ハート・オブ・レイン
              
〜第4章 熱夏にあえいで〜Shower Me〜

(17)

「……か…河合さん………」 

 息を飲み、じっと美沙を見つめたまま、名を呼ぶ勇樹に、

「………えへ…☆」

 テレたような笑みを残して、美沙は逃げるように、その顔を再び勇樹の胸に埋没させる。

(…ん…ぁ……)

 ぴと…と密着した美沙に、勇樹はいっそうどぎまぎし………

 だが、一度は学んだ経験からだろうか、自分でも不思議に思えるほどの、落ち着いた動

作で、その両手を美沙の頬に添え―――

「…………美沙………」

 呼べてしまった……。何故だかわからぬが……。

 ………びくっ…。

 対して、美沙はかすかに身体を震わせ、ゆっくりと顔を起こし……

「………………。」

 勇樹を見上げるその瞳に、小さな輝きがひとしずく……。
         
              め
 やがてその、笑みに潤んだ瞳が、ゆっくりと閉じられ――――

「…………ん………」

 気負いも迷いもなく……勇樹はそのピンク色に輝く唇に、自らの唇を重ねていった。

    

 そして、刹那の間を置き―――。

「……んっ……んぁ……ん…んふ…っ…

 少しだけ開かれた美沙の唇から、甘い吐息が漏れ始める。

 求め合い……互いの口内をさまよう舌と舌とが、やがてにわかに絡み合い…… 

「ん……んぅ…ぁ……あむ……ん……っ…」 

 その甘いくちづけが、ものの数秒も経たぬうちに、より濃密な熱いものに変わっていった。

「ん……んふ…っ…ぁ……ん…っ……んん…っ」

 さながら二人は、昼間の――あの入江でのワンシーンをリプレイ…そしてコンティニュー
                                     
      たか
するかのように、ていねいに、だがいっそう激しく互いを求め……熱く昂ぶっていく―――。

 またその途中…やはり過の行動をトレースするように、勇樹の右手が、ごく自然な流れで

美沙のふくらみに伸びていき………

「ん……」
        
はじめて
 むろんもう、最初のときのような戸惑いはなく。

 勇樹は、その手には収まりきらぬ豊かなふくらみを優しくまさぐり………

「……んっ…!?……んふ…ぅっ…ん……
                      
 ためいき
 唇を合わせたまま漏らす美沙の甘い嘆息にも、もはや必要以上に動揺せず―――

「……んっ……」

 勇樹はさらに少しずつ、包む手のひらに力を込めて…その感触を確かめるように……

 …むにむに…… 

 いっそう大胆に、そのやわらかなふくらみをもみしだいていく……。  

「……んぁ……ぁ……ふぅ……ん……」

 美沙の漏らす吐息が、より艶かしいものに変わり――――――。

 また、そんな高まりゆく感覚に呼応して、ふくらみの中心が少しずつこわばり始め……

 それは、小さな突起となって、シャツ越しの勇樹の手のひらに伝わってきた……。

 その変化にむろん気付いて―――勇樹は……

(………あ…。)

 小さく息を漏らすも―――だが慌てず騒がず。

「…ん…。」

 また、あたりまえのことをするように、手のひらの動きを変え、指の根元でその突起を

軽く挟んで、そのやわらかなふくらみ全体をこねまわすように………

 むにゅむにゅ……

 すると―――

 ………びくっ。

「……んむっ…?……んうぅ…っ!」

 にわかに美沙の反応が変わり―――同時に勇樹は挟む指に力を込めて……

 ―――きゅ…っ。

「……っ!?…」

 ……びくんっ!

「んっ…くふっ!……んぁ…っ!」

 その刺激に耐えかね、軽くもがいて…美沙は重ねた唇を離していく。

 …が、

「……んっ…」

 勇樹はそれを逃さぬよう、半ば強引に再び唇を重ねていき……

「…んぁっ?……んむぅ……っ!」

 再度唇をふさがれ、美沙がくぐもった驚嘆を発する中……

「……ん……ん…っ…」

 勇樹は、さらに口内と乳房を刺激し、美沙の意識をそちらに向かせながら―――

「…ん…んぁ……んふぅ……ん……」

 横向きだった身体をゆっくりと転がして、やさしくのしかかっていくように、その身を重ねて

いった……。

 そんな、まさに流れるような流暢な動きの中、さらに勇樹の右手は、起伏に富んだ美沙の

身体の上を這い下がっていき―――

(……え……?)

