」 いや…選んでんのかそれで?といった感全開の、核心ズバリの発言は、 「う……うるさい!うるさい!うるさ〜いっ!!!!!!」 当然ながら、収まりかけた由美の怒りを再燃させる。 …とはいえ、言い方はマズすぎるが、この瞬の発言は、まったくの正論。 確かに瞬の言う通り、バストとヒップは大迫力だが、それ以外にこの由美の身体には、余計 な肉など付いてないように見える……特にウエストなどは、まさにキュッと引きしまって、綺麗な くびれを顕しており…すらりと伸びた両足も、ヒップラインから理想的な曲線を描いていて――― いわゆる、『出るトコ出てひっこむトコひっこんでる』見事にえっちなプロポーションである。 あれだけ食っちゃ寝を繰り返し、この身体を維持できるとは…正に、歩くキセキと言っても 過言ではない。 ともあれ、この身体をして、はたしてどーゆーコンプレックスを持っているのかは知らないが、 再びすごい剣幕で暴れだした由美に、 「う…うわっ…な…なんでお前…そんな怒るんだよ!」 「う…うーるさいっ!あんたこそ何考えてんのよっ!!」 ぶんっ!…ぶぅんっ! 瞬は、とうとう飛んできた左右のビンタを躱しかいくぐりつつ、コリずにまたも慌てた様子で、 「わーっ!?待て待て待て!ち…ちがう!ちがうって!お…俺的にはまったく文句ねーっつうか、 勿体ねーくらいの身体だって言ってんだよっ!ホメてんだ!ホメてんの!だから、ヒザ立てんな! マジこえーからっ!」 「……ん?」 瞬の言葉に気付いて由美が察するに、どーやら暴れた拍子にジタバタさせた足…ヒザが瞬の 急所あたりに触れたらしい。 また、腰を浮かせてスウェーバックよろしく、へっぴり腰になっているところから、どうやら直撃 は免れたようだが………自分を見下ろす瞬の表情がやや青ざめていることから、その恐怖と 深刻さが伺える。 「………。」 一瞬、由美はこのまま暴れて、誤爆よそおい狙い撃ちでもして、このあんぽんたんにデリカシー とはどーゆーものかを身をもって知ってもらおうかとも思ったが…… その前の瞬の言ったことがちょっと気になり、とりあえず怒りはいったんサヤに納め、 「えと……じゃあ、瞬はあたしの身体…けっこうイイな、とか思ってるってこと?」 そんな由美のまったくの愚問に、瞬は、まあ…多分に自らの身を案じてのこともあるのだが… かなり真剣な表情になり、 「あ…あたりまえだろ!」 「あ…そ、そーなんだ……そっか……」 そんな瞬のマジな様相を受けた由美は、どこか呆けたようにそう言って、立てていたヒザを下ろし 、瞬の人中に照準を合わせていた拳も引っ込めた。 ともあれ、なんとか絶対危機は回避できたようで……瞬はほっと安堵しつつ、 「ああ。大体こんなエロいカラダはそーそーお目に…」 「え…エロいとかいうな!」 むぎゅっ! 調子に乗って余計なことを付け加える瞬の頭を抱え込み、それ以上言わせぬため… 「うぐっ!?」 由美は嬉しさ半分恥ずかしさ半分の思いのまま、瞬の顔面をその胸の中に押し付けた。 そして由美は、もがく瞬の頭をその大きな胸の谷間に埋めたまま―――――― (う〜ん……そっかぁ…だったらそんなムリなダイエットはこれから控えてもいーかな…) 「……むっ!むぐぐっ!」 胸元でもがく瞬の首と後頭部をがっちりと極め… (あ…でも…油断は禁物よね…それに瞬の目なんてあんましアテになんないし…) 「……ぐぐっ…んっ!……んうぅ…ぅ…」 (ん〜…でもでも…そーゆーことなら、これからパリアッチのチーズケーキ☆心置きなく 食べちゃえる………ん……?) 