甘い欧州旅行

第七章 ピーピング・ナイト☆

(3)

 しまったぁぁぁっ!

 …などと、思ってももう遅い。

「んむっ…!?」

 さらに、身を捩ったその動きのせいで、スキのできたあたしの胸元に、すぐさま基明くんの手が滑り込んでくる。

「あ…ん…っ…ん…む〜〜っ……!」

 ブラウスの襟元から差し込まれた基明くんの手は、そのまま一直線にブラの隙間から中に潜り込んで、むにむにとあたしの乳房をまさぐり始める。

「ん…あ……はぁ…んっ!」

 ちなみにこの子、もうすっかりあたしの感じるところを熟知しているよう……。その証拠にこの体勢なら、右側から右手を差し込んで対角線上に左乳房を狙ったほうがいいのに、わざわざ左手を使って右の乳房をまさぐっている。

 そう、あたしは右の乳房を攻められる方がより敏感に感じてしまうのだ。…って何をのんきに解説してるかな。あたし……。

 ま…それはさておき、ホントに冗談じゃないわよ……こんなとこだれかに見られて、会社にばれたら間違いなくクビになっちゃう……。

 は…?そーじゃなくて女の恥じらいは…って?はは、何言ってんのよ。この年になったらねー、ンな一銭にもなんないものより、まず保身よ保身……へっ。

 って、やさぐれてる場合でもないだろ。

「んむっ……ちょ…ちょっとやめなさいよぉ…あ…ふ…っ…ま…マジでシャレになんないから……」

「あ。へーきへーき。どーせこんなとこ誰も来ないよ…それに俺こーゆーの慣れてるからあっちのほうには気ぃくばってるし、もちろん全部ぬがすつもりも無いから、いざってときはなんとかなるよ……」

 あ、そーか。それなら……ぢゃないっ!

 後ろ手にラウンジ入り口の方を指差しつつ、事も無げに言ってのける基明くんの言葉に、納得しかけてあたしは自分自身にツッコミを入れる。

 だいいち『慣れてるから』ってのは、何?ちょ…ちょっとぉ…なんなのこの子。だ…誰よ、この子にこーゆー性教育したのはーっ! 責任者出てこい、責任者っ!

 などと、胸の内でとことんめーわくな見も知らぬ『責任者』に対して非難の叫びを上げるあたしだが、むろんそれで今の状況がどーにかなるわけでもなく。

「…って、ん…はぁっ…や…だ…だから、だ…ダメだってば……」

 また、抵抗するあたしの手を巧みにかいくぐり、『急所』を的確にまさぐってくる彼の手によって、すでに火のつきかけていたあたしは次第に………

「や…あ…はぁ…だ…ダメ…ぇ……」

 言葉だけの抵抗となったあたしの声…またその声さえも、どんどんか細いものになっていく。

 加えて、そんな傾きかけた心を後押しするように……あたしは眼下の光景へと目を移してしまう。

 眼下では、跳ね上げた水滴をその全身にまとわりつかせて絡み合い、淫らに輝く二人の情景……そう、彼等はついに佳境を迎えようとしていた。

 無数の水滴に濡れて妖しい光沢を放つ峰岸さんの肌の上、しなやかな曲線を辿って、まさに滑るように下っていく凌くんの指。やがて辿り着いた彼女の股間……湿った黒の布地を引っ張り上げ、身体を重ね…腰を埋めて……………

 え…?う…うっそ〜〜。ほ…ホントにあそこでしちゃうわけ?

 そんなあたしの驚きをよそに、さらに深く腰を突き入れた凌くんに喜悦の表情を浮かべてのけ反る峰岸さん。

 そして、まずいことにこのとき、またもあたしは彼女の感覚とシンクロしてしまい、

「ん…はぁぁぁんっ!」

 ことさらあからさまに甘い声で喘いでしまった。

 ま…マズい………。

 痛恨の思いを胸に、そろ〜っと、後ろの基明くんを伺えば、

「ふ………」

 彼はなぜかミョーに優しげな表情を浮かべていた。

 げ。

 な…なんなのよ…その顔は? ち…違うってば!そ…そーゆーイミじゃなくてね……

 なんてあわてふためくより先に、身体を入れ替えるとかなんとかすれば良かったのだが、言うまでもなく、そんなことは後の祭りである。

 すでに腰の上まで捲り上げられ、緩んだ帯のようになってるあたしのタイトスカート。基明くんはおもむろにその中に手を突っ込み、

「あ…やぁ……ん」

 少女のような声を上げる自分自身にあたしが恥ずかしがってるそのうちに、ストッキングもろとも膝上までショーツを引き下げ……

 じーっ。

 彼がファスナーを下ろす音が、なぜか現実味のない音となってあたしの耳に届く。

 次の瞬間。

 ずんっ!