 まどろう思考の中、訝る美沙を尻目に、やがてその、オレンジのTシャツの裾を掴むと、 

 しゅる…しゅる…… 

(……え?……え……?……あ…ちょ……)

 Tシャツが捲り上げられていくやや肌寒い感覚とともに、素肌を這い上がってくる勇樹の手

のひらの感触に、美沙はさすがに少し焦りを覚え……

「……んっ…ぷは…っ…」

 やや強引に勇樹の唇から逃れて、

「…え…あ……や…ちょ…ゆ…勇樹くん?…な…なんか…すごい…なれてきてない…?」 

 むろん、この期に及んで止めるつもりは毛頭ないが、美沙は、一連の…なんだか進歩し

まくっている勇樹の動きに戸惑い、困ったような笑みを浮かべて言う。

「………え…?」

 対して勇樹は、ここで初めてその動きを止め、きょとんっとした表情を見せつつ……

 また、少し慌てたように、

「……あ…そ……そう……?」

「う…うん……こないだと―――全然…ちがうよ……」

「……え?あ…じゃ…じゃあ……い…嫌……?」

 ……と、この辺はフツーに勇樹らしく、かなり心配げな表情で尋ねる。

 すると、今度は美沙が慌てたように首を振り、

「え…あ、ううん!そ…そーじゃない……い…イヤじゃないよ……」

「…あ…。んと……じゃ…じゃあ……つ…続けていい……?」

「……え…あ……う……うん………」

 おずおずと尋ねる勇樹に、やはりおずおずと、頬を染めつつ美沙が頷き――――

 そして、ますます勇樹は、その進歩の証を見せていく……。

 決して素早いとは言えないまでも、ていねいに……。

 すでに胸元まで捲り上げきったTシャツから手を離して―――

 …ぷるんっ。

(………あ……。) 

 薄明かりの中、露見した、悩ましい光沢を放つロゼピンクのブラは、なぜかこの前

より、やや――いや…かなりえっちっぽく見える、淡い桃色の花びらや葉が散りばめ

られたシルクとレースのデザイン……。

 またそんな、ちょっと美沙らしからぬ、アダルティックな雰囲気の布地に包まれた

豊かなバストに、勇樹は目を奪われつつ……

「……え…あ…コレ…真子さんの…?」

「…!?…ち、ちがいます! こ…こないだ買った……あ…あ・た・し・の!」

 必勝下着の意味をいまいち理解せぬ勇樹に、美沙がやや外れたイミで顔を赤らめ……

「……ふ〜ん…?」

 勇樹は首をかしげて……だが、動きは止めず…そのまま両手を美沙の背中に回して…

 ぷちぷちっ。
               
  ブラ
 ふっくらと盛り上がるその布が僅かにゆるみを見せたところで、そっと捲り上げれば……

 ……ぽろん……。

 その戒めを解かれ……水着の跡をくっきり残す、美沙の豊かで白いふくらみが、薄闇の

中に、あらわになる。

(………ごく…。)
                           
 おお
 勇樹は、かすかにノドを鳴らし、その…自らの巨きさゆえ、自重で僅かに押し潰されたよう

になっている左右のふくらみを見つめつつ……

「………ん……」

 そっと手を添え……

 ……ふにゅ…ん…ぷにゅ……むにゅ……むにゅ……

 もはや完全に表現不能な、その…やわらかすぎる生の感触と弾力を確かめるように、

こねまわし……  

「…んあぁぁ……や…ちょ…?……ゆ…勇樹く……」

 そんな戯れを咎めるように、美沙が言葉を発するより先に―――

「……ん……」

 勇樹は、すぼませた唇を、その先端に近づけていき……

 ちゅっ……。

 びくんっ!