脳内でなにやらイロイロ思いつつ…だが、ヴィクトリアで行きつけのイタリアンレストランの デザートを思い起こしたあたりで…… 「……ぁ…ぅ…………………」 由美は抵抗する瞬の力が急激に弱まっていることに気付いて、 「……あ……」 どこか呆けた声とともに、抱える瞬の頭をぱっ、と放す。 途端に、瞬は激しく咳き込みつつ、がばっと顔を起こし、 「んぐっ!ぶはっ! げ…げほげほげほっ!」 「あ…ごめん。苦しかった?」 「げ…げほっ…く…苦しかった〜?じゃねえっ!殺す気か?てめーわっ!そーゆーことは、 まずてめーの胸の大きさ考えてからやれッ!!らんぎくさんかてめーわっ!」 訳のわからないコトを口走りつつ、猛然とした剣幕で怒号を撒き散らす瞬。 対して由美は、やや怯んだ態度を見せつつも、苦笑を浮かべて、 「あ…あはは……い、いーじゃん…おっきなムネに包まれて眠る…ってのは、オトコの夢… ってゆーか本望なんでしょ?」 「ね…眠るの意味が違ーっ!永遠に眠ってどーする!」 「あはは……まーまー、それもまたこーゆーカノジョをもった特権だよ☆ふつーできないよ〜 こーゆー思い……。それに…けっこーコーフンしたでしょ?ね☆」 そんななだめてめているんだか、火に油を注いでいるんだかわからぬ、反省の色の全くない 由美の態度に、 「…………。」 …ぶづっ…… 瞬は、自らのこめかみあたりでナニが切れた音を聞いた。 そして、いや…もう『そんで』でいいや。 そんで――― 「……ふ…」 「……ん…?」 嘆息に似た瞬の低い声に、訝りつつ向き直る由美。 「……んふふふふふふふふ……由美…あのよ……?」 「え…?な…なに…?瞬…ちょ…目…ヘンだよ…?」 唸るような低い笑み、だがむろん目は全く笑っていない瞬の表情―――に、戸惑いつつ由美 が返せば、 「おー……ヘンにもなるわな……今日もイロイロあった上、こーまでされると…よ……」 「……え……?あ……あの……瞬……?」 なにやら積もる恨みを噛み締めるように言う瞬に、由美は奇妙なデジャ・ヴュを感じつつ、 「え……え〜〜っと……瞬…?もしかして…しちゃった……ヒョウヘン……?」 そして瞬は、それにゆっくり深々と頷き、 「おー、でも今回のは…その前に、『真の』を付けたほうがいいぞ……」 「……へ?……真の……豹…変……?」 つぶやくように、由美が瞬の言葉をたどったその瞬間――― がしっ!がしっ! 由美の両肩に落ちてきた、力強い瞬の手のひらの感触。 「…え?……え?」 由美は、その様相を伺うように、意味もなく左右を見回し… 次いで…… 「…ひぁ…?きゃぁ…っ!!」 がばぁっ!と伸し掛かってきた瞬に悲鳴を上げ、即座に身体の自由を奪われその全身を 包まれる。 「ん…んあぁっ…や…しゅ……瞬……ちょ……んんっ…んむ……っ!」 まさに、なしくずし…というか、いつものパターンとゆーか…… ともあれ、『真の豹変』?…とやらに変じた瞬の熱情は凄まじく、また、先ほどの行為とは比する までもない大胆かつ繊細…そして俊敏な動きで、由美に抵抗する間も茶々を入れる間も与えぬ まま、その驚き顔の表情を見る間に真紅に染めていく。 「ん…んむ…っ!…んふぁっ……」 その実、ただの口付けとわずかな手指の動きだけで、重ねた唇の隙間から由美の熱い吐息が 漏れはじめ…… 「……ん…」 そんな由美の様子から、瞬は下処理完了、とばかりにそっと唇を浮かすと、舌を小さく突き出し たまま、つーっと首筋を舐め下ろしていき、 「ん…ふぁぁぁ…っ…!」 