しようね☆・U〜好きにして☆〜(1)
「はぁ…とにかくメシでもつくるか……」
まんじりとしない思いを胸に、
がちゃ。
冷蔵庫のドアを開け、中を物色する俺。
ともあれ、らいかが寝ているうちに、朝メシ作っちゃわないと……
――また、「らいかも手伝うぅ〜」とか言われて、朝食が昼食になっちまうのもなんだしな。(笑)
以前のことを思い出し、軽い笑みを浮かべつつ、俺は冷蔵庫の中にある材料をいくつかピックアップし、頭の中でひとつの形に組み上げる。
「ま…チーズオムレツでいっか。らいかも好きだしな」
そう、ひとりごち、俺は冷蔵庫のドアをばたんと閉めた。
…ちゃっちゃっちゃっ……じゅぅぅぅ〜〜…。
念入りに溶き混ぜられ、輝きを帯びた黄色が、フライパンの上、真円を描いて広がる。
ちょうど、そのとき、
「おはよ〜〜」
目ボケ眼をこすりつつ、引きずるような足取りで、パジャマ姿のらいかがキッチンに現れた。
「おー、もちっとでメシできっから、向こうで待ってなよ」
「うん……」
まだ眠そうな声でそう答え、らいかは、戸棚から、お気に入りのマグカップを取り出し、
今ちょうど落ちたところのコーヒーメーカーに手を伸ばす。
こぽこぽ。
俺の背後で、コーヒーが注がれる音。
一方俺は、卵が頃合に固まってきたのを見計らい、シュレッドチーズをぱらぱらっと撒いてから、
あらかじめ炒めてあった具をその中にそっと落とす。
ターナーで端から丁寧に包んでいき、半月状の黄色の塊に仕上げ……
「よし…」
とんとんとん。
フライパンの柄を拳で軽く叩きつつ、形を整え、崩さないように気を付けて……
一瞬だけ呼吸を止めて、卵を返そうとしたそのとき、
「ねえ……」
「ん…?」
「あのさぁ…らいかのぱんつ知らない?」
「!?」
ぐちゃ……
フライパンの中、せっかくいい頃合で焼けたオムレツが、見るも無残な姿に変貌した。
………あーあ。
しょーがない……こりゃ、俺の…だな……
……しくしく……
「えー!? 持ってっちゃたの?あのヒトが?」
ともあれ、朝食を食べ始めた俺たち。
しどろもどろながらも、わけを話した俺の言葉を聞いて、らいかは怒気のはらんだ声を張り上げた。
「うん……」
オムレツくずれスクランブルエッグもどき(涙)を、フォークでつつきつつ申し訳なさそうにうなずく俺。
「もう!信じらんない! らいかもう絶対あのヒトと会わないからね!」
さらに怒った口調で、声を荒げるらいか。
ちなみに、らいかの眼下には、怒りのせいで一口しか手をつけてもらってないオムレツが、次に口に運ばれるのを淋しそうに待っている。
―――っていーから、まず食えよ。今まででも最高の出来だぞ。そのオムレツ……
「ああ。俺ももうらいかに会わせるつもりはねーよ」
かわいそうなオムレツのため――もとい、ともかく、なだめるように言う俺。
だけど、これは本心。
――誰が二度と会わせてやるもんかよ。俺のらいかを……あんなばかやろーに……。
そして、1回たりとて会わせてしまった昨晩のことを、改めて心の底から、後悔する……って、あ。なんか思い出したら、むちゃくちゃ腹立ってきた……。
「あ…でも、あのひとよくここに来るんでしょ? どーしよ。これから……らいかがあんまり来ないようにしなきゃいけないのかな?」
「あー心配すんな。もう連れてこね―から」
「え…でもだって…長い付き合いなんでしょ……」
「ふん…付き合いなんて上等なもんじゃねーよ。まあ、くされえんってとこ……それにだいいち!もう昨日みたいな思いするのはこりごりなんだよ!」
やや声をあらげてしまったのだろーか?
