ハート・オブ・レイン
              
〜第3章 雨いまだ止まず〜

 

(2)

 そして…

「はぁはぁはぁはぁ……ど…どう…?…これで…まんぞく……した…?」

 一応、年上の意地というやつだろうか、いまだびくびくと震える身体の余韻を抑え

つつ、努めて冷静を装って、下にいる勇樹に声をかける美沙。

 だが、

 …ちゅくっ……

 唐突に、麻痺して感覚が鈍っていた下半身に、再び鮮烈な感覚が甦る。

「え…?あ…っ…ちょ…ゆ…勇樹くんっ?」

 そう、いまだなお、勇樹は美沙の股間に顔を埋め、舌を動かし続けていた。

 しかも…

 ちゅっ…ちゅぷっ…くちゅっ……

「あ…い…いやぁ…ゆ…勇樹くん……あ…あたし…もう…い…ったから…ちょ…やめ…

…んあああっ……」

 達したことにより、より開いたその内部へと…先程よりも奥深くへ長く伸ばした舌

は、完全にその身を没していた。

 そんな何かに憑かれたかのように、一心不乱に美沙のその部分を貪る勇樹に、

「いやぁ…だめ…っ…あっ!んあぁっ…」

 慌て、身を起こそうとする美沙だが、たった今達した余韻と、新たな刺激による身体の

震えで力が入らず、そのまま再び仰向けに崩れ落ちてしまう。

 一方、 

「ね…河合さん、これ…気持ちいいの……?」

 捩じ込んだ舌を一時外に出し、その周辺をちろちろと舐めつつ…勇樹。

 なにやら自信をつけてしまったのか、先程までの戸惑いはどこへやら、美沙へ尋ねる

その声は好奇の色が濃い。

「んぅっ…はぁはぁ……え…?……し…しらないわよ…ぅ…んあぁっ…」

 眉を潜め、再び込み上げてくる快感と戦う美沙。

 同時に、恥ずかしさ、そして勇樹に対する悔しさとにくったらしさが相まって、反射的

に、きゅっと足を閉じる。

「あぶぅっ!」

 刹那下のほうから届いた、勇樹の鈍い悲鳴に気付いて、

(あ…そーか☆)

 ぎゅ…ぎゅ…っ

 美沙は太ももに力を入れ、さらに勇樹の顔を締め付けながら

「んふふふふふ〜〜……もうやめてくれるかな☆」

「ふぎゅぎゅ…ぎゅ…ぎゅばべ…ひゃべる…ひゃべる…」

 勝ち誇った美沙に、勇樹は苦悶の表情でこくこくうなずく…ことはできなかったが、

ともあれ観念する。

 美沙は両足から力を抜いて、勇樹を解放し…

「はい…それじゃあ、こっちきなさい……」

 ちょいちょいっと人差し指を動かし、股ぐらから出てくるように示唆する。

「う…うん……」

 まんじりとしない顔だが、それでも勇樹は素直に従い、身を起こして……

 だが、

「は〜〜い☆…よろしい………って…え…なに…!?」

 身体をぐいっと前にずらすその勢いを利用して、勇樹は手を添えた自分自身を美沙の

そこにあてがい、そのまま………

「ん…っ!」

 …ずずっ…。

 言わずもがな、この状況での侵入はたやすく…

「え…あ…ちょ…な…なに?…んあっ…あああああ〜〜っ!」

 深々と沈み込んできた勇樹のものを感じ、驚き混じりの嬌声を高々と上げる美沙。

「や…やぁぁ…ちょ…ゆ…勇樹く…んああっ!ず…ずるい…っ…こんなの……」

 身をくねらせ、抗議の声を上げる美沙に、勇樹はすかさず乳房に口付けつつ、

「えへへ……

「え…『えへへ』じゃない…っんっ…あ……ちょ…ばかぁ〜なにしてんのよぉ……」

「え…だってさっき好きなようにって……」

「え…?あ……そ…それはもう終わった…でしょ…んあっ!」

「くすくす……」

 普段あんまり見れないあわてふためいた美沙の姿に、会心の笑みでほくそ笑む勇樹。

(く…悔しい〜〜)

