ハート・オブ・レイン
              スコール
〜第2章 はじめての甘熱雨〜

 

(6)

「………っ!!」

 がばぁっ!

「え…あ…?」

 まったくもって、当然の行動と言えるだろう。男…いやオスとして…。

 そして……

「や…ちょ…ゆ…勇樹く……きゃぁっ!?」

 身を翻し荒々しく伸し掛かっていく勇樹に、美沙は再びベッドに押し倒されていった。

「え…あ…ちょ…待っ………や…やだ…勇樹くん……顔…マジ……」

 突然の勇樹の豹変に、組み付かれた状態で両手を押さえ付けられ、引きつった笑み

を浮かべる美沙。

 当たり前である。ある程度経験のある者ならいざ知らず、未経験の…それも勇樹のよ

うにウブなタイプにあのような挑発は命取り(笑)

 ともあれ、完全に火が付いてしまった勇樹。

 まずは、やや脅えたような表情を浮かべる美沙に、思い詰めたような顔を近付けてい

き、熱いキス……

「え…や…ぁ…あむ…っ…んんん……」

 荒々しく押し入ってくる舌に戸惑いつつも、次第に美沙の頭は霞がかかったように、

ぼーっ、となってくる。

 次いで、勇樹は、押さえ付けている美沙の手首から力が抜けていくのと同時に、そ

の手を離し、ゆるやかに下げていった手のひらで、再度ふくよかな乳房を揉みしだく。

「んああっ…あ…あ…ん……はぁ…んん…ゆ…勇樹く……」

 吐息を吐く間、美沙が唇を離せば、勇樹は、その無防備な首筋に吸い付いていく。

「あ…はあぁ…っ!ん…ああ…ん…」

 全身を駆け巡る、ぞくぞくっとした感覚に、大きく身をのけ反らせる美沙。

 また、勇樹はそんな浮き上がってきた美沙の身体を引き寄せ、胸元に這わせた舌

を一気に乳房の突起まで走らせる。

 ちゅばっ!

「ん…ああーっ!や…はあああぁっ!」

 刺すような刺激に身をすくめて、美沙はさっきと同じように勇樹の頭を抱き抱える。

 ちゅ…ちゅ…

 だが、柔らかな乳房にその顔を埋めながらも、今度は勇樹の舌の動きは止まらな

い……。

「はあっ…はあっ…」

 息もままならぬ苦しい体勢に荒い息を吐きながら、それでも容赦なく美沙の乳房を

貪る勇樹。

 その突起を口に含み……。舌先で転がし…。ねぶり…。弄ぶ…………。

「あっ…ああっ!あぁ……んっ!はぁぁぁ…ん……っ!」

 髪を左右に振り乱し、いっそう強く勇樹の頭を抱きかかえる美沙。

 やがて、これも本能なのか、それともどこかで聞いた知識なのか、それはわからな

いが、自然に勇樹の手は美沙の下半身へと伸びていく。

 なめらかな下腹のスロープを下り、やわらかな草むらをかきわけ……

「……あ…」

 初めて触れた、女性のそれは想像以上にやわらかく、あたたかかで……そして……

 ぬる……

 濡れていた………

「……んあぁっ!?……はぁ…ん……そ…そこ…は…いいよぉ……」

 勇樹が一瞬躊躇する間に、美沙は上気しきった顔を起こし、 本当に恥ずかしそうに

身を捩らせながら、戸惑い気味にまだ触れているだけの勇樹の手首を掴む。

 むろんそんな美沙の手に力は入っておらず、何の妨げにもならなかったが、

「………あ…う…うん…」

 なにかとてつもなくいけないことをしているような気がして、勇樹はゆるゆると手を引っ

込めつつ、美沙の顔を仰ぎ見る。

「ん…あ…あは…。ご…ごめん……。ま…また今度ね……き…今日は…もう…はずか

しいから……。だから…ゆ…勇樹…くん…お…おねがい…も…もう…き…きて………」

 紅潮した顔をさらに赤く染め、テレた笑いを浮かべつつ横向きに目をそらせながら言う

美沙。

 どくんっ!

