しようね☆W〜パラダイスナイト☆〜(3)
RRRRRRRRR……!
『!?』
突如、リビングに鳴り響いた電話の音に、中の4人はもとより、ドアの外の俺にも緊張が走る。
「…んぅぅっ!」
そんな一瞬の間隙をついて、戒めを振り払い、その場にへなへなと崩れ落ちるらいか。
「え…えっとぉ…らいか先輩?電話鳴ってますけど……」
「はぁはぁ…わ…わかってるわよ!今出る…」
おずおずと言った女の子の声に、息も絶え絶えのらいかは足元をふらつかせながら立ち上がって、コードレスの受話器を取った。
ちなみに、この部屋の電話は、ケータイと違ってホントに親しい友達とかにしか教えてないので、らいかも出ていいことになっている……って、ケータイの方も遠慮なく取っちゃうけど。らいか。
まあ、そんなことはともかく…誰だぁ?せっかくいートコだったのに………(違うだろ)
「は…はい。もしもし……って、ああ、なんだ桜井君?」
あぁ?桜井?なんだあのヤロー今頃……
即座に取り繕って応対するらいかの声を聞き、ドアの向こうから、憎々しげに舌打ちする俺。
あ…ちなみに「桜井」とは、俺の職場の後輩。素直でよく気が利く俺が一番可愛がってる後輩で、また奴の彼女はらいかを通じて紹介してやったといういきさつもあって、むろんらいかもよく知ってる。
と、そんなどーでもいーことはさておき、
「……うん。えっと今お風呂なんだけど……え?ああ、いーよいーよこのまま持ってくから…ちょっと待っててね」
……え?あ…おいおい、まずいぞ。
通話口を押さえこちらに向かってくるらいかに、俺は慌てて、だが足音を立てぬようドアから離れ、急いで風呂場へと戻る。
「ふう…」
洗面所の鏡の前で息を整えつつ、とりあえず髪を直すふり。
そこへ、ほどなく、
こんこん。がちゃ。
まったくノックというものの意味をわかっていないらいかが、ドアを開け、
「たけあき……あ、もう出てたの?あの…桜井君から電話だよ」
全て俺が見ていたことも露知らず、何事もなかったように服を整えたらいかが俺に電話を手渡す。
「あ…ああ」
もちろん俺も、鏡に向かったまま、平然とした態度を装ってそれを受け取り――
「あーもしもし、俺だけど………。って、ああ?なに〜?」
はっきりいって、くそしょーもない桜井からの電話の用件に、あからさまに不機嫌なものに変わる俺の声。
「……っかやろ!んなこと、あさって仕事始めてからでもじゅーぶん間に合うことだろーが!」
いいトコで水を差された悔しさも十二分に合わさって、洗面所の中に俺の息巻いた声が鳴り響く。
背後の、鏡に映ったらいかが、はらはらした様子で見ているのがわかり、
…あ?…いけね。
俺は少し声のトーンを押さえて――
だが、
「ああ…。わかったよ。ったく…しょーがねーな…せっかく、こっちゃ、いートコだったのによ……」
…あ。
「………あ、ああ!いや、なんでもねーよ。そんじゃまたな!」
ぴ…。
とにかく、取り急ぎ電話を切り、
「え…えーっと……?」
ゆっくりとらいかの方を振り返る。
そして、言うまでもなくそこには、
「…………。」
らいかの冷たい視線が待ち構えていた。
「ねー?」
「ん…な…なに?」
ずいっと詰め寄ってくるらいかに、猛烈にビビリながらも、なんとかとぼけた声を絞り出す俺。
俺を見上げるその両の瞳は、いつもの可愛い猫の目ではなく、あたかも獲物を見極めた牝豹のように鋭い光を放っていた……
う……。ま…マヂでコワイ………。
「ねぇ、『いいトコ』って何?」
「え…いいいいいいいや…そ…それはだな、そそそそその……そう!ふ…風呂…が気持ちよかったから…」
「ふぅん。お風呂…ねぇ?」
怪しさ爆発の口調で言う俺に、それでもらいかは、すっ、と俺から目線を外し、そのまま浴室の方へと目を移す。
我ながら、非常に苦しい言い訳だとは思うが、とりあえず証拠はないはず。とにかくこの線で押し切ろう――
などと考えつつ今後の見解を定めた俺に、
「ふうん、ずいぶん気持ちのいいお風呂だったみたいだね…」
再び顔を向けるらいか。心なしだいぶ表情も和らいだ様子。
お☆ひょっとして、ナットクしてくれたか?
