甘い欧州旅行

第三章「魔女が魔法を使う刻」(2)

 

「あら、いらっしゃい。早かったわね、凌クン、基明ク…あら…? 基明クンは…?」

 ドアを開けた峰岸さんが、少し不思議そうな顔になって尋ねてきた。

「え? あいつは…えーと…?」

 …やばいな、何て言おう?

 当然予測されていた問いであったが、峰岸さんやウイスキーの事で頭が一杯にな

っていた俺は一瞬、言葉に詰まってしまった。

 すると、

「うふふ。彼はどっかでお楽しみ…と言うわけね。…ってことは凌クンと私、二人っき

りね……ちょっとアブないかしら…?」

 そう言いつつ、峰岸さんは何やら意味深な笑みを俺に向けた。

 ………ん?

 このとき俺は気付くべきであった。

 そう、俺や基明の『正体』を見透かされていたという事に……。

 ところが、今の俺は身近にせまった峰岸さんの甘美な香りに当てられたせいか、い

つもの感覚が働かず、その言葉の真意を理解できずにいた。

「あら、どうしたの…、凌クン…?」

 茶色の柔らかそうな生地のワンピースに身を包み、峰岸さんは微笑んだまま、彫

像のように固まってしまった俺を覗き込んだ。

 おそらく、下ろせば長いのだろう、綺麗にまとめ上げらた栗色の髪が微かに揺れ、

その付け根からなまめかしくも白いうなじが目に飛び込んでくる。

 …ふわあ。

 峰岸さんの一連の動作に、しばしぼーっとなってしまう俺。

「……凌クン?」

「…は!? い…いえ、なんでもないです…!」

 …やばいな。飲まれっぱなしだ。

「ふふ。ま…とにかく、飲も。あ…そこに座ってて。いま用意するから……」

「峰岸さん、か…軽く、おねがいしますよ。明日もあることだし」

 俺はソファに腰掛けると、無駄とは思いつつも、峰岸さんに釘を差した。

「あらぁ? だらしないのね、男のコのクセに」

 だがしかし、峰岸さんは、あっさりと受け流し、氷の入ったグラスに高級ウイスキー

を惜しげもなく注ぐ。

 とくとくとく・・・・というより、どぼどぼ・・と言う感じだ(笑)

 うほーっ! いいんだろーかこんな贅沢して・・・

「じゃ、乾杯しましょ☆」

「あ…はい、か…乾杯」

 チンッ

 グラスが合わさる高い音色が部屋に響いた。

 

 そして……

 小一時間も経った頃、俺はすっかりいい気分になっていた。

 普段はニヒルさで売っている俺も峰岸さんの前ではかたなしで、くだらないことを喋

りまくっていた。

 ……あーあ、ほんっと情ないよなあ。

 それでも、峰岸さんは優しい笑みを浮かべ、俺の馬鹿話に付き合ってくれていた。

 やがて、話も一区切り付き、

「うふふ…、凌クンって、見かけよりもずっと楽しいコなのね…。でも……」

 言葉をとぎらせ、まじまじと俺を見つめる峰岸さん。

 …ん? 今、目付きが変わったような……

「え…? 峰…岸…さん…?」

 まちがいない。

 峰岸さんは視線一つで、漂っていた陽気なムードを一変させたのだ。

 代わりに生まれた妖しい沈黙が俺たちを包み……

 峰岸さんは俺を見つめたまま、にじり寄ってきた。

 やがて、

 寄り掛かるように俺に身を寄せると、俺の膝にそのしなやかな手を置いた。

 …そう、あの妖艶な笑みを浮かべて……

「み、峰岸さん……?」

 何とか声を絞り出す俺。だが身体の方はまさに蛇に睨まれた蛙のように身動きひ

とつできず、ただじっと峰岸さんを見つめた。

「ふふ……」

 応える代わりに峰岸さんは少し口元を緩め、俺の膝に置いた手をゆるやかに脚の

付け根 …股間へと移動させていった。

 …くぅっ、う…うまいっ!?

 峰岸さんの絶妙なまでの指の動きは、俺に今までにない快感をもたらした。

 …くそ、このままでは……

 俺は惑いを断ち切るように、軽くかぶりを振って、峰岸さんの乳房へと手を伸ばし

た。

 柔らかな布地越しに、掌に豊かな弾力を覚え、俺はゆっくりとそれを揉みしだく。

 中心から、円を描くように転がし、間を見計らって、俺は峰岸さんの顔を覗き込ん

だ。  もちろん、悦に入った表情を見るためである。

 だが、

「うふふ…ん…凌クン…いいわよ……」

 峰岸さんは少しも動じてはおらず、ただ妖しい瞳で俺を見つめながら、俺の股間を

まさぐっているだけであった。

 ……う…うそ?

 俺は自分のセオリー通りにいかない事で業を煮やし、それならば、と多少強引に

峰岸さんを強く抱きしめた。

「あんっ……もう☆」

 咎めるような声こそ上げたが、峰岸さんはまるで抗うことなく、すんなりと俺に身体

を預けた。

 ……え? ちと拍子抜け…って、うあ!