 痛恨の思いで臍を噛む美沙だが、もはやこうなってはどうしようもない。

「はぁぁ……んっ……やぁぁ…あっ…ああぁぁ〜」

 激しく揺さぶり始めた勇樹の腰の動きに喘ぎ、再び快感の渦に飲み込まれていく。

 その一方、勇樹は、ある程度余裕の表情を見せていた。

 まあ…3回目ということもあって、だいぶ抵抗ができたと言うか……早い話が、『慣れ

てきた』というわけである。

 といっても、むろん興奮してないわけではなく、むしろ、過剰な興奮と勢いでしてしまっ

た一回目二回目と違い、『自分』が美沙に包み込まれているという、この何とも言えない

感覚を鮮明に感じることができるようになっていた。

「…はぁはぁ…河合さんっ……」

 そんな適度な興奮と、たとえようのない悦びに包まれながら、勇樹はさらに美沙を突

き立てようと腰を引き……

 と、そこで…

(…えと……な…なんか、3回ともおんなじカッコってのも能がないよな…)

 心に生まれたわずかな余裕が、勇樹にそんな考えを芽生えさせ…また、募る興奮が、

思うより先に身体を動かす。

「河合さん……」

 勇樹は、美沙の瞳を見詰めたまま、背中に回した両手に力を込め……

「はぁはぁ…あ…え……?」

 荒い息遣いのまま躊躇する美沙を抱きかかえたまま身を起こし、

「な…なに…?んあぁっ!」

 ちょうど向かい合わせに抱っこするような格好で、彼女をひざの上にのせた。

「あ………あ……ゆ…勇樹くん…?」

 疑念の表情で、見詰める美沙。

 むろん下半身は繋がったままである。

 勇樹は、応える代わりに、

 ぐぐっ!

 前後から上下に変えたその動きで、美沙を下から突き上げる。

「んはぁっ!やっ…あ…ああぁっ!」

 勇樹のものがより奥深いところへ達したのを感じ、たまらず勇樹の胸へと顔を埋める

美沙。

「あ…はぁ…っ、や…やだ…す…すごい……これ……あはぁ…うっ!」

 ぶるぶると身体を震わせ、きつく勇樹を抱きしめて、突き上がってくる快感に身悶え

る。

 そして勇樹は二度三度とその動きを続ける…が………

「……っく……」

 さすがに二人分の体重を支え、この体勢で動き続けるのはきつくなったらしく、苦し

げに息を漏らして、一時動きを止めた。

「はぁっ…はぁはぁ…んっ…………え?……」

 一方、美沙は動きが止まったことで、うつむかせていた顔を起こし、不思議そうに勇

樹を見つめる。

「はぁっ…はぁはぁ……」

(………あ。)

 そして、目の前で荒い息を整えようとしている勇樹の様子で察すると、

「あは…ばか……ムリするから…。動きにくいんでしょ…?」

 上気しきった顔に苦笑を浮かべ、美沙は咎めるような口調で言う。

「はぁっ…はぁっ…う…うん……」

「んふふ……じゃあ……☆」

 美沙は冷笑に近い笑みを口元に浮かべて、勇樹の胸に両手をつき…

「……え?」

 そのまま前のめりに、体重を掛けて勇樹を押し倒した。

「え…あ…か…河合さん?」

 上下逆転され、戸惑う勇樹に、軽く唇を合わせて、

 ちゅ☆

「いいの…疲れちゃったんでしょ……?今度は、あたしが……☆ん…っ」

 美沙は勇樹の胸に手を付き、上体を起こして馬乗りになる。

 豊かな乳房がぷるんっ、と揺れ…

「え…で…でも……」

「ふふ……☆」

 目を丸くして見上げる勇樹の視線の先、美沙は乱れた髪をかき上げ、艶っぽい笑みを

浮かべつつ、

「あ……ん…んぅ…っ…んあぁっ…

 そのまま、腰を前後にスライドさせるように擦り合わせていく。

「んああっ!」

 たまらず声を上げる勇樹。

「んっ…あっ…ふ…ふふっ… き…気持ちいい…?……あ…ああっ」

 自らも時折、快感に顔を歪めながら、いたずらっぽい笑みで勇樹を見下ろす美沙。

「……ぅぅ〜〜っ!んぅっ…!」

 そんな美沙の表情に見つめられ、たまらなくなった勇樹は、ベッドのスプリングを用

い、沈み込ませた腰を突き上げる。

「え…?んあぁぁっ!…や…ちょ…ゆ…勇樹くんは…いいのっ…ひぁっ…ちょ…だ…

だめぇっ……!」

 ふわり身体が浮き上がるような感覚と、突如真下から来た衝撃に、あわてふためく美

沙。

 一方、

(…だめ…って言っても……確か…半々なんだよな……)

