ロフト・イン・サマー
(4)
「…!!」
肝を潰し、咄嗟に真子の唇に自分の唇を重ねる剛。
自分でもなぜそうしたのかは分からない……が、おそらく、驚き混乱し、短絡した
思考の中、とにかく大声を上げさせてはいけない、という思いが最も手早いこの行動
を取らせたのだろう。
「んむ…っ! ん…んんん…っ……!」
一方、寝起きのことも手伝って、なにが起こったのかさっぱり分からず、ただ、目を
白黒させてもがく真子。
だが今の剛の力は驚くほど強く、また寝起きで思考も身体の自由もままならなかっ
た事もあって、真子は次第に抗う力を失っていった。
「ん…んん……ん…………」
むやみに抵抗する力が失せると、のしかかる剛の体温が、なぜか不思議な安堵に
さえ感じられ、真子はそのまま目を閉じて剛に身を任せた。
………………………
しばらくし、剛は唇を放し、そして真子はゆっくりと目を開けた。
「………ごめん……」
低く呟くような剛の声。
「え? あ、い…いいよう…べ、べつに…あ、あやまんなくて…も…」
きょとんっ、とした顔を赤らめ、真子が声のほうへ首を傾けると、剛は自分の布団
に戻り、仰向けになって目の辺りを腕で覆い隠していた。
そんな剛を目の当たりにし、真子も今更ながらに恥ずかしさが込み上げてきて、こ
ろんと身体を転がし、剛に背を向けた。
にわかに高鳴り始めた胸を押さえつつ………
ふたりの間に、長く短い沈黙が落ちた。
……窓の外、虫の声が聞こえる……
……大人たちの宴会は、もう終わったのだろうか……
……明日の海は、波が高いだろうか……
そんなとりとめもないことを考えることで現実から逃れようとする自分を、また別の
自分が激しく非難する。
(…どう考えたって、許されることじゃないよな……)
改めて自分がしでかしたコトの重大さを噛み締める剛。
無限とも思える罪の意識と後悔にさいなまれる中、
「……た…剛……」
弱く、遠慮がちに発せられた真子の声が届いた。
「………」
返す言葉の代わりに、首だけを真子の方へ傾ける剛。
口元にわずかな笑みを浮かべてはいたものの、その表情は暗く沈んでいた。
「や…やだ、そんな顔しないでよう……」
闇の中、ということも手伝って、剛の表情が実際よりもさらに哀しげな顔に映ったの
だろう、真子は驚いてそのまま口をつぐんでしまう。
またも二人の間に沈黙の空気が流れそうになるが、努めて発した真子の声が、そ
れを打ち破った。
「あ…あのさ、そ…そんなに…気にすること…ない…よ……」
「……え?」
不可解な真子の言葉に、剛は思わず聞き返す。
そして、真子はその剛の視線から逃れるように、首を転がすと、天井を見上げつつ
続けた。
「あ…あたしだって…さ、す…少しは、こうなること…期待して、こ…ここ……剛の隣
に来たんだ…よ…」
そう言って、真子は恥ずかしそうにタオルケットで鼻先までを隠し、横目で剛の顔を
見詰めた。
「……………え…?」
剛は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
そして言葉の意味がつかめた後も、どうすればいいのか…何を言ったらいいのか
分からなかった。
「あ…あのね…剛……」
困惑している剛の心中を察してか、真子は少しずつ剛に近寄って、剛の手を取っ
た。
「剛……ね、とってもあったかかったよ……」
そう言って真子は大きな瞳で剛を見つめながら、その手を自分の胸へと導いた。
「ね、今度はもっとちゃんとして…あ…あたし、タケなら、い…いいよ…」
「…マコ……」
静かに目を閉じた真子に、剛は吸い寄せられるように、唇を重ねた。
「ん…、はぁ……」
胸の上にあてがわれた剛の手…その指先が動き始め、真子は甘い吐息を漏ら
す。
やがて、剛はその弾力を楽しむように掌で包んでいく。
ゆっくりと、その力を強めながら……
「あ! は、はぁ…っ…っっ…んん…!」
剛の手の動きに敏感に反応する真子。
高い声を上げそうになったが、重ねられた剛の唇がそれを阻む。
そして、次第に真子もじっくりとその甘い感触を楽しむようになっていった。
「ん……」
押し入ってきた剛の舌が、自分の舌を探している……
それに気付いた真子は、少しイタズラ心が湧き、『あかんべー』をするように、剛の
舌を押し返した。
「んぷぅっ?」
「んふふふふふ……」