 その穏やかな…くすぐったいような感覚が……一転、急激な刺すような刺激に変わり、

「……やっ!?……ひあぁっ!」

 肩をすくめて、身を硬くする美沙。

「……………。」

 だが勇樹は努めて焦らず……また、そんな美沙の硬直をやわらげるかのように、乳房に

這わせた両手の五指を、ゆっくりと美沙の肩口にもっていき、

 すぅぅぅ〜。

 その華奢な丸みを確かめるように、やさしく撫で上げ……

「あ…は……んぅぅ…ん…

 どこかくすぐったそうな声を上げ、美沙は徐々にその緊張を解いていく……。

 また、それを見計らったように…勇樹は、美沙の肩口を撫でる指をすべて立て……

「……ん。」

 立てた指先…その10本の爪先で、やさしく……美沙の両腕の肌を掻き撫で…下ろして

いった……。

 つぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜…………

「……え…?ひぁ…?」

 その動きに、美沙が訝るいとまもあらばこそ、

 ぞく…ぞくぞくぞく……っ…☆

 普通のくすぐったさ…とは少し違うだろう、言うならば、まるで突然浴びせられた冷たい

風が、ごくピンポイントで、腕だけを這い落ちていくような感覚に―――

 …びくんっ!びくびくびくっ!!

「ひ…!?…ひああぁっ!!……や…っ!ん…っ!くぅっ…ん!…んぁあ……っ! 」

 美沙は激しく身震いし…そのしなやかな肢体をくねらせ、喘ぎ鳴く。

(…へぇ…☆…)

 一方勇樹は、そんな美沙の反応が気に入ったのか、すでに彼女の手首まで下ろして

いた両の指先を……さらにそこから、細くくびれた腰へと移して……

(…えへへ……さっきのしかえしにもなるし……♪)