 この日最後の…そして最も大きな緊張に、ひときわ高鳴る勇樹の鼓動。

 …ついにこの時が来た……

「あ…う、うん……」

 息苦しささえ感じながら、勇樹は改めて、ゆっくりと美沙の身体に伸し掛かっていく。

「………」

 美沙の両足を少しだけ開き、自分の下半身を割り込ませ、差し込んだ手で自らのもの

を握り……

「あ…ン…………こ…ここ…だよ…」

 添えられた美沙の小さな手に誘導され、

 ……ぬる……

 先端が、その柔らかなものに触れると同時に、

 …ず…

 勇樹は、美沙の中に沈み込んでいった。

(……う……あぁ……)

 熱く柔らかなものに包まれる、何とも例えようのない感触が、勇樹の全身に駆け巡

る……。

 一方美沙は、

「…ッ!」

 その反応で、また勇樹を驚かせないように、極力押さえたつもりだが、

「ん…ァ…ッ!」

 それでも、一気に侵入ってきた『勇樹』は予想以上に固く…また熱く……

「……〜〜ッ!!」

 耐えきれぬ想いが、小さな悲鳴となって美沙の口から漏れた。

「……あ…ご…ごめんっ……!」

 やはり、そんな美沙の反応で、あわてて腰を引こうとする勇樹。

 だが、

「あ…あは……だ…大丈夫だよ…んっ!…い…いいから…あ…きて…もっと……」

「え…あ…で…でも……」

「……勇樹くん……」

「え……?」

「……だいすきだよ……☆」

 そう言って、美沙は伸ばした両手で勇樹の身体を抱き寄せる。

 ふくよかな乳房が勇樹の胸板で柔らかく押し潰され、せつないまでの密着感に、意識

とは別のところで、腰が勝手に上下し始める。

「あ…んん…はぁっ! ああ…はあああっ…!」

 徐々に上ずり始めた美沙の喘ぎを耳で捕えつつ、沸き上がる夥しいまでの陶酔感に、

勇樹の腰を動かすスピードがさらにピッチを上げる。

「あ…あぁっ!あ…はぁぁっ…あ…ね…ゆ…勇樹…くん……き…気持ち…いい…?」

 身体を揺さぶられ、びっしりと玉の汗を浮かべた苦悶の笑顔で問い掛ける美沙。

「………ん…っ!」

 このまったくの愚問に、応えるよう……、

 またそのたまらない美沙の艶っぽい表情を消すように、勇樹は美沙の身体を強く抱き

締め、思うがまま、さらに激しく腰を揺さぶる。

「あっ…ああっ! ゆ…勇樹く……勇樹くんっ!……あ…はあぁぁぁ…んっ!!」

 やがて、鼻にかかる美沙の鳴き声が、感極まり始めた頃……

 勇樹の眉間の奥でいくつもの閃光が弾け……

 固く目を閉じた視界が、真っ白な情景に覆われ……

「う…あ…か…河合さぁんっ!」

「ゆ…勇樹く…んっ!」

 迸った…………………………。

   

