メイプルウッド・ロード
                     
#2番外編

 〜ムーンライトヘブン☆〜

(2)

 その一方、

 優しく抱きしめるその手で、葉月のかすかな震えを感じつつ、智也は…

「………」

 よどみなく…巧みな指の動きで、葉月の身体をゆっくりとなぞっていく。

 うなじから背中へ……。肩口から脇腹を辿り…豊かなふくらみへと……

「…ん…ぁ…は…ぁぁ……」

 甘い息を耳元で捉える傍ら、黒の長Tの布越しに、智也の指はスムースに、かつ

大胆に葉月のポイントを見出だしていく。

「んぅ……んっ…あ…っ…はぁぁ…ん…

 そんな指の動きに溶かされるように、徐々に湿り気を帯びてくる葉月の吐息……。

 ヒーターにより暖められた室温が、抱き合う二人をやわらかく包み―――

 それに伴って、智也の愛撫もゆっくりと熱を帯びてくる。

「ん…☆」

 幾度目かの口付けを交わし、触れた唇を離すことなく、顎先…そして首筋へとずらして

いき、

 ………ちゅっ……。

 シャツの襟元から覗く、白い胸元を痕がつかない程度に軽く吸った。

「あ……あふ…ぅぅん……っ」

 びくっ、と肩をすくめ、うっとりと甘い息を吐く葉月。

 まさに、タイミング、バランス、共に巧妙な…目を見張る智也の技巧―――だが、

「………………。」

 しかしその一方、智也もそんな全ての動作を沈着冷静、流暢に行っているわけでは

なく…

(……っ……。)

 とめどなく沸き立つ過剰気味の興奮が身体中に拡がり…本当は、今すぐにでもこの

まま押し倒して葉月の全てを奪いたい―――という慣れない欲求に戸惑っていた。

(……くぅ…マジぼれすっと、こ…こんなになんのかよ……。)

 心身ともに予想以上の己の変化に、さしもの智也も驚きを隠せず、

 もっとも、その反面、これまでに積み上げてきた経験が、そんな本能的な衝動を、

寸でのところで制しており――――

 己が胸中の葛藤などどこ吹く風で、智也の左右10本の指先は、『手順』通り、

ゆったりと滑らかに……葉月の肌の上を歩んでいく………。

 まったく未経験の、抵抗できない動揺への例えようのないジレンマに苛まれる中、

「……ふ。」

 刹那、智也の口の端に浮かんだ笑みは、呆れか自嘲か。

 ともあれ、これもまた、理屈や計算では『どーにもならないこと』であることを悟る。

 また、そんな考えへの移行が、なんとなく散漫になっていた両手の感覚を戻し、

 自らじれったさを感じるような、この手順どおりの指先にも、しっとりと熱を帯び始め

た葉月の体温を感じる余裕を産み、

「………。」 

 ある意味、まさに『心技一体』になった智也の動きは、ますます…本来の意味での

『熱』がこもっていく……。

 そして…仕切りなおしの意味も兼ね、

 ぎゅっ…。

 智也は、ひとたび葉月を強く抱きしめ、背に回した両手で、掻き絞るように長Tの生地

を握り締める。

 ぴっちりと肌に張り付いた黒い生地に、幾線もの放射状のシワが生まれ……

 その張力に負けたシャツの裾が、スカートの継ぎ目よりずり上がり――――

(……お。)

 むろん、狙ってやったわけではない…が、このきっかけを逃す由もない。

 すかさず智也は、指先をつぅ〜っと、なだらかな背中の曲線に辿らせ…腰元の、たゆ

んだ長Tとスカートの継ぎ目を捉えた。

 もっとも、こんな偶発的なきっかけなどに頼るなど、今までの智也には考えられないこ

とではあるが…、

(はは…ほんと、『やってみなきゃわかんねー』ってな…)
                    