 などと思いつつ、触れた指先を今と同じ要領で、今度は脇腹を伝って上に―――

 つぅぅぅぅぅぅ……

「……ひ…ァッ!?」

 さらに増したくすぐったさと、駆け上がってくる凄まじいゾクゾク感に、美沙は……

「や…っ!ひあああ〜んっ!やッ…だ…ダメ…ぇ!ゆ…勇樹くっ…そ…それダメぇぇっ!」

 激しくかぶりを振って、悲鳴を撒き散らしながら、勇樹の腕をぎゅっと掴む。

 ……が、それには及ばず。

 両手を脇の下まで登らせた所で、勇樹はその動きを一時止めており……

「…はぁ…はぁ………え…?」

 上気しつつ、疑問の表情を向ける美沙。

 すると、

「えへへへへへ〜♪」

 待っていたのは、そんな美沙を覗き込むようにして浮かべた、勇樹のしたり顔……。

「ふふ〜ん☆さっきのおかえしだよ〜♪」

「…!?〜〜〜〜っ!!!」

 満面の笑みで言う勇樹に、美沙は悔しさと恥ずかしさで一瞬言葉が出ず…ただただ、

さらに真っ赤に顔を染める。

 そして、

「も…もぉぉぉ〜っ!!」

 テレと腹立たしさを交えつつ、両手を広げて、目の前にある勇樹の顔を捕まえようとする

…が、

「…おっと!」

 一瞬早く、勇樹はするりと頭を下げてそれから逃れ……

 すかっ…。

 美沙の両手は空を切り、代わりに……

「……くすくす☆」

 からかうような勇樹の笑い声は、ちょうど美沙のおヘソあたりから。

「……え?」

 そして、美沙が驚きの声を発する間もなく、

 ……ぺろっ。

 下腹に走る、突き出された勇樹の舌の感覚が――――

 …ぞわり……。

「んあぁっ!? や…ああぁっ!」

 美沙は閉じた両手で自分を抱きしめるようにしながら、大きく身体を仰け反らせ―――

 また、勇樹はむろんその機を逃さず、

「………んっ…」

 浮いて、フトンとの隙間ができた美沙の腰の後ろに、両手を差し入れ……

 ―――するっ―――。
                       
ショーツ
 そのヒラヒラしたショートパンツ、及び下着を併せて、股下辺りまで一気に引き下ろし……

「…………え…………?」

 いわゆる、半脱ぎ状態にしてしまった。

 ……と、いやまあ……ホントは全部下まで下ろしてしまおうと思ったのだろうが……

 実はその……カタチは良いが、あまり小さいとはいえない美沙のお尻に引っかかり……

途中で止まってしまったようである……。

 ともあれ、そんな勇樹のせいだけではないよーな、この不測の事態に……。

 またそんな…なんだか全脱ぎよりもえっちな格好にさせられ、美沙は、

「え…?や…も…もぉっ!…ば…ばかぁ〜っ!!」

 さすがに半身を起こしてその部分を隠しつつ、燃えるような真っ赤な顔で抗議する。

 一方、そんななんともいえぬ光景に一瞬目を奪われていた勇樹だが……この意外な

展開と美沙の怒声に、我に返って、

「……え…?…あ…あぁ…っ!…ご…ごめ……」

 戸惑い慌ててあやまりつつ…ずり下がったショートパンツのゴムの部分に手を掛けて…

…瞬時固まり、

「…え………えと……。そ、そんで……あ…上げればいい?……それとも……」

 ……この、なんともマヌケな問いかけに、美沙は……

「……………え…?」

 やはり当然ながら、まともに鼻白み……しばし、意味もなく黙考したのち……

「……か……かってにしなさいっ!!」
            
 わか
 なんだか勇樹には理解らぬところで、一方的に憮然とし……そのまま再び、仰向けに

身を倒した。

 そして……

「――――――え……え〜っと………?」

 さすがにちょっとは進歩したとは言え、こーゆーところは変わってないようで…

 勇樹はその…眼前に在るモノの存在すら忘れて、その『上下』の二択に迷って、

ショートパンツに手を掛けたまま固まる……。

「……………………………………。」

 しばし、何の意味もない時が……やはり何の意味もなく流れ……

 一方、ヤケクソ気味だった美沙も、このいつまでも涼しい下半身の状況に、さすがに

たまらなくなったのだろう……

「………あ…あの……勇樹くん…?どっちでもいーから…早く……。め…メチャクチャ…

はずかしーから…っ…」

 悲痛といっていい、弱々しい声の調子で訴える美沙。

 また、それでようやくスイッチが入ったかのように、勇樹は頷き……

「……あ…。う…うん……」 

 するするするする………

 おずおずと、その両手を引き下げ……ショートパンツと、そしてほとんど見ることも出来
        
             ショーツ
なかった、えっちなピンクい下着を、美沙の細い足首から抜き去っていった。

「……ふぅ…」

 勇樹は、ようやくひと仕事終えたように、息をつき―――

(…えっと……)

 だが、さすがにこのまま『先』へと進むのは気が引けたらしいようで……。

「……ん…っ」

 そのまま身体を上へとずらし、枕を頭にそっぽを向いている美沙に、顔を近づけ……

「……あ……あの……ご、ごめんね……」

 一方、そんな反省しきりの勇樹の態度に、美沙はくるっと頭を起こして、

「もぉっ!ごめんねぢゃないよ! あやまるくらいなら最初から……」

 いまだ赤く、ぷーっと脹らんだ頬で言いつつ……だが、その言葉途中で、

「……ぷ。……くすくすくすくす……」

 いきなり破顔する。

「……え……え?な…なに?……どしたの?」

 戸惑いあわてて尋ねる勇樹に、美沙は込み上げる笑いを含みながら、

「…くすくすくす……あ…。いや…前にも似たよーなこと言ったな〜って……あはは…☆」

「……え…?……………。」

 そんな言葉に、しばし思いを巡らす勇樹……。

 ほどなく、

(……あ…。)

 勇樹の頭の中に、六月の雨…そして傘に包まれたふたりの情景が浮び上がり―――

 また美沙は、勇樹がそれを思い出したのを待って……

「えへへ…☆ あのトキからぜんぜん変わってないね……勇樹くん……♪」

 なにやら楽しげに言う美沙の言葉に、

「……う。…………そ…そぉ?…ぜんぜん…?」

 勇樹は、それがかなり心外であるかのように、眉をひそめる。

「……ん〜〜?」

 すると美沙は、そんな勇樹の不満がらみの顔をまじまじと、観察するような仕草を見せ…

「……ふむ。ま、ほんのちょっとは成長したかな〜☆」

「……う〜、ちょっと〜?」

 やはりご不満気味な態度で返す勇樹に、

「……ん〜〜〜…」

 美沙は、あたかも、テストの点が悪かった出来の悪い生徒の処遇をどうするか考える、

女教師のような態度で、しばし瞑目し…

「ん〜〜…そーねぇ…じゃ、今からもっかい、成長したトコ…見せられるかな?」

 言って、なにやら涼しい笑みで勇樹を見つめる。

「………え……?」

 対して勇樹は、しばし怯んだように口をつぐむも、

「………………………」

 変わらぬ笑みで、自分をじっと見つめ続ける美沙の瞳に気圧されるかのように……

「……あ………う…うん……」      

 頷き―――やや緊張した面持ちで、再度改めて、美沙の身体に肌を重ねていった…。

 …きし…っ…。

 床材の、微かな悲鳴を伴って………。

  

(18)へつづく。

  

 

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