驚いた剛が、唇を放せば、真子の目がイタズラっぽく笑っていた。
一瞬それにたじろぐ剛だが、今度はこっちの番、とばかりに、すばやく真子のTシャ
ツの中に手を差し入れると、先ほどと同じように、指先でブラジャーを捲り上げ、その
中へと手を潜り込ませた。
「ひゃっ!? あ…んっ、やっ……んんっ…」
したり顔の真子の表情が崩れるや否や、再度彼女の唇を奪い、剛はツンと上を向
いた真子の乳首を指先で挟み込んだ。
「んんっ…! く…ふぁ…あ…んっ!」
真子はここが凄く感じるようだ。重ねた唇ごしに、真子の息が荒くなっていくのがは
っきりと分かる。
剛は自分の指の動き一つで、鋭敏に反応する真子が無性に可愛くなり、さらにそ
の指の動きをエスカレートさせていった。
次第に堅くなっていくその突起を、指先で転がしたり…親指と人差し指でつまんで
みたり…はたまた、ボタンを押すように押し込んでみたり……
「んんぁっ! あはぁっ! んふぅっ……っ…」
胸の先端に走る痺れるような感覚にたまらなくなり、真子はとうとうかぶりを振って
剛の唇から逃れた。
だがそれでも、剛が指の動きを止めることはなく、
「あっ、あっ、あぁっ、はぁぁぁんっ…た、タケぇ……あ…あたし……」
真子は身をよじり、自分の指を噛んで声が漏れるのを防いだ。
一方、剛はそこから先に進めぬ歯がゆさを感じ始めていた。
未だ指の動きは健在だったが、もう片方の手が、先ほどから真子の背中をやみく
もにさまよっていたのだった。
「ん…? ん…あ……あは…☆ 片手じゃ…ムリ…じゃない…?」
剛の動きに気付いた真子が、堅く閉じていた瞳をうっすらと開き、イタズラっぽい、
いつもの笑みを浮かべた。
「んふふ…もう、そんなにあせんなくても、あたし…逃げない…よ」
「あ…う…うん」
紅潮した頬で優しく微笑む真子に、剛はおずおずと差し入れていた手を引き抜き、
両手を彼女の背中に回した。
「……ん…っと…」
「…ここ、そう、ふたつ…あるから…」
…ぷち…ぷちっ。
慣れない手つき…つまんだ指を交差させるような動きで、ホックをはずす剛。
そして、戒めを解かれたそこには、うっすらと水着の後が残る、形の良い真子の二
つの乳房があらわになっていた。
(ごく……)
思わず息を呑む剛。
「……や、やだ…そんな…まじまじ見ないでよ……あ…あたし…どっか、変?」
剛の視線に眉をひそめて言う真子。
「………」
剛はそれに答える代わりに、黙って乳房に唇を寄せた。
「んあっ…!? はぁ…んっ!」
先ほど以上に、ビリッ、とした感覚がその先端に走り、真子は反射的に身を屈ま
せ、剛の頭を抱きかかえる。
「んっ…ふっ…」
鼻先が真子の乳房に柔らかく埋まり、息苦しさを感じたが、剛はかまわず口に含ん
だ物を舌でなぶり回した。
「ア…ッ! アァ…ッ! ……ンアァ…ッ!」
さすがにたまらなくなったか、真子は身をのけぞらせて、両脇のシーツを堅く握り締
めた。
ちゅ…ちゅ…ちゅぅぅ…
緩急を付け両方の乳房に交互に吸い付く剛。むろん、唇の空いた方はいいように
手で弄ぶ。
「アゥ…ッ! ダ…ダメ…そ…そんな…イ…ヤァ…ッ………で…でも、ぁ…んふ…」
真子は身をよじりながらも、いつのまにか剛の仕草をじっと見入っていた。
「ん…? 『でも…』? 何…?」
意地悪く囁きながら、剛は、するすると真子の腹辺りに手を這わせ始め、やがて
……
「…あ…っ? やっ……そ…そこは…っ…あはぁ…ッ!」
剛の手の動きに気付き、がばっと上半身を起こしかける真子だが、それを許さぬ
よう、剛が口に含んだ乳首に軽く歯を立てたため、びくんっ、と身体を震わせ、再び
布団の上に崩れ落ちた。
そして、その間に剛の手はゆっくりと真子のショートパンツの中に、埋まっていっ
た……
淡い茂りを指先で感じながら、剛はさらにゆっくりと指を下ろしていく。
じわり…と湿った感触が届いたかと思うと、そこから数ミリ下に、熱くねっとりと濡れ
た部分があった。
「は…ッ! はぁぁぁぁ…、あふぅ……い…イ…ヤァ…ァ…は…恥ずかしい…よ…う」
自分の身体の変化に気付かれた、という恥ずかしさからか、真子は両手で顔を覆
った。
「へへ…何が?」
またも意地悪く、とぼけた口調で尋ね、剛は、湿った布の上で引っ掻くように指を
動かした。
とめどなく溢れる真子の愛液が剛の指にねっとりとまとわりついてくる……
