ハート・オブ・レイン
〜第4章 熱夏にあえいで〜Shower
Me〜
(19)
―――そして…… 「…………へ……?」 刹那の間をおき――――上がる勇樹のマヌケ声。 「…はぁ…っ…はぁ…はぁ…はぁ…」 次いで、荒い息をその口に、額に乗せた手の甲で顔を隠している美沙の様相を――― まじまじと見つめつつ、まことすっとんきょうな驚き顔で、 「う………うそ……?河合さん……イッちゃった…の……?」 そんな勇樹の態度に、美沙は荒い息を急ぎどーにか整えつつ、 「はぁ…はぁ…そ…そーだよ……なんか……文句ある…?」 悔しさと苛立ちが入り混じったような、低く掠れた声を上げる。 額に乗せた手の甲で、恥辱に満ちたその表情を隠して。 一方、そんな美沙の不機嫌そうな声に、勇樹はまともに怯んで、 「………え゜…?い…いや…ないけど……そ、その……」 おどおどと口ごもる、そんな勇樹の態度が、さらに美沙の苛立ちを誘い、 「…………なによ…?」 重い声で返しつつ…美沙は、薄く開いたジト目を手の下から覗かせる。 「―――え…!? い…いやあの……だ、だから……」 そして、勇樹はますます怯え…美沙のイラ立ちはますます募り上がり…… ――な…なによコイツ!あたしをこんなにしといて……何そんなにビクビクしてんの――? とか思いつつ、美沙は、やおら目の上の手をどけ、もはや恥ずかしさか怒りかわからぬ、 赤みを帯びたその顔をあらわにし――― 「だから―――なによ!?」 大きく開いた、その吊りあがった猫目でキッ!と勇樹を睨みつける。 むろん、このあからさまな美沙の怒りの様相に、勇樹はまた思いっきり慌てた様子で、 「え…っ!?あ…あ―――、いいいやその…も、文句とかじゃなくて…つか、そもそもそんな 河合さんに文句なんて大それたってゆーかおっかないコトってゆーかそんな殺され確実? みたいなコト言えるわけない……ぢゃなくて―――あ…ああの……!」 さりげなくどさくさまぎれに無礼千万なことを口走りつつ、また、完全に裏返った声で、ども りまくりながら…… 「…ほ…ほらっ!…お、俺…あんましケーケンないじゃん!?……つ…つーか、あ…あたりまえ だけど、河合さんとしかシたコトないでしょ……?」 混乱あらわに、わけのわからぬことをまくし立てる。 また、それに対して美沙は、いろんなトコロで眉をひそめつつも…… 「……???………あ…?」 その不機嫌そうな顔のまま、首をかしげ―――って、いや…言葉の前半部分はともかく、 このときすでに美沙の興味は、そんな勇樹のわけのわからなさに移っており、ただフツーに 疑問の表情を浮かべただけなのだが…。 「……なにそれ?」 重ねて尋ねる美沙に、だが勇樹は、さらにムダにビビり度を増した口調で、ますます言い にくそうに…… 「……え…?あ…い、いや…だ、だからぁ……そんなんだからしょーがねーのかもしんない けど……お…俺―――その…う…ウマくないじゃん?……えっち…。」 (…………え?) ますますわけがわからなくなる勇樹の言葉に、美沙の懐疑はいっそう深まり…… だが、そんなことはまるでおかまいなしで、勇樹はさらに――― 「……で、でもさ…その…身のほど知らずかもしんねーけど……ヘタはヘタなりに、なんとか がんばって、河合さんに気持ちよくなってもらおー…とか思ってたら………」 そこで勇樹は一時言葉を切り、最も言いにくいことを言うように、声のトーンを落として、 「……そ、その…いきなり…河合さん……ィッ…ちゃったから、びっくりしちゃって……… ……あはは……」 この一連のわけのわからない話を、付いているんだかいないんだか…なんともよくわか らないオチと、気まずげな渇いた笑いで括った……。 そして―――――― 「………………………」 …………長い………。 長い、美沙の絶句が続き…… 「………………………。」 一連の、勇樹の話を理解―――は、ムリだが、ともあれ勇樹が何を言いたかったのか わかるまで、美沙はしばしの時間を要した。 