甘い欧州旅行

第二章「しなやかな女豹」

(2)

 洋子さんの部屋の前。

「Hi…?」

 俺がノックをして数秒後、洋子さんはチェーンロックを掛けたままドアの隙間から顔

を覗かせた。やや、訝しげな顔である。

「あら、なんだ…基明クン…か、なぁに…?」

 しかし、来訪者が俺だと確認すると、洋子さんはなぜか安堵の息を漏らし、チェー

ンロックを外した。

「『なんだ』はないでしょ、洋子さん。ま…いいや、明日の予定の事で聞きたいんだけ

ど……」

 ドアを開きつつ言う俺の言葉が止まる。なぜなら、ドアを開ける際、洋子さんが訝し

げな顔を見せたわけが分かったからだ。

 俺の目の前に佇む洋子さん。そのいでたちは、バスローブをまとい、頭にはタオル

を巻いている。

 そう、洋子さんはシャワーから出てきたところだったのだ。

 洋子さんは襟元を手で押さえているが、その隙間から大きな乳房の谷間が……

 ごく。

 思わず喉を鳴らしてしまう俺。

 ……やば、バレてないだろうな。

 だが、そんな心配をよそに、洋子さんは、

「え…? 何、さっき聞いてなかったの? あんなに近くでしゃべってたのに……

 あーあ……いいわ、こっちいらっしゃい。」

 溜め息一つつき、呆れ顔になってソファに腰掛けると、俺に隣に座るよう促した。

 来訪者が俺だということで、すっかり安心した様子である。

 …どーでもいいけど、ちょっと、腹立つぞ。それ。

 やや気後れした俺が隣に座ると、洋子さんは、かぶりを振って、頭に巻いていたタ

オルをほどいた。

 しっとりと濡れた洋子さんのボブヘアが、頬を包むように落ち、甘いシャンプーの香

りが俺の鼻をくすぐった。

 ……ふわー、色っぽい……

 不覚にも、しばしぼーっとなってしまう俺。

「…で、なにが聞きたいの?」

 気付けば、洋子さんは、足を組んだ太ももの上に片肘をつき、手の甲の上に頬を

乗せ、上目遣いで俺を軽く睨んでいた。

 猫を思わせる洋子さんの大きな瞳。それは笑うと年上ながら可愛いのだが、この

ように睨まれた時は妙な迫力があるのだ。

「え、あ、ああ、いや…その、明日の集合時間って何時だったかなァーって……」

 多分にうろたえてしまう俺。

「………。ふぅーっ、あーあ…、やっぱりそんな事だろうと思った……さっき、あんな

に一生懸命、説明したのに…。ホントにしょうがないな、キミたちは…?」

 洋子さんは途端に呆れ顔になり、一際大きな溜め息をつく。が、すぐに気を取り直

し、 ソファに大きく座り直すと、足を組み替え、間の抜けた俺の質問に答えてくれよ

うと…… って………ををっ!

 ……バスローブの裾がはだけて、太ももがあらわに……

「………」

「……集合時間は、その基明クンが持ってる『旅のしおり』通りよ…六時半………

 そのあと……」

 生唾を飲み込み、込み上げてくる思いをなんとか押さえ付ける俺。

 一方、何も知らない洋子さんは、淡々と冷めた口調で説明を続ける……が、その

説明の合間にも黙りこくっている俺に、なにか違和感を覚えたか、

「……ん? ちょっと、基明クン、ちゃんと聞いてる?」

 やばいっ! 

