ロフト・イン・サマー・V

Last Night〜長い長い最後の夜☆〜

*注;このお話は前作「ロフト・イン・サマー」の第三話です。
前作を読んでない方は、なるべくこちらからどうぞ☆

(1)

 さんさん
 燦々と降りそそぐ太陽。

 背中から伝わるビニールシート越しの焼けた砂の感触。

 風はべた凪。

 じりじりと肌を焦がす陽光から、逃れる術はない。

 顔の表面に浮き立つ液体は、溶け始めたサンオイルなのか、

 それとも、とめどなく吹き出してくる汗なのか………

 暑い……とにかく暑い……

 だが、この耐えがたい暑さも、今の気怠い身体にはなぜか妙に心地好か

った…………

         

「たけっ!」

「……………ん……」

 凛とした声と共に、閉じたまぶたの裏側さえも焦がす強烈な陽射しが遮られ、

うっすらと目を開ける剛。

 そこには、膝に手を付き、かがみこむようにして自分を覗き込む真子の、

ムッとした顔があった。

「ん…あむ…なに…?」

「『なに…?』じゃないわよっ! 何ひとりでおもいっきりくつろいでんのよっ!? 

『海』は剛の係りでしょーがっ! ちゃんとめんどー見なさいよっ!」

 生あくびを噛み殺し、横たわった格好のまま問いかける剛に、真子は波打ち

際で遊ぶ子供達をビッと指差し、捲し立てた。

 だがしかし、剛はそんな真子の剣幕にまったく怯む様子もなく、

「るっせーな〜、『係り』って、ンなもん誰が決めたんだよ? だいいち俺ぁめち

ゃくちゃ眠ぃんだよ……あ、そうそう『誰かさん』のせーで☆」

 面倒くさそうにそう言った後、シニカルな笑みを真子に向けた。

「っ!?」

 その台詞で真子の顔がボッと赤く染まる。

 しばし絶句するが……

 にやにやと意味ありげに笑みを向ける剛に、真子の恥ずかしさと苛立ちは最高

潮に達した。

「な…なによなによっ! 調子に乗っていっぱいHシてきたのは剛の方……むぐっ!?」

「うあぁっ!? ば…ばかやろっ!」

 人目もはばからず大声で、とんでもないことを言い出した真子に、剛は慌てて跳ね

起き、その口を塞いだ。

「…あむぐぅっ! うぅーっ! んんんんーっ! ………んぐっ!」

 …………がり。

「……い…いってぇぇぇぇぇーーーー!」

 口を塞いだその指に歯を立てられ、剛の絶叫が大空に響く。

                                                      

