ロフト・イン・サマー
(3) まどろみの中…… 「……………………、…ん……?」 なにか身体に重みを感じ、うっすらと目を開ける剛。 寝ぼけ眼を擦りながら、重みを感じる方に首を傾けたとき、剛はそこに信じられな いものを見た。 安らかな寝息が感じられるほど、真子の顔が間近にあったのだ。 (な……!?) 更に驚くべきことはそれだけではなかった…真子は、まるで抱き枕を抱えるように 剛にしがみついていたのである。 「……っ!!」 驚きが声になって漏れそうになるのを、剛はなんとか堪える。 だが、あまりにもショッキングな出来事に、寝起きで冴えない剛の頭がますます混 乱をきたす。 (ええ…え−と…えーと………) 一瞬、自分が真子の布団に潜り込んでしまったのかとさえ思い、首だけを転がし辺 りを見回す剛だが、ここは間違いなく自分の布団の上だった。 (…な、なんで……? こいつ…こんなに寝相、悪かったっけ…?) 記憶を手繰り寄せるように思考を巡らせる剛。と同時に寝起きの頭も少しずつはっ きりし始めた………が。 (……!) ぼんやりとしていた頭がはっきりし始めたせいなのか、剛は今更ながら、何か柔ら かな物が腕に押し付けられている事に気付いた。 そう……それは、紛れもなく自分の身体にはどこにもない感触…すなわち真子の 乳房の感触であった。 (…!? や…やば…!) 即座に反応し始めた自分の身体に危険を感じた剛は、込み上げてくる得体の知れ ない衝動を必死に押さえ、抱きかかえられる腕をゆっくりと抜き、静かに真子の身体 を自分から遠ざけた。 「……………ふう」 とりあえず、ほっと安堵の息を吐く剛。 だが、身体を放しても剛の身体には、未だ真子の柔らかな感触がはっきりと残って いた …… 剛の目は完全に冴えてしまい、どうやら、もう一度眠りに就くのは無理のようであ る。 「……………………………」 梁がむき出しになった天井を見詰めたまま、しばらくの間、悶々とした時を過ごす 剛…… なんとはなしに、枕元のマンガを手に取り、ぱらぱらとめくってみるが、まるでその 内容が頭に入らないため、投げ落とすように再び元の位置に戻した。 もはや、眠りにつくことは諦めたものの、かといって何かをする気にもなれず…… 「………はあ」 重いため息に似た、大きな空気のかたまりを口から吐き出す剛。 だがむろん、これはため息などではなかった。 そう、時間の経過と共に、先ほど感じた得体の知れない衝動が剛の中で、どんど ん大きくなり、剛は高まる胸の鼓動で息苦しさを感じるほど、その息遣いを荒くしてい たのだった。 つまり、これは荒くなった呼吸を整えるため、吐き出した、剛の熱くせつない吐気で あった。 今や、何を考えようとも、剛の頭に浮かぶのは、真子のこと……それだけだった。 と言っても、想像の中、剛の頭に浮かんでくるのは、いつもの真子の明るい笑顔 や、たった今目の当たりにしたはずの安らかな寝顔などではない。 今日の昼間、海岸で垣間見た真子の水着姿……剛の想像以上にふくよかになっ た彼女の胸……両手で覆えそうな細くくびれた腰……はたまたそこから抜き出る、す らりと伸びた長い脚…… それら断片的な光景が、無限とも思えるループを描き、剛の頭の中で繰り返され、 剛は次第に現実と想像の境目が付かなくなっていく…… そして、とうとう……… (……少しだけ……触るくらいなら……) 剛は、震える手をゆっくりと真子の身体へ伸ばしていった…… ためらう気持ちが、剛の手を何度も虚空にさまよわせ、まるでスローモーションの ように、真子の胸元へ近付いていく。 ドクンッ! ひとたび大きく高鳴った心臓の鼓動が、ためらい、直前で止めたはずの剛の手を 後押しした。 剛の手のひらが、真子の胸の上にぽとり…と落ちる。 その瞬間、例えようのない柔らかな感触が掌に広がり、何か不思議な安堵が剛の 全身を包みこむ…… ……………長い。 