「あーっ! 洋子さん、その後は分かる。で…そのあとこの『ユング・フラウ・ヨッホ』

とかいう山に登るんだよ…ね?」

 赤くなった顔を見られまいと、俺はあわてて、場を取り繕う。

 …よかった。明日の予定は俺も楽しみにしていたところだったので、きちんと『予

習』 していたのだ。

「そ…そうよ、遅刻しないでよ、くれぐれも…。」

 突然の俺の大きな声に、きょとんっとする洋子さん。

 よし。勢いで圧倒した。

 自分のペースを取り戻した俺は、多少狂った予定を再び軸線に戻すべく、さらに続

ける。

「うん、わかってるよ…。それでさ、この山には歩いて登るの? 」

 言いつつ、俺は旅のしおりを見せるように、洋子さんに、にじり寄る。

 身を引くかと思いきや、洋子さんはしおりを覗き込むべく、自分から顔を近付けて

きた。

「へ…? あ、歩いて…? あはは…あのねぇ、基明クン? 『ユング・フラウ・ヨッ 

ホ』って登山家が登るような山だよ。ま、キミだけ日本に帰るのが大幅に遅れてもい

いんなら、あたしは止めないけど……」

 俺のおバカな質問を、鼻で笑う洋子さん。

 あ。言っとくけど、これも作戦のうち。……ホントだぜ。

「じゃぁ…、何で登ンの…? 」

 俺は口を尖らせ、少し憮然とした声を上げる。

 …くどいようだが、これも作戦だからな。

「あはは…ゴメン…怒ンないで…。…登山電車で登るの。あのね、スイスの登山電車

は優秀なのよ! 3000M級の山にもバンバン登っちゃうんだから」

 と、子供をあやすように言う洋子さん。

 よーし。予想通りの展開。んじゃ、そろそろいくか……

「へえーっ…登山電車かぁ……それを聞いて安心した。」

「安心…って、なにが…? あ…まさかキミたち、また夜更かしするつもり?

 ダメだよ…! 明日の遅刻は絶対許さないからね!」

 何かを察し、語気を荒くする洋子さん。けど、意味が違うんだな。

 俺はそれを証明するべく、無邪気な笑みを浮かべて言った。

「大丈夫。夜更かししても、遅刻しなきゃいいんでしょ? それに洋子さんは絶対遅

刻しないでしょ?」

「そ、そりゃ、あたしは仕事だもん……でも、どういう意味?」

 謎めいた俺の言葉に、首を傾げて、洋子さんは尋ねる。

 その間に、俺は一気に彼女との距離を詰めた。

 眼前に迫った俺の顔に、洋子さんの表情は驚きへと変わる。

「こういう意味!」

 言葉と同時に、俺は驚き顔の洋子さんに唇を重ね、そのまま体重をかけて押し倒

した。

「アッ!……なにするの? や、やめ……」

 洋子さんはもがいて、逃れようとするが、両腕もろとも強く抱き締めた俺の腕を振り

ほどくことはできない。

「シーッ! 隣、安田さんでしょ? 聞こえちゃうよ。」

「だ、だって、こ…こんな…アアッ!」

 もちろん部屋の壁がそんなに薄いわけはない。だが、混乱した洋子さんは俺の言

葉を真 に受けたか、思わずその声のトーンを弱めてしまう。

 そのスキをついて、俺は素早く、待ち望んでいた場所、洋子さんの胸元へ手をすべ

りこませた。

 …うわ……マジ、大きい……

「明日の山を登る前に洋子さんの山を登りたくって……。」

 訳の分からんギャグを飛ばしつつ、その柔らかな弾力を楽しむ俺。むろん、片手で

は押さえ付けるように洋子さんの身体を抱き寄せて。

「え…? もう、ば、馬鹿なこと言ってないで、は…はなして…っ!」

 洋子さんは俺の胸板に両手をついて、引き離そうとするが、あいにく、俺の体重プ

ラス抱き寄せる力で、その努力は徒労に終わる。

「ダーメ、洋子さんの身体をタ・ン・ケ・ンするんだもん…」

 俺はもがく洋子さんを制しながら、バスローブの紐をほどいた。

「アアッ…? だ、ダメェ…ッ! 」

 布がはだける感覚に気を取られ、一瞬、洋子さんの身体から、俺を押し退けようと

する力が抜ける。

 その一瞬が命取り。俺は一気にバスローブの前を大きく開き、あらわになった豊か

な双丘に五指を這わした。

「ホラ、この二つの山、とっても大きい…あ…頂上は絶壁になってる。」

「ああっ…い…いやっ…やっ…だめ…あん…っ」

 俺の指使いで、洋子さんの抵抗の声に、徐々にではあるが、吐息が混じる。

 よっしゃ。もらった!(^^;