「お、おー。」
あれこれ問い詰められることを危惧していた俺は、胸の内で、ほっと安堵の息を吐き、何食わぬ口調で応える。
だが、そんな風に俺が気を抜いた瞬間。
掬い上げるように伸びてきたらいかの手が――
「ここが、こぉんなになるまでねっ!」
ぎゅむっ!!
「ぐあああっ!」
鈍く悲痛なる俺の絶叫が、狭い洗面所の室内に響き渡った………。
そう――、証拠は―――あった。それも顕然たる形で。
俺自身、すっかり忘れていたが、さっき鏡の前から振り返ってからこっち、ソイツはしっかりその存在を、らいかにアピールしていたらしい……
「うぐぁぁっ…い…いててて!ちょ…ら…らいか……や…やめ………」
そして、現在何をされているのかはもはや細かく記す必要はないだろう……それに、思い出しただけでも股間が薄ら寒くなること請け合いなので、ココでの詳しい描写はあえて省かせていただく。
ともあれ、不自然に隆起する俺のスエットパンツのその部分を握り締め、らいかは、
「見てたんでしょ?正直に言いなさいっ!」
「う…あああっ!いててて…な…なにを……」
この期に及んで、まだ往生際の悪い俺。
だがむろん、シラを切り通せるはずもなく……
「見・て・た・ん・で・しょ?」
一語一語噛みしめるように言うその言葉に合わせて、握りしめるその力も強めていくらいか。
ぐりりっ!
「ひ…?うあああっ!や…やめ…つぶ……つぶれるぅっ!」
やがて……そんなこの世のものとは思えない男として最も味わいたくないキツイ拷問の果てに……
「ぐ…ぐぁぁぁ!は…はいぃっ!ご…ごめんなさいっ…見てた…見てましたっ!……だ…だから……」
「……。」
沈痛な叫びで俺が白状すると同時に、らいかは無言で握りしめる力を緩め、すっと俺のモノから手を離した。
「ひぁぁ…」
たまらず、へなへなとその場にへたり込む俺。比喩ではなく本気で血の気が失せ、全身の力が抜けてしまった。
また、らいかはそんな俺を、腰に手を当て見下ろして、
「――で。興奮した?」
「え…?ああ…そりゃ…もう……」
冷ややかな目線を俺に向け、冷めた口調で尋ねるらいかに、もう拷問は終わったにも関わらず、バカ正直に答える俺。
そして、このときの、苦しみからから解放された安堵と若干の回想の念によって、浮かんだ口元の笑みがいけなかったのだろうか……
ついに、らいかの怒りが爆発した。
「もう!信じらんないっ!自分の彼女がいいように嬲り者にされてたっていうのに、それをスケベ―笑い『へへへ〜☆』とか浮かべて黙って見てたわけっ!?」
い…いや、おおせごもっともだけど…。見てたのか?らいか…。
「い…いや、だ…だからね…それは……」
「いーわけなんか聞きたくないっ!もうたけあきなんか大っきらいっっ!」
ばたんっ!
俺に何も言うひまも与えず荒々しくドアを閉め、洗面所から出て行くらいか。
後には、しーんと静まり返った洗面所………
ほこりが舞い散り、ドアにかけられた空のタオルハンガーがきこらきこら揺れたりなんかしてるそんな中、座り込んだままぼーぜんと一人佇む俺。
あーあ。
マジに怒らせちったなぁ……まあ、ムリもねーけど……。
重いため息ひとつつき、さすがに自分の行いを心底反省する俺。同時に今後、どーやってらいかの機嫌を直すかを模索し始める………。
「………はあ。」
が、むろんいつまでもこんなトコに座り込んでたって妙案が浮かぶわけでもないし、なによりリビングには、まだあの子達もいる。らいかの立場的なものもあるだろーし、そろそろ戻らないとまずいだろう。
「よっ…と」
まんじりとしないまま、立ち上がり、沈痛な面持ちで洗面所を後にする俺。
廊下に出て、重い足取りをリビングに向けたそのとき……