         ヒロシ
「…大体、よぉ、浩なんかはどーしたんだよ。あいつの方が子供の扱いうめーだろ

ーに…」

 真子の歯形が残った中指を恨めしげに眺めながら、剛が言う。
              
トーコ
「ん…ああ、浩君なら、塔子たちなんかと釣りに行ってくる、とか言ってどっか行っ

ちゃったよ」

 そつなく、浜辺で遊ぶ子供達に目を配りながら、いまだ不機嫌な声のまま

答える真子。

 ちなみに、『浩』というのは、剛の三才年下の弟。『塔子』はやはり真子の三

つ下の妹である。共に次男次女という立場上、ご他聞に漏れることなく抜群に

要領がいい。

 おそらく、彼等は半ば強制的に剛から子供達の世話を仰せつかったのだろ

うが、いいかげん飽きてしまい、適当ないいわけで真子に押し付けた……という

ところだろう。

「釣りぃ? あいつ釣りなんかやったことねーはずだぞ。うめー事言って逃げや

がったな、あんのヤロー!」

「え? そーなの? でも、なんかいかにも、ってな事言ってたわよ。なんでも

いいイシモチがこの時間じゃないと……とかなんとか……」

 やや驚いた様子で真子は、舌打ちする剛に顔を向ける。

「かーっ、お前なー、そんなことでだまされんなよ。見ろよ、残ってんのは、
                  
ヤツラ
一番手間の掛かるちっちぇえ子供ばっかじゃん?」

「あ…そ…そーいえば……」

 クーラーボックスから取り出したウーロン茶のペットボトルをラッパ飲みしつつ

言う剛の言葉に、改めて見てみれば、なるほど、二十人程の子供達のうち、

中間年齢…つまり、小学校高学年〜中学生程度の生意気だがそれなりに役に

立つ少年少女たち数人の姿だけが ごっそり抜けている。

「あーあー、いいねえ、若いモンは……。ものわかりのい〜いお姉さんにすべて

押し付けて好き勝手できてさ。どーせ『真子おねーちゃんお願いっ』とか拝まれて、

『しょがないわねえ、行ってらっしゃい』とか…そーいう展開だったんだろ?」

 嫌味たらたら、真子の口マネなどを交えつつ、剛はじとーっとした視線を真子

に送る。

「…う」

 まっこと寸分違わず剛の言葉通りだっただけに、真子は言葉を失ってしまう。

「んでもって、オハチがみぃ〜んな俺に回ってくるわけだこれがまた…あーあ……」

「い…いや…その……ご…ごめん……」

 しつこく続く剛のねちねち口撃に、返す言葉に詰まり、苦笑を浮かべて思わず

謝ってしまう真子。

 …とそこで、そもそもの発端を思い出し、顔色を変えた。

「……って、なぁ〜んであたしがあやまらなきゃなんないのよぉ! 第一っ、剛が

あのコたちのめんどー見るのをおっぽらかしたのがコトの原因でしょうがっ!」

 うつむきかけた顔をがばっと起こし、物凄い剣幕で剛を睨み付けた。

「だ…だいたいねー、あたしだって、こんな保育園の保母さんみたいなことばっかやって

ないで、デートのひとつやふたつ……」

「……ん?」

「……な…なんでもないわよっ! と…とにかくっ、早く一緒に来てっ! あたし一人じゃ

あの子たちの面倒見切れないんだからっ!!」

「ちっ、しょーがねーな……っしょっと……」

 照れなのか、怒りなのか、ともあれ顔を真っ赤に染め上げて言う真子に、剛はようやく

観念したように重い腰を上げた。

       

「お〜ら、それ以上行っちゃだめだ……」

 腰から下を浅い海に沈め、足を投げ出した格好の剛が、こっそり沖へ行こうとする

男の子の手を掴む。

 まるっきり、やる気のない態度に見えるが、そこはそれ、長年の経験からか、剛の

監視の目は鋭い。

「もうちょっとたったら、マットに乗せて俺が連れてってやっから、今はあっちでみんな

と遊んでな」

「う……は…はぁ〜い」

 不満げな声を上げるも、男の子は気圧されたように、剛の指差す方へばちゃばちゃ

と駆けていった。

「はぁぁぁあ、やれやれ……」

 溜め息交じりに剛は男の子の背を見送り、同時にその向こうへと目を移す。

「きゃはははは! まこねーちゃ〜んっ!」

「キャッ☆ やったな〜〜っ それそれぇっ!」

 バシャバシャッ

「………」

 太陽の光を浴びて、きらきらと舞い上がる水飛沫の中、子供達と水のかけっこで

たわむれる真子。

 乱反射する水と光のカーテンの向こう側に、しっとりと濡れた髪を肌に張り付けた

真子の肢体が踊る………

「………………」

 前屈みになって水をすくう格好をする度に、両腕で絞られた胸の谷間がくっきりと

浮き立ち、細いウエストから流れるような曲線を描く形の良いヒップが突き出され……

(お☆)

「そぉぉれぇぇっ!」

 天に向かって水をかきあげるその仕草で、両の乳房がぷるんと揺れた。

(おおおおおお☆)