「や……んぁ!んぁぁぁぁ…ッ!ア…ッ…」
指を噛んで、大声を上げないよう、必死に耐える真子。その身体はさらに熱を帯
び、次第に汗ばんできた。
……とそこへ、
「はあぅ…っ!? い…いやぁ…ッ! あむぅ…っ…ぅぅぅ…!」
予想外の衝撃が電撃のように全身に走り、真子は慌てて手のひらで口を覆った。
ひやりとした剛の指の感覚が、布の隙間から、真子の敏感な部分に潜り込んでき
たからである……
「んむーっ!んんんーっ! ん…ぁぁぁぁ…っ!」
もぞもぞと直に感じる剛の指の動きに、手で口を覆ったまま、首を左右に振っても
がく真子。
一瞬、剛の手が割って入っているその太股がぎゅっと閉じられるが、すぐにその力
は緩んでいき、結果、真子の脚は以前よりも開かれるようになった。
「ひあぁぁぁ……ぁ…あはぁぁぁ…あふぅぅぅ…ん…ッ…」
真子は身体を小刻みに震わせ、見開いた瞳で虚空を見つめている。
そこで、剛は半ば痙攣している真子の脚をさらに押し開くと、フリーになった手首に
力を込め、充分に潤ったその泉に指を埋めていった。
…ずぶ……
「い…いやぁぁぁ…、も…もう…、だ…だめ…ぇ…、ああ…ん、アァ…ッ!」
真子は言葉で指の侵入を拒んだが、裏腹に身体はそれをすんなり受け入れてしま
った。
「うぁ……はあああああぁぁぁぁん……っ」
剛の指が自分の中に入ってくる…頭で考えるより先に身体はそれに悦んでいた。
得も知れぬ悦びに、真子はなんだか自分が怖くなり、いつのまにか助けを求める
よう、虚空に手を伸ばしていた。そしてその突っ張った力が抜けた時、真子の手は
自然と求めるように、剛の身体をまさぐっていた。
「あ…あ…あぁぁ……た…剛…剛ぇ……」
真子は、剛の広い背中から、その背筋に沿うように指先を腰まで下ろし……
「…あ……」
気付いた時には、手は剛の股間へとたどり着いていた。
友人などの経験談などで聞いてはいた。しかし、剛のそれは真子の想像以上に堅
く大きなモノであった。
(え…えと…こ…こうかな…?)
困惑しながらも、真子は、見よう見まね…というのもおかしいが、剛のこわばりをお
ずおずとまさぐり始める。
「あ……? ん……あ…ぁ…」
それはなんともおぼつかぬ指使いではあったが、すでに興奮しきっていた剛のこわ
ばりには充分すぎる快感をもたらせた。
「……あ…ま…真子……」
その心地好さに暫く身を任せる剛。
「んふふ…」
真子は、陶酔したような剛の顔を見るうち、なんだか嬉しくなり、よりいっそう…今
度はそれを手にしっかりと握って、上下に動かし始めた。
「ん…あ、こ…この…やろ……」
見下したような真子の笑みに、腹を立てたか、剛は快感に飲み込まれそうになりな
がらも、負けじと真子の中に埋めた指を、激しく出し入れした。
「あぁぁぁぁぁーッ! そ…それ……ん…ああッ、いっ…い…い…ッ」
真子は寄せ付けた枕に顔を押し付け、喘ぐ声が大きくならないように耐える。
そしてその耐える力を吐き出すように、剛のモノをしごくスピードは、より強く、早く
なっていった。
「あッ…、くぅッ…ん、タ、タケ…、き…気持ちいい…?」
「あ…う…うん……」
「あ…あは……あ…あたし…も…いい、き、気持ち…いい…っ、アァッ…!」
いつしか、真子は無意識に腰をくねらせていた。
「あ、あ…たし…ど…どうにか…ハア…ッ!な…なっちゃう…、あん……、そこ…っ!
ああん…そ…それ…も…あぁ…ん…い…いいの…、も…も…っと…」
自らの動きと剛の指の動きが相重なり、真子は顔を枕に伏せたまま、その長い髪
を振り乱して狂おしく鳴いた。
「いいよ…マコ、俺も、もう我慢できないから…イッていいよ…」
優しく囁く剛…、耳をくすぐるその声に、真子は未だ経験したことのない安堵と、全
身が宙に浮き上がってしまうような高揚感を覚えた。
「エ…ッ?あン…ッ!こ…これが…? い…イク…って…こ…と? あ…はうっ…!!」
一瞬きょとんっ、とした顔を見せる真子だが、より激しく力を込めてきた剛の指の
動きに、再びその表情を歪める。
やがて……
「く…くふゥ…ッ! あはぁ…っ! は…っん! す…スゴ…イ…ッ! んはぁっ!
なっ…なに…コレ…? あ…あ…あ…ダ…ダ…メ……もう…あぁぁぁぁーーッ…!」
一際激しく身体を震わせて真子は果てた。
(5)へつづく。