ホワイトルーム・4

Milkey Night〜帳の降りたサーフライダー〜

 

(12)

 からん…っ。

 先生の手の中、グラスに残った氷が澄んだ音を立て――――――

 ―え…えーっと……。ちなみに、中に入っていたのは、透明な液体だったが……

 俺はヤな予感を胸に、ジト目でとりあえず聞いてみる。

「……って、先生……それ…水…じゃないよね…?」

「ん…?ああ、んーん。水みたいなモンよ……無味無香の……ウォッカだから…☆」

 尋ねる俺に、先生はまたもこともなげにそう言って、カルくウインク。

 なーんだ、それなら…………って………をい………。

 もはや言葉もなく。再びぼーぜんとする俺に、先生は、

「あ…。そっか、栗本にもつくってあげなきゃね☆―――んふ…♪ついでにあたしも、

もぉ一杯……」

 言いながら、空になったグラスを片手にベッドを立とうとする………

 ……って、…………………え…?

 ………って、黙ってみてる場合ぢゃないっ!

 俺は慌てて、腰を浮かせた先生の手首を掴んで、

「い…いや、俺はいーよ。そ…それに、先生もちょっと飲みすぎじゃない…?」

 はっきり言って『ちょっと』どころの騒ぎじゃない気がするのだが―――まあ…この

際それはさておき。

 ともかく、努めて平静を装い、苦笑混じりにそう告げた俺に、

「ん…?そぉ……?」

 怪訝な表情を浮かべつつも、俺の腕に呼び戻され…元の位置に腰をおろす先生。

 とりあえず、目の前の危険は回避できたようで……

 …………ふぅ…。

 俺は胸をなでおろしつつ小さく息をついて、再び身を横たえた…………。

 ……って、これもなんか…ついさっき、似たよーなことした気が……
                            
 デジャ・ヴ
 …などと、仰向けになった俺が、またも奇妙な既視感に包まれる一方、

「………ん〜」

 先生はなにやら名残惜しそうに、もう一度だけグラスを傾け、僅かに残っていた

ウォッカを飲み干して、

「…あ、ちょっとごめんね……コレ――置くから…」

 そう言って、俺の頭の横にあるベッド脇のサイドテーブルを示唆しつつ、俺に覆

い被さるように身体を伸ばし………、

(……あ…。)

 俺の顔の上、ぷるん…と揺れる白い乳房が通りゆき―――

 どくん…っ

 にわかに感じた脈動に、俺はその…屹立したままだった下半身の存在を思い出す。

 またその一方、

 先生は、完全に空になったグラスをテーブルに、ことり…と置き、

(さーて……んふふ…)

 そんな感じの笑みを浮かべつつ、なぜか無言で。そのまま俺に身体を下ろして……

 ちゅ…

 まずは、挨拶代わりのような軽いキスを俺の唇に重ね……

「ん…先生…」

「………」

 抱きしめようとする俺の手を、だがやはりなぜか先生は無言で制しつつ、唇を離さ

ぬまま、 俺の首筋…胸……下腹へと、つぅ〜っと舌を這わせていく……。

「……んうぅ…っ!」

 まだ冷たさの残る先生の舌になぞられ、ぞくぞく…っと身体の上を走り降りていく

感覚に身震いする俺。

 と同時に、なんかちょっと急いでるような感ある先生の動きに、やや物足りなさを感じ

て、

 ………?…。

 だが、そう頭がいぶかる間に、すでに先生は俺の股間深くに頭を沈めており――

 ん〜……あ☆。――――――ま…いっか。

 …などと、結局俺は、過ぎた微弱の快楽を求め得るより、これから起こるだろう目の

前の甘美な光景と、よりえっちな快感に重きを置き、来るベく刺激に備えることにする。

 そんな中、

「んふ…」

 ため息に似た笑みを漏らしつつ、俺のモノに手を添え顔を起こした先生は、

ここでようやくその閉じていた口を開き、
        
コ レ で……し て あ げ る ね
「んふふ〜こえで…ひへあえるえ…

 理解不能の言葉と共に、なにやら俺に見せつけるように、舌先に…何か透明な塊

―を乗せて…………って、ちょ…それもしかして……!?

 ――――――氷――――――!

 その物体の正体に気付いて刹那―――俺の頭は、一連の先生の行動と『これから

先生は何をするつもりなのか』、そして『俺はこれから何をされるのか』…そのすべて

を理解する―――が、理解したところで実際何をどーすることも出来ず。

「……………。」

 俺は、ただただ驚いた顔で、先生をじっと見詰めるのみ。

 また、そんな俺の驚愕の視線に、先生はどこか勝ち誇ったような涼しい笑みで

見つめ返しつつ……舌先に乗せた氷をゆっくりと引き戻して………

「…………

「……………」

 しばし俺たちは、まさに、狩る者と狩られる者…威嚇と怯えの視線を絡ませあい…

………その両者のためらいにも似た刹那の沈黙の後…

「んふ…」

 先生は、もう一度だけにっこりと微笑み、開く口の端にしたたる水滴を妖しく

煌めかせ……、

「ん…あむっ……」

 怒張したソレにかぶりついた――――――。

 ……ちゅ…ぷ…っ…。

(13)へつづく。

 

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