長い一瞬、剛は真子のふくらみに手を乗せたまま固まっていた。 「………あ」 剛が我に返ったのは、真子の乳房に乗せたままの手が、彼女の呼吸により上下し ているのに気付いたときであった。 慌てて、真子の様相を伺うも、真子は相変わらず安らかな寝息を立て眠っていた。 心の中で、ほっと胸を撫で下ろす剛。だが同時に、なんとも卑劣な行為をしてい る、という激しい罪の意識にさいなまれ、ゆるゆるとその手を引っ込めた。 しかし、ほんのひとときが過ぎれば、そんな罪の意識はすぐに薄らいでいき、代わ りに怒涛のごとく押し寄せる欲望の波が、再度剛を同じ行為に及ばせてしまう。 もはや、今の剛にできるのは、時折真子の顔を伺い、目を覚まさぬよう祈るだけで あった。 もう、ここまでだ……ここまでにしとこう…… 剛は何度もそう思い、その度に手を引き戻した。 だが、暫くすると自分でも気付かぬうちに、掌はその柔らかな感触を楽しんでしまう …… そして、そんな行為を繰り返すうち、剛の掌は徐々に真子のふくらみの上にいる時 間が長くなり、また、その手の動きは次第に大胆になっていくのだった。 「はあ…はあ…」 薄暗い室内の片隅で、ひとり荒い息遣いの剛。 はたから見ればすこぶる不気味な光景だが、辺りには、闇と静寂の存在があるだ けで、そんな剛を非難するものは何もない。いや、そればかりか、辺りにわだかまる 闇と静寂が、まるでせせら笑うように剛の行為をアジテートしていった。 強力な扇動者に後押しされ、ただひたすらに真子の乳房をまさぐる剛。 その興奮が急速に高まっていく。 いつしか、剛は真子の胸元からTシャツの中へと手を突っ込んでいた。 するりとすべるようにブラジャーのなめらかな感触が指先に伝わる。 不自然な格好からのぎこちない動きでその指先に力を込めれば、それは柔らかな 弾力で答えてくれた。 掌から伝わる、得も知れぬ快感に酔いしれる剛。 と同時に、心中片隅にわずかに残った理性がこう囁く。 今ならまだ、取り返しがつく………と。 「…………」 一瞬だけ、その理性に呼び戻された剛は、おそるおそる真子の顔を仰ぎ見た。 もしかすると、今まだ取り返しのつくうちに、彼女の目が覚めることを望んだのかも しれない。 「…………」 だが、剛のそんな複雑な思いとは裏腹に、真子の寝顔にこれと言った変化は見ら れなかった。 安堵と絶望が剛の頭の中で交錯し…… やがて、剛の心に最後に残った理性はばらばらに崩壊した。 もはや、込み上げる衝動を押さえるものはなにもなく、剛は欲望の赴くまま、その 行為に没頭し始めた。 「はあ…はあ…はあ……」 いつでも、もとの寝姿に戻れるよう、仰向けのまま手を伸ばしていた剛だったが、 いかんせん、こうなってくるとこんな無理な体勢からのぎこちない行為では飽き足ら なくなってしまい、一端真子の胸元から手を引き抜いた。 そして、身体をごろりと転がすと、何のためらいもなく、真子のTシャツをたくし上 げ、指先で押し上げたブラジャーの中に手を潜り込ませていく。 なめらかな真子の地肌の感触と…… むにゅ。 そうとしか表現できない柔らかすぎる乳房の感触が掌全体に広がり、とどまること を知らない剛の興奮に、より拍車を掛ける。 剛は掌に強く力を入れてもみくちゃにしてみたい衝動に駆られたが、今はそれを堪 え、 いまだその弾力を試すように、五指をゆっくりとまるでピアノの鍵盤を弾くように 操った。 (………あ…) しばらくすると、剛は掌の中心にある突起がなにやら堅くなっていることに気付い た。 そして、その事が剛の息遣いをさらに荒くし、ただでさえ虚ろになっていた思考を朦 朧とさせる…… ゆえに、真子の鼓動が早くなってきたこと……つまり彼女の目覚めが近いこ とに はまったく気が付かなかった。 「……ん……ぅう…ん…?」 小さな寝起きの声を伴い、真子がうっすらとまぶたを開いたのはその時であった。 |
(4)へつづく。