 快感に朦朧となりゆく意識の中、そんなことを思い出しつつ、勇樹は下腹に力を入れ、

二度三度と同じように美沙を突き上げる。

「んあっ! だ…だめぇっ勇樹くんっ!あっ…あっ…あっ…はぁ…っ!」

 前のめりに勇樹の腹に手を置いてうつむき、肩を震わせて、込み上がってくる快感と

戦う美沙。

 やがて…

「んあ…あっぁうっ…あ……はぁぁ…んっ!」

 次第に激しくなる勇樹の突き上げに耐え切れず、美沙は身を跳ね上げ、上体をのけ

ぞらせて天を仰ぐ。

 弾む乳房がのけぞった胸の上で上下に妖しく揺れ、

「あ………ゆ…勇樹クン……さ…ささえて……

「う…うん…」

 歓喜の表情の中、恥ずかしそうに微笑む美沙に頷き、勇樹は、その豊かな弾力を下

からわしづかみにすると、

 …むにゅむにゅ…

 その柔らかな感触を手のひらで楽しみつつ、さらに力を込めて腰を突き上げていっ

た。

「んはぁぁぁぁんっ!や…やぁ…あ…っあ…っ…あ…っ

 まさに弾むように、勇樹の上で身体をバウンドさせ、その栗色の髪を左右に振り乱し、

次々に込み上がってくる快感に喘ぐ美沙。

 そんな中、

 ちゅ…ちゅぷっ…くちゅっ…

(あ…や…やだ…ぁ…)

 勇樹と繋がるその部分から、いやらしい水音が耳に届き、かーっと沸き立つ思いに、

上気する美沙の頬がいっそう赤く染まる。

 だが、そんな恥ずかしさも、またひとつ高まる興奮の一部となり…

「はぁぁぁ…んや…ぁ……あ…ああ……んっ…はあぁ…」

 美沙は、もはやとめどなく押し寄せる熱い快感の波に抗えないことを知る。

「はぁっ…あはぁぁっ……ゆ…勇樹くん……あ…あたしもう……」

 息も絶え絶え、潤んだ瞳で訴えるように勇樹を見下ろし……

「はぁはぁ……え………?」

「…………。」

 だが、そこには、なにやら思いあぐねているような勇樹の表情。

「……え…?ん…はぁ…ど…どーしたの……?」

 少し息を落ち着けて尋ねる美沙に、

「か…河合さん…」

「ん…あ…はぁ…な…なに…?」

「え…えと…今度は……その…う…後ろから……してみた…い……」

「え……」

 刹那、驚き顔で言葉に詰まる美沙。

「あ…い、いや…うそうそっ…や…やっぱいいや…」

 そんな美沙の反応に慌ててとりなす勇樹。

 同時に、ぼ〜っとなった興奮のまま、つい発してしまった自らの言葉に恥じる。

 だが、ひととき間を置き、美沙は…

「…………いいよ………」

「……え?」

 玉の汗が光るその顔を笑みの形に変えて、勇樹を見つめ、

「んふ……いいよ…勇樹くんの好きにして……」

 ややはにかんだ様子で、美沙は勇樹の身体から下り、うつぶせになってヒザを立て

る。

「え………あ……う……うん…」

 そして勇樹は躊躇しつつも、立てひざの格好になって、突き出されたお尻に密着

し……

「…え…えと……こ…ここ…?」

「…ん。ちがう…んん…もーちょっとした…あ…ン☆…そ…そこ………」

 手を添え探るそれの先端の感触と、美沙の示唆する言葉によってあたりをつけ、

 …ぬるっ…

 ひときわ熱く潤うその部分を見つけると…

 ずんっ!

「ひぁっ!?」

 刹那凄まじい感覚が、美沙の身体を突き抜ける。

「んあああぁぁぁぁ〜っ!」

「か…河合さんっ」

 また、勇樹もこれまでとは違った感覚に激しく興奮し、四つん這いになって喘ぐ美沙

の小さな身体に、荒々しく覆い被さっていく。

 両手を伸ばし、垂れ下がり揺れる乳房を力まかせにもみしだき――

「んっ…んっ…んっ…!」

 なおも深く埋めて、狂ったように激しく腰を打ち付ける。

「んあぁっ!ちょ…ああっ!ゆ…勇樹クンっ激し…激しすぎるぅっ!」

 急速に込み上げてくる感覚に脅威さえ感じ、美沙は振り仰いで勇樹に苦悶の表情を

向ける。

 だが、

「んっ…くぅっ!か…河合さん……お…俺……おれ………」

 そこにあった汗まみれの勇樹の顔には、苦痛と申し訳なさそうな表情が浮かんでおり、

(………あ…。)