「……………(ぼーっ)。」

「……んふふ……ね…勇樹くん……?」

 的を外した(?)勇樹のせいで染みの出来てしまったシーツの一部分をよけ、ベッド

の端、少し窮屈そうに寄り添い横たわる勇樹と美沙……

「………(ぼーっ。)」

「えへへ……どうでしたか? はじめてのご感想は……?」

 照れくさそうに問いかける美沙の声に、

「………(ぼーっ。)」

 むろん、息がかかるほど顔を寄せている美沙の声は、勇樹の耳に届いているのだが、

このなんともいえない気分の前に、それはどこか現実味のない……そう、TVかラジオの

放送をきいているような……………。

「ん……?勇樹くん……ちょっと大丈夫??」

 ぼーっ、と焦点の定まらない目を天井に向けている勇樹の顔の前に手を翳し、

さっさっ、と振る美沙。

「………え?」

 そこでようやく頭の中の霞が取れたように、勇樹は我に返る。

「え…?あ…ああ…なに?」

「……もう。だから…ど…どーだった……気持ち良かった?って聞いてんの」

「え…ああ…そ…そりゃ……もちろ…ん……ん…?」

 なにやらテレを憤慨で隠すように、拗ねた口調で言ってくる美沙に答えようとして、勇

樹はふとあることに気付く。

「え…えっと、お…俺はその……だけど……えっと…あ…あの…河合さんは………?」

「へ……?あ…あたしぃ?」

 なにやら、申し訳なさそうに問い返す勇樹に、すっとんきょうな声を上げる美沙。

 一瞬、いいよどんで、

「あ…あたしはその……あ…あたしも……も…もちろん……ステキ…だったよ…☆」

 裏返った声を直しつつ、どこかズレているような答で返した。

「え…?」

 そして、どうにも的を得ない美沙の言葉に、勇樹が躊躇する間もあらばこそ。

「さ…さて…んじゃぁ…そろそろ…あたし…」

 やおら身体にタオルケットを巻き付け、身を起こす美沙。

「え…うそ?か…帰っちゃうのっ?」

 悲壮感すら漂わせ驚嘆の声を上げる勇樹に、

「う…うん……。もう遅くなっちゃったし……泊まるとか言ってなかったからお母さん心配

するしね……って、ちょっとあっち向いてて…」

「あ…?ああ……」

 周りに散らばった下着やら服やらをかき集つつ言う美沙に、勇樹は枕に顔を伏せ

る。

(…………。)

 なんといったらいいのだろう……この気分……まるでものすごくいい夢から醒めたとき

のような……いや…心にぽっかりと穴があいたような気分とは、まさしく今使うべき言葉

ではないだろうか……。

(……帰したくない…よ……)

 そんなどうしようもないほどのやるせない想いを胸に、ちらりと枕から片目だけを覗か

せ、美沙の様子を伺う勇樹。

「………あ。」

 小さな驚きが勇樹の口から漏れる。

 勇樹の目線の先…背を向けた美沙は、まだタオルケットを巻き付けたまま……。

「………。」

 かきあつめた衣類をヒザに乗せ、ただじっとそれを見詰めているように顔をうつむか

せていた。

「…………」

 刹那の沈黙………そして……

 思うより先に――

「……っ!」

 その背中を抱き締める勇樹。

「…え……?…勇樹く…」

 戸惑う美沙のうなじあたりに顔を埋め、

「…………いやだ…帰っちゃ…だめだよ……」

 あまりにも恥ずかしく…そして…情ないと思った。

 また、自分がこんな女々しいことを言うとは思ってもいなかった。

(カッコわり……)

 頭の中でもう一人の自分が、容赦なく侮蔑の言葉を差し向ける。

 だが……それでも……どうしても…離れたくなかったのだ。

 そんなどうしようもない想いと自己嫌悪に勇樹が苛まれる中、

「………勇樹くん………」

 背後から回された勇樹の腕に、そっと美沙の手が添えられる。

 そして……
       
ケータイ
「あの…さ、電話……貸してくれる…?あたしの……下に置いてきちゃったから……」

「え……?」

「ん…、知美のトコ…泊まってるコトにするから………ね……☆」

 知美…勇樹も良く知ってるシザーズ内でも特に美沙と仲の良い女の子の名である。

 が、そんな事より………ということは……つまり……?

「……………え?」

「さ…さて、あ…あさごはんは……なに作ろっかな〜☆」

 はにかんだように微笑み、とぼけた口調で言う美沙のその台詞に、沈痛な勇樹の表情

が一気に輝いていく。

「……って、そ…それじゃぁっ!」

「ん…。えへへ……☆ ……もう……ばか……☆」

 きつく抱き締められた腕の中、美沙はこくんと頷き、満面の笑顔で振り返った。

   

 六月…水無月…水入らず。

 降りしきる甘く熱い雨は………

「…って、あ…ちょ…だ…だからって、い…いきなり…あ…だ…ダメ……で…電話が…

あ…さ…先でしょ。んっ…こ…こら……ゆ…勇樹く……あ…あん………

 ……まだまだ止みそうにない…………☆。

 

                   スコール
    第2章 はじめての甘熱雨、完。

 

第3章「雨、いまだ止まず」へつづく。

 

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