 しばし、その様をぼーっと眺めていた剛だったが、

「……あ。う…うわ…やべ……」

 にわかに起こった身体の変調に身を屈める羽目となる。

(やっば〜……ちっと、やべ−なこりゃ……)

 とっさに剛は真子から視線をそらせたが、時すでに遅く、剛の海パンはむくむくと

起き上がってきた欲望によってあっという間にパンパンに膨らんでしまった。

 幸い剛の水着はバミューダタイプのものだったので、少し『位置』を変えることで

上から顔を出す…ということはなかったが、それでも、このまま海から上がるわけ

にはいかな くなった。

(まさかこんなとこ押さえて上がるわけにはいかねーしなー……)

 とにもかくにも、まず気持ちを静めることが先決なのだが、こういう時に限って、

水着の真子と昨夜の真子が交錯して見えたりする……

 よって興奮はますます高ぶるばかり。くわえて『位置変え』などでもぞもぞやって

るお陰で、ソコはますます元気になっていく……

(っ…ぁーっ!…どうしよ……?)

 ひとり半身を海に沈め、困惑する剛……

 そこへ……

「ちょっとーっ! 剛ぇ、どーしたのーっ?」

 子供達との水遊びを中断し、真子が心配そうな顔でこちらを見ていた。

「え…? あ…あ…ななな何でもねーよ。ちょ…ちょっと足つっちゃって……」

 前屈みになった格好のまま、顔だけを上げ苦笑を浮かべる剛。だがしかし、

何かを堪えているようなその表情が、真子の顔色を変えさせた。

「ええっ! ちょっとっ! だいじょぶなのっ?」

 ばしゃばしゃと水をかきあげ、こちらに駆け寄ってくる真子。 途中、何かに

気付いたように一端足を止め、

「ごめーん、みんなちょっと海から上がってーっ、クーラーボックスの中に入ってる

おやつ食べてていーからねーっ!」

「はぁーいっ!」

 きびきびした真子の指示に、子供達は一斉に海から上がっていった。

「え…? あ…いや…そんなことしなくても……」

 真子のおーげさな判断に、躊躇する剛。

 一方真子は、子供達全員が海から上がったのを確認すると、急いで剛に駆け寄って

いった。

「ちょっとぉ…大丈夫? どこ…?」

 剛の向かい側にしゃがみ込み、水中…剛のすね辺りに手を差し入れる真子。

 心配そうな表情で覗き込むその顔は、跳ね上げた水で滴り、乱れた髪がしっとりと

張り付いていた。

「……っ!?」

 そんな真子の表情は、妙に色っぽく、また優しくすね辺りを擦ってくれる彼女の手の

感触が、やや静まりかけてきていた剛の股間を再度強烈に刺激した。

「あ…ご…ごめん…痛かった?」

 その反応をまるっきり誤解した真子が、慌てて顔を上げる。

 とはいえ、別のところはさっきから痛いくらいになっているし、本気で心配してくれて

いる真子の表情に、胸がチクリと痛くなったのも事実で、あながち誤解とはいえないが。

「え……? い…いや…だ…大丈夫…だよ……だから…おめーも…行っていーよ……」

「ばかね…そんな訳に行かないでしょ。立てないの? だったら肩貸したげるから、

とにかく水から上がろ……水ん中で冷やしてるとなおんないから……ほら……」

 いろんな意味でたまりかね、追い払おうとする剛だが、むろんそんな言葉に素直に従

う真子ではなく、正面から剛の脇の下に手を差し込み、抱き起こさんとばかりに、

身体を密着させてきた。

 向かい合わせに入ってきた真子の身体。当然、真子の柔らかい部分が剛の身体の

そこかしこに触れ……

「へ…? あ…!? いいよいいっ! マジだいじょぶだからっ!! ちょ…まこっ!」

 さらに著しくなった身体の変調に、大慌てで真子の手助けを拒否する剛。

「………ん?」

 一方、あまりにも不自然な剛の慌てぶりに、さすがに真子は訝しげな顔になり……