オキラク
 最近、どこぞの誰かより学んだ楽天主義が、その行為を後押しし、

 すすっ。

 いまだ思うより一歩先に動いてしまう指先に、だが今度は躊躇せず、少し捲り上げる

動作とともに、背中側から中にもぐりこませていく。

 つぅ〜〜〜☆

 先ずる指の動きに、感覚を追いつかせるように、背筋に沿って一直線……。

「ん…あ……んぅ…ん…」

 地肌に感じた智也の指に、びくっ、と震え、背筋を伸ばす葉月。

 這う指の動きに伴って、長Tがたくし上げられていき―――

 薄闇の中、徐々にあらわになっていく白い背中が差し込む月光に照らされ、淡い輝き

をもってほのかに浮き立つ。

 もっとも、そんな耽美な情景も、むろん智也側からは見えないが、

 言葉どおりのその反面…智也の目下には、輝きを持ったピンク―――メタリックロゼ

とでも言おうか、華美な刺繍が施されたブラに包まれ…くっきりと、ふくよかな谷間を作

る豊かな乳房が顕在する。

 部屋の薄暗さが、その細く華奢な身体のラインと、ややアンバランスに思えるほどに

ふくらんだ乳房の起伏を微妙な陰影で形取り、より扇情的な情景を映し出す。

 ふつーのオトコなら、生唾でも飲み込み、動きを止めてしまうところだが、この辺はさす

がに智也。

 たくし上げる長Tを、その豊かな丘のふもとで止め、締め付けられるように突き出され

た乳房に手を添えつつ……

「……ん」

 落ち着いた動作で、頭を交差させるように葉月の首筋に唇を寄せる。

「あ…んぅ……」

 くすぐったげな甘い声を耳元で捕らえつつ、すくい上げるような手の動きで、ふくらみ

を優しく包み、指の腹を用いて、メタリックロゼのしなやかな生地の上を滑らかに走ら

せる。

 起伏に沿って指を辿らせるうち…ふとその頂の、ころっとした感触を捉えるが、

「ん…ぁ…」

 びくっと肩を震わせ、眉をひそめる葉月―――その様を一瞥しただけで、そこはまだ

おざなりに…。

 智也は、再度指の腹を用いて、下側のストラップの線に沿って両手を背中に回す。

 そして、背に置いた両手を、あたかも、やわらかく縦に引き裂くように…上下に別れさ

せ……片方の手は、シャツを捲り上げつつ背筋に沿ってうなじへ…

「ん…」

 その動作に呼応するように両手を掲げた葉月の腕から、長Tを引き抜き―――。

 また、下側に向かったもう片方の手は、細くくびれた腰のラインを通り……

 ぴっちりと張りついたタイトスカート越しに、なめらかな曲線を描くお尻のラインを辿

って、太ももの内側にもぐりこむ。

「……ん……あ……。」

 感覚をポイントする葉月の注意を巧みに逸らしつつ……素早く、かつゆっくり…

「…ん…ぅ…っ…ん」

 いまだ刺激を与え過ぎず…だが緩慢にならないような動きで。

「あ…あふぅ……っ………」

 布越しの指先に、かすかな湿り気を感じつつ…。

 まったくムダな動きがなく、葉月の肌の上を這う…あたかも、その1本1本が別々の

意識を持って動いてるような智也の五指。

 一方、葉月も無意味に身体を固くすることなく、そんな流れるような智也の愛撫に

身を任せ…

「ん…あ…あ………はぁぁぁ…ん……

 この心地好い焦れったさに悩ましく身体をくねらせる。

「んあ…あ…はぁ……智也……」

 もはや溶け入りそうに潤んだ瞳で智也を見詰め…再度口付を誘い、

「んむ……っ……」

 顔を近付けてきた智也をきつく抱き締め……

 やや荒々しく思える動作で、よりいっそう智也の身体に絡み付いていく。

 知的な外観とは裏腹の、その肉感的なボディが智也の身体に柔らかくのしかかり……

 とさっ。

 月明かりに照らされ、淡い色に輝くシーツの海に――

 ふたりは、重なり合ったまま崩れ落ちた………。

   

(3)へつづく