せつなげな由美の吐息を聞きながら、そのまま下方へと……途中、意外な弱点、鎖骨のライン を舌先で軽くトレースし、 「んぅっ!…くぅぅ……ん」 びく…っ、と身を捩る由美を御しつつ、その白くなめらかな肌に丹念に口付け、さらに舌先を下 へと歩ませていく。 そしてほどなく、舌先が明らかな弾力の違いを感じ、ふくよかな乳房の部位に差し掛かったこと がわかると、すでにその柔肉をたわませていた右手の五指と唇を合流させ、まずはその突端を ひと舐め… れろ…っ 「ん…ぁん…っ!」 やや鋭い感の由美の小さな悲鳴。 だが、今や明らかに悦びへの過重に傾いたその響きを確認しつつ、瞬は、舌先で転がす突起 が、身を起こし始めたその頃合で、優しくそれを唇に包み込んで…… ちゅくっ…。 「ん…っ?……ひぁっ…ぁ…っ!」 大きくその身を仰け反らせ、由美の身体から余分な力が抜けていくのを見計らい、さらに瞬は このときのために温存していた左手を、すーっと腰のくびれのラインに沿わせて、由美の下半身 へと伸ばしていく。 「はぁ…はぁ……え…?あ……」 荒い息つき、その様子を目で追う由美だが、身体の上を走る瞬の指先の光景は、どこか別次 元の映像を見ているようで、なぜか抵抗できず。 また、その間にも瞬の指先はさらに由美の下腹部を滑るように下降していき…… やわらかな草むらをかき分け―――すでにじんわりしかけたその部分へと……… 「ん……ぁ…はぁ…や…っ…ひぁ…ぅ…っ」 由美がかすれたような悲鳴をあげる。 瞬は、そのポイントにあたりを付け、二度三度、立てた指を上下に往復させて……さらに由美の 潤いを促す。 びくっ…びくんっ! 「んはぁ…っ!ひぁぁぁ…っ!」 せつなそうに身を捩り、熱を帯びた嬌声が由美の口から漏れる中、 瞬の指先に、じゅん…っ、と湧き立つ熱いものが…… 「……。」 まさに待っていたこのタイミング、とばかりに、瞬は撫でる指先その一本に、少しずつ力を込め 、ゆっくりとその中へと沈めていく…。 ちゅぷ…っ。 かすかに聞こえたような水の音。 そして、じんわりと自分の中に入ってくる瞬の指の感触に、由美は、 「ん…ひぁあっ!や…だ…ダメ…あっ…あ…あぁっ……あぁぁぁ……っ!」 震える全身を縮こまらせて、あからさまに上ずった嬌声を上げてしまう。 また、想像以上のスピードで急速に昂められていく自らの身体に、感覚と感情が一致しない ような……快感だけが先走って、感情が取り残されているような違和感に不審を抱き… (や…やだ……な、なにコレ……?ど…どうしよう……?) ちゅくっ…ちゅぷっ だがそんな心身の不一致を訝る間にも瞬の動きは止まらず…… さらにいっそう感覚だけが剥離されていき、 「んはぅっ!あっ…あ…っ…ああ…っ〜〜っ!!」 由美は、自分の預かり知らぬところで、身体がどんどん淫らになっていくのに怖さを感じつつ、 「んぁっ!…や…!んっ!…やぁ……んぅぅっ!」 次々襲いくる感覚から逃れようと、まさにちぎれんばかりに身を捩った。 「…っ!」 するとその、身を捻ったタイミングがよかったのか、斜になった上半身に続いて、腰から下も 上手く転がってくれて、やや驚いた様子の瞬の気配とともに、下半身の縛めが解けた。 つまり、うつ伏せの状態になることで、執拗な瞬の攻撃から逃れるような形になれたのだが…… 白いシーツに顔を伏した由美が、ほっと安堵の息つく間もなく、 「……ふっ…」 背後から、鼻で笑ったような瞬の嘆息が聞こえる。 