ホワイトルーム・4
Milkey
Night〜帳の降りたサーフライダー〜
*注;このお話は前作「ホワイトルーム・3」の続編です。
まあ…このまま読んでもさしつかえないと思いますが…(^_^;
でも、久しく間が空いたことですし(汗)、話忘れちゃったから…という方はこちらから、ごらん下さい。
(1)
中天に晧々と輝く月が、遠い波頭を煌めかせ―――― やさしく肌を撫でていく心地よい夜風が、名も知らぬ甘い果実の薫りを運んでいく…。 そんなゆったりとした時の流れるハワイの夕べ。 「ん〜」 「はァ〜〜☆やっぱいーわね〜、ハワイは身も心も開放的になるってゆーかさ〜♪」 『私、完全にデキあがりました!』然としたありさまで繰り返し続く先生の同じ台詞を― ………26回目。 俺は半ば無機質的にカウントしていた。
いやもぉなんだかやたら時間が空いたよーな気がするが…(汗) まあ……それはさておき、 ともあれここは、このオアフでも指折りのお洒落なホテル、カラカウア通りほぼ中心 に聳え立つ『モアナサーフライダー』。その一室。 ―――そう、もはや言うまでもないだろうが、先生のチャージした部屋にいる。 海に迫り出したバルコニー。 しっとりと濡れた夜風が日に焼けた素肌を心地好く撫で。 耳に届くは、眼下闇に包まれた砂浜からのさざ波と、 うろん…うろん…♪ 階下どこからか爪弾かれるウクレレの微かな音色。 部屋から漏れる淡い光に照らされた白いテーブルに、小麦色の肌をした潤んだ瞳の 女性と差し向かい―――とこう記せば、 絵に描いたようなロマンチックなハワイの夕べ……と称されるところだろうが…… 「あははははは〜♪」 正面から響く妙に陽気な酔っ払いの高笑いが、なんだかイロイロなものを台無しに しているような気がする。 はふ……。 とまあ、なんかどこかがちがうぞ感満載の現在の状況。 をつけられると、ますますイロンナものが失われていくよーな気がするので―――、 ここはひとまず、一点を除いた素晴らしいハワイの夕べに浸りながら、モノローグに 移ることとする。
―――小一時間ほど前、ライエビーチから戻った俺たちは、これまた南国ムード いっぱいの、ホテル付設のプライベートビーチに設けられたオープンテラスのレストラ ンで夕食を取り―――いよいよ先生の部屋へと向かっていた。 ……かちゃ。 部屋のドアを開け、カードキーをキーストックに差し込むと部屋の明かりが灯る。 「へへー♪けっこーイイ感じの部屋でしょ?一応、ココに勤めるジャニスの口利きで ム風に改装したモニタールームらしいけどね」 先の夕食時に、がっぱんがっぱん飲んでいたプリモとかいうビールのせいだろう、 やや頬を赤く染めた先生が何やら誇らしげに言う。 確かに。 やわらかな照明に包まれた室内を見回せば――― 淡いクリーム色を基調にしたシンプルで清潔感あふれる内装、 に、南国ムードを後押しする白い籐で編み上げられた調度品がところどころに置か れており、 正面には、ワイキキビーチを一望できる大きな窓…その向こうには、ゆるらかなカー ブを描く白いフェンスのついたバルコニー。 そして、部屋に入って右側のブースには、小さなカウンターキッチンとかが設けられて おり――(初見の俺には良くわからないが、この辺が『こんどみにあむ』というらしい…) とにかく、まさにケチのつけどころのない、そんな高級ビーチリゾート感全開のイイ雰 囲気の部屋であった。 むろんちなみに、昨日泊まった、日本の俺の部屋と大差ない稔の部屋と雲泥の差で あることは、もはや全く言うまでもない。 …って、いやいやいかん。こんなとこで黄ばんだゴミ溜めを思い出してる場合ぢゃな いだろ。 …などと、比較することすら恐れ多い、昨夜の宿との大差に、尽きぬ感嘆の息を漏ら す間、 「はい。じゃそれココ置いて」 だった袋(えれー重かったっす)をキッチンカウンターの上に置くように指示する先生。 そして、 …がさがさ…… 袋を開き取り出したるは、見慣れないパッケージのスナック菓子数種類、チーズ、 ハム、クラッカーなどの軽食類…そして半ダースににまとめられたプリモビールと、俺に はなんだかよくわからない種々リキュールのハーフボトルが数本…。 うげ…やけに重いと思ったら、ビールだけじゃなくて、ンなモンまで買い込んでたの か? …てゆーか、まだ飲むんですかアナタ…? 呆れ半分、驚き半分で立ちすくむ俺に、だが先生はなんだか嬉々とした様子で、 「えへへ♪栗本にもオイシーの作ったげるからね☆」 ……あー。そーいや前に、学生時代にパブレストランでバイトして以来、カクテル 作りにハマった……とか聞いたことがあるな……。 などと、どこか遠くで俺が思い出だす間にも、 「〜〜〜♪」 先生は、勝手知ったるなんとやら…キッチンのラックをぱこぱこ開けつつ、アイスペ ールやシェイカー、ミキサー…など様々な調理器具を手際よく準備していく。 ……って、お…?スゴいな☆『こんどみにあむ』って! そんなピンポイントなニーズにまで応えちゃうとは…☆ 俺は胸内で妙な賞賛の声を上げつつ、 「へ〜?そんなのまで備え付けてあるんだ?」 「ま…ね。大体の料理器具は揃ってるからね。その気になれば、何でもできちゃうのよ 「………。」 ……何者ですかあなたは…? ともあれ、いろんな意味で呆然とたたずむ俺に、 「はいはい。じゃあちょっと向こうでくつろいでていーから☆今すぐ栗本用のスペシャル なのができるからね〜」 そう言って、俺をキッチンからリビングに追いやる先生。 いやあの、俺…一応未成年……んで、アナタの職業は…? などと、刹那浮かんだヤボな問いかけと共に………。 かくして、先生は、にわかバーテンダーと相成った。
そして、待つことしばし… からんからん☆…しゃかしゃかっ!…とくとくとく……。 などの、小気味いい先生のカクテル作りのBGMが響く、慣れないハイソな雰囲気の 中――― 「………………」 特にすることもなく、しばらく部屋をうろつく俺。 時折、カウンターキッチンを覗けば、 「………♪」 なにやらホントに楽しそうにシェイカー振り振り、にっこりと微笑む先生。 (え?…えっと…あはは……) その微笑に気圧されるかのように、俺はテレ笑いを浮かべつつ、 からから… 隠れるようにバルコニーへ出ると、白いテーブルに着いた。 そして、まんじりともしない思いを胸に昏い夜空を見上げていると…… 「おまたせ〜☆」 ほどなく、ご機嫌な表情のまま、バルコニーに現れる先生。 軽いおつまみと、色鮮やかな二つのカクテルを乗せたトレイを両手に。 |