「へぇ、洋子さんの身体って起伏に富んでるね……山を下れば……窪みがあって

……なだらかな丘を越えれば森もある…と」

 相変わらず、訳のわかんないことを口走りつつ、俺は指でゆるゆると洋子さんの身

体を下へとなぞっていった。

「アッ…、アッ…、ア…ッ! ん…っ…はぁ…ん…、ダ…ダメ…ェ…」

 俺の指の動きで、洋子さんの身体から抗う力が抜けていくのがはっきりとわかる。

 …うーん、いつも思うんだけど、俺の指ってそんなに気持ちいいのかな? 自分じ

ゃ試しようがないから、わかんないけど……

 洋子さんの柔らかな茂みをまさぐりつつ、計画が順調に進んでいる余裕から、こん

な事を考えてしまう俺。

 …っと、油断は禁物。そろそろ、最後の詰めに入るか。

「あ。森の奥には…泉が湧いてる。」

 俺の言葉通り、洋子さんのソコはすでにぬめりを帯びていた。

 俺はその縁に沿って、中指で楕円を描くようになぞりつつ、ゆっくりと中へと沈み込

ませた。

「アッ!! ダ…ダメッ!」

 俺の手首をつかんで、最後の抵抗をする洋子さん。だが、それはすでに手遅れで

あった。

 というのも、この時点で俺の指は、その『泉』の上部にある小さな突起を探し当て、

転がすような動きを始めたからだ。

「アアッ!? そ…そこはっ! ……は…はぁぁぁ…」

 洋子さんは、つかんだ俺の手首をつよく握り締める…が、ただ、それだけである。

 つまり、やめさせようとはしていないのだ。

 …ふ、こうなりゃ、もうこっちのもんである。

 俺は洋子さんを抱き締める手を緩め、少し身体を浮かすと、柔らかな乳房に舌を

這わす。同時に、中指に力を込め、

 …ずぶずぶ…

 先程よりもいっそう深く、洋子さんの中へと沈み込ませた。

 そして、とうとう、

「アッ! アウッ! はあああっ…。も、基明クン…、ぁ…わ…わかったから…、お、

お願い…よ……はぁっ!…ち…ちゃんとして…、はぁう…ッ!」

 乳首をくわえる俺の顔を起こし、上気した顔で訴える洋子さん。

 よーしっ! 完璧。

 俺はある種の征服感を覚え、愛撫の動きを止め、身体を離す。

 へへ…、やっと、お許しがでたか。そんじゃ…って…えっ!? ええっ!?

 俺が力を抜き身体を離した瞬間、洋子さんはまさに猫のような動きを見せ、身体を

するりと下へ滑らし、俺のスウェットパンツに手を掛けると、トランクスもろとも、ずり

下げてしまった。

 な…なんだなんだ!?

「よ、洋子…さん?」

 予想外の洋子さんの行動に、目を丸くして驚く俺。

「んふ。あたしはね、自分だけされるのは性に合わないの……」

 俺の分身をつかみ、ニヤリと笑みを浮かべる洋子さん。その表情はあたかも獲物

を捕らえた『女豹』のようであった。

 俺の背筋にぞくりっとしたものが走る。と、同時に股間にはぬめりとした洋子さんの

舌の感触が……

 突然の展開に、俺は呆気にとられ、ただ洋子さんにされるがままになってしまう。

 う…うまい。洋子さんの舌が…棒…の部分に絡み付いて……

「うっ…す、すごい…洋子さん…うまい…よ」

「ふふ…あたりまえでしょ。だてに…んっ…キミより…あむっ…長く生きてないのよ

…!」

 ぴちゃっと水音を立て、洋子さんは口を放して、妖しい笑みを見せる。そして、言葉

の合間は、巧みに俺の分身を手でこねまわした。

 …うーん、さすが。抜け目ない。こりゃ相当気合い入れないと、さっき凌に言われた

通りになっちまうかも……

「……ん…ふ。そろそろいいかな……さて……基明クン? あたしに火をつけた責任

はしっかり取ってもらうわよ?」

 ひとしきり、俺のモノを弄んだ後、洋子さんは俺の首に手を回して、挑発のまなざし

で俺の目を覗き込んだ。

 ……うっ、すっごい色っぽい目。でも……ここで怯むわけにはいかないっ!

「へっ、望むところ! よーし、じゃ…オレもテク、全開でいくよっ。」

 気持ちを奮い立たせ、俺は言葉を返す。

「そうよ、いらっしゃい…、ボ・ウ・ヤ☆」

 いっそう、妖艶な笑みを浮かべ、俺の耳元に息を吹き掛ける洋子さん。

 …くううっ、やば、負けそう。

 ほどなく、俺たちは抱き合ったままベッドに崩れ落ちた。

 

「しなやかな女豹」(3)へつづく・・・・

TOPへ もくじへ 「甘い欧州旅行」もくじへ