またその間、勇樹もそんな美沙の様子に、何かを推し量るよーに考えを巡らせ…… ほどなく、急に何かに得心したかのように、はっと顔を上げ、 「………あ。そっか。河合さん、今日体調悪かったから―――?」 ――――ちがう。 もはやツッコみ不能の勇樹のボケをむろん無視し――― 美沙は、激痛の走る頭を抱えつつ……、 「……あ…あのねえ、勇樹くん……?」 「ん…?なに?」 屈託のない顔で尋ね返す勇樹に、美沙はこめかみを押さえながら、 「……え…え〜〜っと、つまり…キミは―――あたしが、ケーケンホーフ?だから…、今の キミじゃあ、モノ足りないと思ってると……?」 「…う…うん…そーでしょ…?くやしーけど……」 不安げに、そしてなにやら悔しさを滲ませながら勇樹は頷き、 「……………。」 当然ながら、美沙はあきれも返り果て、再び重い表情で絶句する。 またそれを、無言の肯定と取ったのか(…をぅい。)、勇樹は慌て、勢い込んだ口調で、 「あ…!い…いや、でもっ、これからイロイロ覚えて……ぜってーウマくなるから!俺! そんで…いつか河合さんをひぃひぃ………」 「―――って、ちょっ…ちょっと待ちなさいっっ!!」 ヤバげな方向へ、ズレた…とかそーゆー問題ぢゃない未来への決意を語る勇樹の言葉を、 美沙は慌てて遮り、 「……え?」 きょとんと目を丸くする勇樹に、 ―――い…いやあの、これ以上ウマくなるって……ジゴロにでもなるつもりかあんたわ…? ……そう、ツッコミそうになる言葉をなんとか飲み込んで。 美沙は、まるでわかってない勇樹に、噛んで含んで説き伏せるように、 「あ…あのね…勇樹くん?よく聞いて……。 あたし―――前も言ったけど、そんなにケーケンあるわけじゃないよ……?」 「……え…?でも…」 なにやらもごもご言いかける勇樹を、だが美沙は制して、ちょっと言いにくそうにしながらも …… 「……ま、まあ…たしかにキミが初めてじゃないけど……」 ―――と、これはさすがにかなりイタかったらしく、 「……う……。」 勇樹は言葉に詰まり、その表情を沈ませる。 ……が、美沙は、そんな勇樹の手をそっと握り、やや目を伏せながら…… 「…でもね……あたし、勇樹くんが――――初めて、だったんだよ……」 そんな、まるで意味不明の美沙の言葉に、勇樹はうつむきかけた顔を起こし… 「……え?」 「あ…だ、だからその〜……イッ―――じゃなくて……き…気持ちよくなれたのは……」 怪訝な顔を浮かべる勇樹に、美沙は、なにやら言い回しを変えつつぼそぼそと……その 説明不足を補い―――またさらに、困ったような上目づかいの苦笑で、 「だ…だから……ってワケじゃないけど、勇樹くん――キミ…ヘタどころか…… あ、あの…けっこー『才能』…あるんだと思うよ……」 「……え……?」 勇樹は言われた意味に、しばし思いを巡らし……言われた意味を解いて…… 「……………。」 しばし沈黙した後……だが今度は、なにやらミョ―に寂しげな笑みを浮かべつつ、 「あはは……いや…いーって、そんな…なぐさめてくれなくって……」 「…へ…?」 きょとんと返す美沙に、勇樹はどこか決意を秘めた表情で、 「とにかく…俺、もっとがんばるから!黙って見ててよ。これからの俺を☆」 ………いやあの。 ナニをがんばる?そんなあさってのほうに向かってるひとのどこを何を見る?しかも黙って? ムリだし。それ絶対………とゆーか、 ―――爆発しそーな恥ずかしさで言ったのに……毎度毎度毎度これかい。この男わ!―― ………などと。本日最後(おそらく)の、濃縮炸裂した勇樹のアレっぷりに、 美沙はいくつか浮かんだツッコミの言葉をどー突っ込もうか考え…またそのうちにも、 ふつふつと湧き上がる怒りのボルテージが、一気にその頂点に達し……、 ……ぷちんっ。 ついに美沙は、堪忍袋の…その袋ごと一刀両断した。 「ば…ばかぁ〜ッ!! な…なぁに考えてんのよキミわぁぁぁっ!!それ以上ウマくなってどーすんの よぉぉぉぉぉっ!」 「……え…?」 突然キレた美沙の様相に、勇樹はマトモに驚き――― さらに美沙は、その怒りのボルテージを高めて、 「だいたいね〜っ!