「……………あ。」

 何とはなしに、下へと泳がせた視線の先で、その真相を確認した。

 さほど、透明度の高い海ではなかったが、この水深では、その状況は丸見えである。
      
みなも
 たゆたう水面のその奥に、異様な盛り上がりを見せる剛の海パン……

 やがて、

 言葉を失い、しばしうつむいた姿勢のまま固まった真子がゆっくりと顔を上げる。

「………はぁ〜〜ん。そおいうコト…かぁ……。ふぅぅぅん……?」

 上目使いに不敵な笑みを浮かべる真子のその瞳は、ちっとも笑っていなかった……

 ちゃぽん……
    
か お
 その表情で、剛に無言の圧力かけたまま、脇の下に入れかけた手をゆるゆると

引き抜き、水の中に沈める真子。

 いわずもがな、真子の手が行き着いた先は……

「あ…!? ま…真子…? や…やめ……」

 水着越し、股間に届いた真子の掌の感触。剛は驚きの声を上げ、真子の手首を

ぎゅっと掴む。

 だが、

「あれぇ、反抗できる立場かしらねー?」

 手首に剛の力を感じると同時に、真子はふぐり辺りにあてがわせていた掌に力を

込めた。

「あ…ううっ!」

 そう、曲がりなりにも急所である。剛は本能的に真子の手首から手を離し、観念した。

 そして、真子の手の動きはさらにエスカレートしていく。

「ふふ…ん、またもや『職務』をほっぽりだしたあげく、いやらし〜い目であたしを

眺めて、こんなにしちゃってたってわけだ…?」

「ば…ばかやろ…なにが職務……ううっ!」

 海パンの裾から差し入れられた真子の手が、屹立した剛のこわばりをしっかりと握り

締めた。

「……で?」

 言葉を失った剛に、意地悪く微笑みながら問い返し、前後にしごき始める真子。

 いつもとは違う水中で、ということ…さらに真子の手の動きで、その周囲に水流が

生まれ、それがまた絶妙な快感となって剛の股間をくすぐっていく……

 りゅっ…りゅりゅっ……

 ちゃぷ…ちゃぷ……

「うああ…ちょ…や…やめ…ろ……ま…マジ…で……」

 急激に込み上げてきた絶頂感に、剛は身体を震わせ真子の両肩をがっしりと掴んだ。

 はっきりいって、今まで感じたことのない強烈な快感であった。がしかし、いくらな

んでも、まさかこんな所で……という思いが、真子の両肩を握り締める力を強くする。

 すると……

「い…痛ッ! ンもうっ、やめるわよ。やめればいーんでしょ」

「……え?」

 意外や意外、半ば投げやりな口調で、真子は絶頂寸前だった剛のこわばりから

あっさりと手を離し、すっくと立ち上がった。

「え…え…あ…あの……おい……?」

「んじゃ、あたし行くから。みんな待ってるし」

 躊躇し、何かを訴えるような顔をする剛に、さらりと言ってのける真子。

「……って、おい、ちょっと待てよ真子っ、俺ぁどーすんだよ? このままじゃ上がってけ

ねーよ!」

「知んない。あたしのせーじゃないもん。ま、ほとぼり冷めるまでそのままでいるしかない

わね。あたしにどーこーできる問題じゃないみたいだし……

 んじゃ、せ−ぜ−お腹冷やさないよーにね

 冷ややかな口調でそう言い、真子は剛の前でくるりと踵を返した。

「じょ…じょーだんだろ……って、おおいっ、真子ぉっ!」

 泣きそうな声で剛がそう訴えるも、波打ち際をばしゃばしゃと駆けていく真子の姿は

どんどん小さくなっていった。

 そして、一人残された剛は……

「……どーすんだよ………コレ………?」

 さんさん
 燦々と照りつける太陽のもと。

 股間に熱い塊を抱え、驚いた表情のまま固まっていた。

 いつまでも。そう、いつまでも…………

 

(2)へつづく。

 

 

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