 それを見た美沙の心に、なぜか妙な安堵が広がり、今まで感じてた得も知れぬ快楽

への恐怖がすーっと打ち消された。

(…あは…勇樹くんもおんなじなんだ…

 また、そんな風に嬉しく思うと同時に、より素直に勇樹の気持ちを受け止めたくなり、

ベッドにつく手を突っ張らせ、身体を支え直し、

「はぁ…ぁ……い…イイよ…勇樹くん……もっと…きて…

「え…あ……ああ……」

 一方、勇樹にしても芽生えかけた罪悪感が軽くなり、それまでとどめていた想いのすべ

てを注ぎ込むように、美沙を貫いていった。

 じゅん…と溢れ出る美沙の熱い蜜が、さらに二人の繋がる部分を濡らし、

 ぱんぱん…と股間と股間が打ち合う音が室内に淫らに響く―――

「んはぁぅ!はぁっあはぁっああぁぁぁ〜っ!」

 四つん這いの格好で、首を左右に激しく振り、狂おしく歓喜に喘ぐ美沙。

 熱く猛る勇樹のモノは、なおも美沙の中で暴れまわり、

「んっ…くぅっ!か…河合さん……お、俺もう……」

「あは…ぁっ……ゆ…勇樹くんっ……い…いいよ…そ…そのまま……だ…だいじょぶ

だから……あ…あたし……も……もう……」

 苦しげに呻く勇樹に美沙はそう答えて、

「んああっ……い…イイ…っはぁぁぁっ…い…いく……イッっちゃ…うぅっ!」

 断続的に襲い掛かる小さな絶頂の波に、激しく身を震わせる。

「か…河合さんっ……あ…っ……くぅぅぅっ!」

 二つの意味で安心し、勇樹はあらん限りの力を込めて腰を前後に震い――

 どくんっ!

 熱く滾った泉の奥で、一際肥大化したそれが、大きく脈打ち……

「ひぁぁぁぁっ!……ゆ…勇樹くん…はぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 ひしがれた弓のように身を仰け反らせ、より高い絶頂で達していく美沙。

「………っっ!」

 同時に、勇樹はそのすべての迸りを解き放った。

  

 そして…

 その後も短いインターバルを交えつつ、さらに幾度も美沙を欲した勇樹。

 刻々と過ぎ行く時の流れは早く、すでに夜は明け…… 

 とまあ、この辺は、覚えたて…優しい年上の彼女…若さ、そして邪魔するものは何もなし。

 そんな好条件が揃ってしまったため、無理からぬことといえるのかもしれないが。

 また、日が替わってなお、降り続く雨にどんよりと空を曇らせ、薄暗さを見せていた外

の景色が、時間の感覚を緩慢にしていたのかもしれない。

 ともあれ現在、時刻はとうに朝の時間を過ぎ、昼に差しかかろうとしていた。

 そして、やや長めのインターバルだろうか、今は二人とも安らかな眠りについている。

 そんなとき…

 満足至悦の表情を浮かべ瞼を閉じる勇樹の枕元…

 ベッドの二人と同じように仲良く並んだ2台のケータイの表示板が青く輝き…

 っちゃっちゃら〜♪

 ついで、炭鉱節とテディベアのテーマが交互に鳴り響く。

 だがしかし…

「……zzzz……」

 よほど深い眠りなのか、安らかな寝顔の二人の瞼が開かれることはなく…

 ただのBGMと成り下がった着信音は、しばし意味なく、部屋の中を流れ、

 ちゃら〜♪ちゃ…

 その後、曲半ばであきらめたようにその旋律を止めた。

 戻る静寂…だがしばらく後、再びその二つの表示板が光り、

 ちゃら〜♪

 ただし、今度は違うメロディ――そう、メールの着信メロディである…。

 やがて2台はそれぞれ、軽やかなメロディを一曲奏で終え、表示板にメール着信の

コメントを残した。

 むろん、二人は未だそのメッセージを読むことはなかったが、

 届いた未開封のメールには、こう書かれていた…

  

受信メール
F 090XXXXXXX
D 0X/06/23 11:03
S おい
――――――――――――――
てめーら、なにやってやがんだ!
今日10時からだろーが
早く来いばかやろー!!
昼のピークに間に合わなかったら
殺ス!

                 町田

 ………雨、いまだ止まず、抱き合う二人は依然、夢の中………。

         

第3章 雨いまだ止まず…完。

 

第4章 熱夏にあえいで〜Shower Me〜』につづく。

 

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