 彼があたしの中に入ってきた。

 

「んああああああーっ!」

 うつろいだ意識が一瞬現実に返ると同時に、あたしの全身に激しい衝撃が走る。

 こんな感覚、初めてだった。

 そう、突如あたしの中で閃いた何かが内側から放射状に身体を突き抜ける感じ……。

「や…やぁっ!あ…あ…はぁぁっ……!あ…はぁっ!」

 そして、始まる彼の腰の躍動。

 間断なく注ぎ込まれるたゆみない刺激に、

「やっ…いやぁっ!はぁっ!はぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

 さんざん我慢していた反動だろうか、たったこれしきの動きであたしは、あっという間に絶頂に達してしまった。

 が、むろん基明くんの腰の動きは止まず、

「んん…っ? ん…はぁっ!…はぁぁっ!」

 すーっと血の気が引くような余韻が冷めやらぬまま、あたしの身体は次の快感の山を上り始めていく。

 や…やだ……このままじゃ…お…おかしくなっちゃう……

 遠のく意識を繋ぎ止めつつ、あたしは何とか前に逃れようと、背後から貫かれたまま手足に力を込める。

 とはいえ、ここはすでに窓際。前に逃げたところでどうしようもないのだが、そんなことを冷静に考える余裕など、むろん今のあたしにはなかった。

 ともあれ、必死に身体を前にずらし届いた指先が触れたのは、行き止まりの窓ガラス。 

「あ……」

 分かっていたことだが、身を以て愚かな逃亡劇を試みていたことを知るあたし。

「あ…はぁぁ……」

 落胆と嗚咽が入り交じったような息を吐き、あたしは四つん這いの格好でがっくりとうなだれる。

 も…もういーや。好きにしなさいよ……。

 次々に押し寄せる快感と、半ば自暴自棄に似た思いで、あたしは基明くんを受け入れる覚悟を決めた。

 と、その瞬間。

 突如、あたしのお腹に彼の両手が回り込み、

 ぐいっ!

「え…あ…?きゃ…」

 抱きかかえられたかと思うと、あたしは前方の窓ガラスに手を付き、強引に立たされていた。

「え…ちょ…ちょっとぉ……んああっ!」

 さすがに非難の表情を浮かべ、背後を振り返るあたしだが、すぐさま叩き付けるように蠢く彼の腰の躍動の前に、あえなく沈黙……いや…

「あ…はぁぁぁんっ!い…イイッ……そ…それすご……う…はぁぁぁっ!」

 歓喜の喘ぎをあげてあたしは基明くんを欲していた。

「は…ぁぁあぁん! あふ…ぅぅぅっ!」

 止めどなく吐く熱い息で、あたしの目の前のガラスが見る間に白く染まっていく。

 霞んで見えにくくなった視界の向こうには、喜悦の表情を浮かべ全身を打ち震わせている峰岸さんと、その上に重なる凌くんの逞しい背中が揺れている……、

 あー……なんか…向こうもクライマックスに…入ったみたいね……

 ぼーっと、白み始めた思考の中、やけに呑気にそんなことを考えるあたし。

 きゅっ!

 だが、そんな現実逃避に似た感覚の切り離しも許さぬかのように、背後から回された基明くんの両手が、はだけたブラウスの上からあたしの乳首を摘み上げる。

「ん…ひああああああっ!」

 びくびくんっ!と、身体を震わせ、あたしが二度目の絶頂に上り詰めたのはそのときだった。

 そしてその後も……

「んはああっ! も…基明くんっ……いい…それイイッ!はぁぁぁっ!」

 誰もいないラウンジの片隅、白く染まった窓ガラスに手を付き、狂おしく咽び鳴くあたし。

 あ…あたし……これで……何度目だろう……?

激しく身体を揺さぶられ、止めどなく続く快感の中、そんな事を考えることで、飛んでいきそうになる理性がなんとか繋ぎとめるあたし。

つま先立ちの両足はかろうじて床を踏んでいるものの、すでに腰から下は自分の物ではなくなっているようで……。絶え間なく送り込まれる彼の振動をただそのままに受け止めているだけ…。

 ふと目を移した眼下には、すでに二人の姿はなく、誰もいないプールの水面がたゆたんで、無数のさざ波をきらめかせている……

 そんなとき……

「ん…ひぃぃぃっ!」

 刹那加わった一際激しい衝撃に、目を見開き、甲高い声があたしの口から漏れる。

「はぁっ!よ…洋子さんっ!」

 荒く息つく彼の声。

 気付けば、基明くんの腰の動きが別のものに変わっていた。

 あ…そろそろ彼も……?

 察したあたしは、どーせなら「置いていかれないよう」に、といった感じで、残っていた全感覚を開け放ち……

 やがてほどなく……。

「う…くぅぅ!」

 妙に遠巻きに届く基明君の呻き声を聞きながら。

「はぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」

 白く曇ったガラスにつつぅ〜〜っと、指の跡をつけ、あたしは床に崩れ落ちた。

 

 ………はあ……。しかしいーんだろーかこんなことしてて……添乗員(あたし)………。

 

 ふと顔を傾けた目線の先、壁に掛けられたベートーベンの肖像画が、めーわくそーに眉をひそめたような気がした…………。

 

ピーピング・ナイト」(4)〜どーでもいいエピローグ(^^;〜へつづく

えー、おふざけのおまけですので、余韻(あるのか?)を大切にしたい方は読まないほうが賢明かも…(^^;

 

 


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