実はこの体勢は、むしろ瞬の本意。狙いどおりといわんばかりに、すかさず瞬は、由美の背中に 伸し掛かっていき…… 「……へ…?」 驚く由美が振り返るいとまもあらばこそ。 ちゅっ。 先ずは体勢変えのご挨拶代わりにというような、その無防備なうなじへの口付け。 ぞくっ。 「ひぁ…っ!?」 由美は、刺すような刺激に思わず身をすくめて耐えるも、続いて瞬は唇を尖らせ…… ふぅぅぅぅぅ…… ………ぞくぞくぞくっ!! 「…っ!? ひッ!…ぁっ!…やっ!……ぅぅ―――っ!!」 数ある由美の弱点の中でも、その上位に位置するうなじへの、キス+吐息吹きかけの連続攻撃 に、由美は声にならない嗚咽を上げ、幾度となく小刻みにその身を震わせる。 「〜〜〜〜っ………」 全身が虚脱するような感覚に苛まれながら、それでも由美はなんとかとりなそうとするが、 次いで、背中を歩み下りる瞬の指先の感触…… 「ひ……ひあぁぁぁ〜っ………」 大きな手のひらが開き、お尻を撫でまわす感触…… 「…っ…やぁぁ…んっ!」 シーツとの隙間から差し入れられ、潰された乳房をいたわるように包む手のひらの感触…に、 「ん…あっ!やぁ……ん…ちょ…ちょっとぉ……」 由美は自らの浅はかな体勢変更を後悔しつつ、振り返り、泣きそうな声で瞬に訴える。 が… 「ん…、だって自分でこーなったんじゃん…こっちの方がいーんだろ……?」 待っていたのは、とぼけた口調で言う瞬のイジワルな答え。 また瞬は、そう言う間にも、お尻を撫でまわしていた手をその割れ目に沿わせ、前の方へと 沈み込ませていき……… ……ちゅく…… 再び、その指先が湧き立つ泉に触れ、ねじ込まれていく感触に、 「んひぁっ!やっ!ああああぁ―――っ!!」 まさに、背に乗る瞬を跳ね飛ばさんばかりに、大きくその身を仰け反らせ、喘ぐ由美。 また、後からされている先ほどとは違う、この鮮烈な感覚に、 「んあぁっ…い、イヤ……んっ!あ…はぁっ……ちょ…だ…ダメ〜っ!」 嬌声を口に、またも身を捩って半身を起こすも…… むにゅ……くりくりっ 「んあぁっ?ひぅっっ!」」 それはただ、乳房をまさぐる瞬の手のひらをフリーにさせただけ。 「ヤぁ…っ?そ…それもだめ〜っ!」 そして…… その後も由美は様々に体勢変更を試みるが、その身をどう動かそうとも…… ……ちゅくっ。ちゅくちゅくっ……。 ――――――沸き立つ泉を執拗に弄る指先に。 「んあぁ…っ!」 …むにゅむにゅっ。 ――――――やわやわと乳房を玩ぶ手のひらに。 「あふぅぅ………っ!」 …あむあむっ。 ――――――熱い吐息を吹きかけ、耳を甘噛みする唇に。 「んくぅぅぅぅ〜っ!」 結局その体勢をどう変えようとも、ことごとくその変位に対応し、臨機応変にその弱点をポイント してくる瞬の愛撫に、由美はもはやどうにもできないことを知る。 (…やぁ〜〜……だ…ダメじゃん…コレ……逃げられないよぉ……) そんな由美の悲痛な思いをよそに、さらに瞬の愛撫は熱を帯び、熟知したその弱点を容赦なく 攻め続け…… 「んぅっ!はぁぁ…っ!やぁ…っ……はぁぁぁ……んあぁぁぁ…っ」 意志の抵抗が追いつかぬまま、喘ぎに身をくねらせるその度に、由美のカラダは、徐々に淫ら な姿態を晒していき…… やがて―――――― 絶え間なく襲いくる快感の波に飲み込まれ……由美は、 (……やぁぁぁ…も…もぉ……だめぇぇぇ……) 心身ともに、深い愉悦の海へ、ゆっくりと沈んでいった…。 |
(9)へつづく。