あたし、勇樹くんとこーなるまでは、えっち嫌いだったんだからねっ!」 「……だ…だった…?」 ビビりまくりながらも、その言葉尻を問い正す勇樹に、 「そーよっ!それを……こんなにしちゃって!あげくにもっとウマクなるゥ?これ以上あたしを どーにかしちゃって…ちゃんと責任取れんの!勇樹くんはっ!」 その激しい剣幕のまま一気に言い募り、睨む双眸そのままに、勇樹に詰め寄る美沙。 そして勇樹は、完全に怖気づきながらも…… 「………い……いやあの〜………」 「……なによ〜〜?」 「…あ…い…いや、ひ…ひとつわかんないんだけど………こ、『こんな』…って……?」 いまだ間抜けた勇樹の問いに、 「………。」 美沙は、もはや応える気もないのか、無言のジト目で……さらにそのオバカな顔に迫りつつ ……… やおら――― がばっ! 猫のような俊敏な動きで身を翻し―――怯む勇樹を組み敷いて、 「んあ…っ!?あ…あ、か、河合さん……?」 瞬時の上下逆転に驚く勇樹のその顔に、 「……ほんとーに……わからないの…?…」 冷ややかな視線を落としつつ、美沙はそのつややかな輝きを見せる唇を、笑みの形に ゆがませ、言った……。 『…こ・ん・な・☆……だよ……』 ………と。 同時に…… ふぁさ…っ。 しっとりと乱れた美沙の髪が、勇樹の顔をすっぽりと覆い――― 「……ん…っ…んむっ…?……」 漏れる勇樹の微かな悲鳴は、くぐもった響きで……。 もはや幾度目かはわからぬが……本日、最も長く…まさに、とろけるような二人の…… 「ん……ぁ……ん…ぅ… ……熱く甘い……キス……。 ――――しばしの後……その潤みきった瞳を離して美沙が問う。 「…ん…ふ……わかった……?」 とことんおーざっぱなその問いに、 「…ん……あ……な…なんとなく……」 火照った頬と、恍惚に眩む思考で勇樹が返して……… そして………二人は、再び熱く燃え上がる―――――――――。
窓の外――― 流れる雲が、闇を呼び……やがて、ちりばむ星が。瞬いて…… 薄闇の中に、水着の跡を残す美沙の褐色の肌が、映える………。 そんな中…… 「ん……河合さん…ここ……?」 その『才能』とやらを自覚しだした勇樹の愛撫は…… …ちゅくっ。 「…ひあ…っ…?…あふぅ…っ… ん…っ!くうぅ…んっ……」 もはやためらいなどどこにも見当たらず、さらに熱を帯び…磨きがかかっていく……。 「……ん……」 美沙のことだけを想い、美沙の身体だけを見つめ……その指先、そして触れる唇に、 全神経を集中させて…… 「ん…ふぁぁ……ゆ―――ゆうきく…ん…んっ…あ… 時には、風のようにやさしいタッチで… …さわさわ…☆ 「ん…はぁぁぁ……ん…… 時には、燃えるようなくちづけと……熱い舌使いで… ちゅっ☆……つぅぅぅ…っ……。 「ひぁ…!やぁっ!……んんんんぁぁぁあぁぁ!!」 せつなくも艶かしく……震え、くねる美沙のしなやかな肢体に、ソフトかつ大胆なタッチ を閃かせていく……。 また同時に、勇樹はあらためて美沙の感じるポイントを確かめるように―――― 「…ん……。河合さん…こう……?」 或いは―――絶え間ない刺激に震える美沙の乳房…その水着の跡の境目を辿るように、 指で孤を描きつつ…… 「…あ…ふ…ぁぁぁ…い、イイ… たまらず喜悦の声を漏らし、そして慌てて取り直したりする美沙の様子を観察しながら… 「……ん…っ」 …ちゅ…ちゅくぅ…っ…。 熱く潤う泉に触れている逆手の指を、ゆっくりと深く沈める。 「ひ…あっ…!?……あ…や……やだ…んぅぅっ…!…そ…それ…す…すご…い…っ…」 震え……身悶える、美沙のなめらかな肌の上、流れる汗のしずくが無数に煌めき…… びくっ…びくんっ!! 「んあぁっ!あ…はああぁぁぁ〜っ☆」 歓喜に跳ね上がるその全身が、妖しく…輝く――――。 また或いは…… 「あ…じゃあ、これ…は…?」 自らの身体をずらしつつ勇樹は、小さく達して力の抜けた美沙の身体を巧みに操り…… 「ん…ん…しょ…っ」 軽くアセかきながら、そのしどけないカラダを裏返し…… 「…はぁ…はぁ…え…っ…?あ…?