きょとんとするらいか。だがすぐに、くすっと笑みを浮かべ、
「はらはらしたから?」
「ああっ」
「それとも、えっちがまんしなきゃいけなかったから?」
「おー」
ぶっきらぼうに答えつつ、俺はオムレツ崩れスクランブル…(もういいって)を、がっぱがっぱと口に運ぶ。
「ねえ…たけあき…?」
「ん…?」
ハムスターのようにほお張った顔を上げる俺。
するとそこには、フォークを片手に両手で頬杖ついて意味深な笑みを浮かべたらいか。
――おーい、行儀悪いぞ……って、らいかがこーいう顔をするときは、たいがい………(汗)
そして、俺の懸念通り、らいかは、満面の笑みで、
「今日は、たけあきの好きにしていいからね☆」
………ごくんっ!
………俺は、詰め込んだ口の中のものを、噛むこともせずに一気に飲み下し………
その後、盛大にむせた………。
「げふげふげふげふっ………!」
「あー、もうばかぁ。そんなに詰め込むからでしょ………はい、コーヒー」
呆れたようにそう言われ、手渡されたコーヒーを俺は一気に流し込む……って……
「ん…んっんっん………?……んむっ!!」
確かにコーヒーは、もうすでにやや冷めてはいた。が、口の中ではなんとか耐えられる温度であっても、喉の奥まではそうもいかなかったようだ。
食道を流れ落ちていく熱いコーヒーを感じつつ、目を白黒させる俺を見て、らいかは、
「だ…だいじょぶ?……ぷ……やだもう……あはは……」
「な…なんだよ……?」
「あはは…だって、たけあき子供みたいなんだもん……」
――くそ。誰のせいだと思ってんだ。
ジト目でらいかを睨みつつ、だが俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「おいしー☆ さっすがたけあき!プロみたい☆」
――おいおい、俺はプロだっての。いちおう…………って、そんなことより……ふーん……?
確かに言ったよな、らいか、さっき。「今日は……」とかなんとか……えへへへ☆
ようやくニコニコ顔で食事を再開させたらいかに、気付かれぬよう、俺は、にんまりとした笑みを胸のうちに浮かべた。
そんなわけで、食事も済み、らいかは食器を片付けキッチンへと姿を消す。
それを見計らって、俺はタバコに火を点し、食後の一服。
「ねー、今日はドコ連れてってくれんのー?」
じゃーじゃー、という水音混じりに、キッチンで洗い物をしてくれてるらいかの声が届く。
冬晴れのよく晴れた日曜日。窓から差し込む陽の光もぽかぽかと暖かく、たしかに出かけるのには絶好の日よりなのだが……
「んー? そうだなあ……」
俺は、ぼわっと煙を吐き出しつつ、さも考えてるような口調で返した。
…と、言っても、確かに「今後の予定」を考えていたことには違いないのだが……
ともあれ、
きゅっ。
水道の音が止まった。
どうやら、洗い物も終わったらしい。
「ねー、どーするか決まったぁ?」
エプロンで手を拭きつつ再びリビングに現れるらいか。
「うーん、まーな。大体…」
「えー☆どこどこぉ?ね、バイクで行くのっ?」
決まった内容が、どんなものかも知らずに、はしゃぐらいか。
――へへへ☆
「ま…とにかく、着替えてこいよ。そのカッコじゃドコも行けないぞ」
俺は、含み笑いが漏れそうになるのをこらえて、パジャマの上からエプロンをつけているらいかを眺めながら、そう示唆する。
「うんっ!じゃ、ちょっと待っててね☆ あ…たけあきの服は、あとでらいかが選んであげるからね☆」
俺の言葉を聞いて、ぱたぱたと嬉しそうに、着替えが置いてある寝室へと向かうらいか。
背後で、ぱたんっとドアの締まる音が聞こえ、
――ふっ、かかったな☆
にやっと、俺の口元に、やーらしい笑みが浮かんだ。
そして………