 俺が戸惑う一瞬の間に、峰岸さんは俺の肩に顎を乗せ、首を少し傾けると、俺の

首筋に熱い息を吹きかけた。

「うぅ…っ!」

 首筋に走る痺れるような感覚で、俺の全身の力が抜けてしまう。

 そのスキをついて峰岸さんは俺の腕からするりと抜け出した。

「フフ…あせっちゃ…ダメ。こっちよ…いらっしゃい……」

 ふわりと立ち上がった峰岸さんは、おもむろにベッドへと歩み寄り、振り返って微笑

む。その手で俺を招いて。

 ううっ! もう我慢できんっ!

「み…峰岸さんっ」

 飢えた野獣…とまではいかないが、俺はベッドになだれ込む勢いで峰岸さんの身

体を押し倒した。

 …こんな気持ち……初体験のとき以来だった。

 一方、峰岸さんは、荒々しく求める俺をいなしつつ、唇を重ねてくる。もちろん激し

く舌を絡めるとびきり濃厚なやつを。

 そして、手は再び俺の股間へと伸びていた。

 …う、ううっ…すごい!

 俺はこのとき、はっきり分かった。彼女が仕掛けた『甘い罠』にはめられた…と言う

事に……

 それでも、すでに込み上げる欲望の虜となっていた今の俺になす術はなく、ただ勢

いのままに峰岸さんの身体を貪るのだった。

 むろん、冷静さを失っている俺はいつもの実力の半分も出し切れていない。

「んんっ…あら…結構上手なのね……んふ…ずいぶん女の子泣かせてるんでしょ

…?」

 からかうように俺の耳元で囁く峰岸さん。すでに俺のズボンのジッパーを下ろし、直

接中のモノをまさぐり始めていた。

「う…っく…」

 ひんやりとした峰岸さんの指先の感触……。

 俺の身体に電撃が走る!

 …くうううっ! もうダメだぁぁぁっ!!

 俺は、荒々しく峰岸さんのスカートをたくしあげ、太ももか ら股間へと手を伸ばし

た。

目に飛び込んできた紫のシースルーの下着が、猛る俺の心にますます拍車を掛け

る。

「あ…! あはァ……★」

 その部分に触れたとき、ようやく峰岸さんは甘い吐息を漏らした…が、今の俺には

そんな様子を眺めて楽しむ余裕はまったくなく、押さえ切れぬ熱い欲望と闘いなが

ら、おぼつかない愛撫で峰岸さんの局所だけを一点集中し攻めまくった。

 動揺と焦りでいつものテクニックが披露できない今、咄嗟に思い付いた苦肉の策で

ある。

「ん……あ…あ…はぁ……」

 そのかいあってか、峰岸さんの下着は徐々に湿り気を帯び、やがてシースルーの

生地がさらに透けるようにその染みを広げていった。

「あ…あは…いいわよ…凌クン……か…感じる……ぅ」

 さすがに峰岸さんの呼吸も少し荒くなってきた。が、それに伴い、俺への愛撫もよ

り激しくなってきた。

 いわゆる、『本腰を入れて』きた、というところか……

 …うぅ…すごい……ど…どうやったら、そんな風に指が動くんだ…?

 人差し指と中指が這いずるように裏側へ回り、爪先で引っ掻くように元の位置に戻

る。 また、そのほかの指は互いに挟み込むようにその周辺の皮膚を摘み上げ、さら

にもう片方の手は、当然のごとく、猛るこわばりを握り締め、上下にしごき続けた。

「……っく、み…ねぎし…さん、すご…い。」

 峰岸さんの巧みな指の動きの前に、俺の分身はさらに熱く、そして固くこわばって

いき、もはや、俺は峰岸さんを愛撫することも忘れ、ただその凄まじい快感に身を委

ねてしまう だけとなった。

「ふふ…カワイイわよ……凌クン★」

 ややあって、峰岸さんは、 陶酔しきった俺の顔を見つめ、満足げに微笑むと、俺

から身を離し、ベッドを下りた。

 …え? な…なんだ?

「んふ……」

 俺が不思議そうな顔をしていると、峰岸さんはとびきり妖しい笑みを浮かべ、身に

着けている物を一枚一枚、華麗に脱ぎ去っていった。

 そう、まるで妖艶なストリッパーの様に。

 …ごく。

 これ以上ない魅惑的な光景に、まばたきするのも忘れ、その様を見入ってしまう

俺。

 やがて、峰岸さんは、俺を見つめたまま、焦らすようにゆっくりと最後の物をするり

と足から抜き去り、束ねていた髪をほどいた。

 しなやかに流れ落ちる髪……それを掻き上げつつ、峰岸さんの口がゆっくりと開いた。

「最高の『悦び』…教えてあげる…★」

 

「魔女が魔法を使う刻」(3)へつづく・・・・

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