……って、ちょ…こ…コレ……あたし…スゴい格好して… ない…?」 朦朧としたまま、いつのまにか四つん這いにさせられ……訝る美沙に、 「…う…うん…。ちょっと…いや、かなり―――えっち…かも………」 …などと。自分でしたこととは言え、思った以上に『スゴい格好』になった美沙に、戸惑い つつ……だが、どこかひとごとのよーに答えながら…… 「ん…あ…で…でも…カワイイ…よ…その…お尻が…こんなになってて……」 まるっきりフォローになってない言葉を口走りながら、その…開いた美沙の足の付け根 あたりで身を横たえ……美沙に自分の顔を跨がせるようにして…… 「……えっ…?ちょ…!?な…なに……?や…やだ…っ…」 驚く美沙の、その『カワイイお尻』を下から抱え…押さえつけながら……… 「……んっ…」 眼前――、妖しく…淫らに滴り輝く、その草むらに…顔を起こして、唇を近づけていき…… …ちゅっ。 「…ひぁああっ!」 まさに弾かれたように、両腕を突っ張り、本気で四つん這いになる美沙。 「……ん…」 さらに勇樹は舌を伸ばして……その溢れた潤いの雫を落とす、美沙の泉へ… れろ…っ。 いっそう…深く沈めていき…… れろ…ちゅく…っ…ちゅくっ…。 「え…っ…や…ちょ…!だ…ダメ…それ…んっ…くぅぅぅぅ…ゆ…ゆうき…くふぅぅ…んっ… んっ☆……んあぁぁぁっ!!」 ゆっくりと上下し…また小刻みに震える勇樹の舌の感触に、撒き散らす喘ぎと共に、 大きく身を仰け反らす美沙。 四つん這いの身体の下、たわわに実る乳房が、前後に激しく…妖しく躍り――― …ちゅぷっ…ちゅぷっ……ちゅぷっ……。 淫らな水音をかき立て、あたかも、中をかき回すように蠢く勇樹の舌使いに… 「んっ!あっ!はうぅっ!!……や…っ…い…イイっ!イイよっ 歓喜に震えて、美沙は、さらにいっそう熱く潤う泉を溢れさせ…… 「……っ!?…あ…あ…んぁぁっ!…あ、あたし…ま…また…っ!」 感極まり、美沙の震えが小刻みな痙攣へと変わり… 「…ん…っ…あっ…あ…っ…!……はぁぁぁぁぁぁぁ…… またしても……もう何度目かも覚えていない…甘美な絶頂に、ついえていく美沙……。
……そして、なお…… そのめざましいまでの覚醒を遂げた勇樹の悦戯に、美沙は、変幻自在にその身を操られ、 「…えと…河合さん……こう…?」 「……えっ?…ちょ…こ…コレは…ほ…ホンキで恥ずかしい…って…や…あ…ん…っ ん…あふぅっ ……それに伴って襲いくる多種多彩な刺激と快感の波に、 「や…んぅっ!…いっ…イ…ク……あぁっ その小さな身体を小刻みに震わせ、ひとり何度も絶頂を迎えていく美沙……。 そう……ただ、勇樹の――くねる十指と蠢く舌……その無限の組み合わせの愛撫の前に …………。
やがて――― それは、美沙の幾度目の波が落ち着いた頃だろうか…… 「あ―――あの……河合さん……?」 紅潮しきった顔をその眼前に置き、何かを訴えかけるような勇樹に、 「…はぁはぁ………え……?……」 荒い呼吸の合い間に、とろんとした目で、聞き返す美沙。 対して勇樹は、やや臆したようにしつつも…… 「あ…い、いやその…あ…お…おれ……俺…も…その……」 どこか…切羽詰ったような表情で、重ねて何かを訴えかける。 そう、気付いてみれば……自ら幾度の数奇なる歓喜をまみえた反面、勇樹はいまだ……。 それゆえに、勇樹の息は、自分のそれに比するほど荒く震えて……また、触れ合う肌の 温もりも…今では炎に準ずるほど熱く………伝わる鼓動は――――激しい。 そんな手に取るようにわかる勇樹の昂ぶりを、ようやく察して――――、 「あ……う……うん……いいよ… その恍惚に、虚ろな瞳を笑みの形にゆがませて………美沙は言った。 また、それはおそらく…たった今達したことによる安堵が産んだ、心の緩みも混じってたの だろう。 「……ごめんね…あたしばっかり……。…ゆうきくん………きて…… 優しげな笑みを浮かべて、勇樹を誘う美沙。 だが……このとき美沙は、幾度の絶頂の果てに変化した、自らの身体の『状況』には まだ気付いていなかった…。 |