メイプルウッド・ロード
                     
〜#2.ジャグジールームの甘い霧☆〜

(12)

 ごぉぉぉん……

 そして再び、ボイラーの唸りが響くランドリールーム。

「へぁぁぁ〜〜〜〜。」

 濡れてへなへなになった黒髪を扇状にばらまいて、テーブルに突っ伏す由美。

 そして

「う〜〜〜〜。」

 椅子の背もたれにぐったりと身体を預け、濡れタオルを額に、苦しげに天井を仰ぐ瞬。
 
あのあと
 事後……、未だ火照る身体を引きずり起こし、どーにかこーにか着替えを終え、なん

とかここまでたどり着いたふたりだが……。

 現在、絵的に表現するなら、彼らの頭上には縦の波線が3本浮かんでいる。

 そう、もはや全く記すまでもないと思うが、二人とも…瞬にしてみれば二度目の、ひど

い湯当たりに見舞われていた。

 まあ…温湿度の高いあんな場所であんなことをすれば、当前の結果と言えるだろう

が。

 ともあれ、

「…なぁ〜?」

「あー。な〜に〜〜」

 だらしなく口を開け発した瞬の声に、疲れ切った由美の声が返る。

 むろん二人とも全く動かず。互いの方を見ずに。

「あー。そろそろ戻ってもへーきじゃねーかー」

「んんー?はぁぁ。そーかもね〜。けどあたし動きたくな〜い……」

「……って、お前……。ここで寝ちまうわけにもいかねーだろ……」

 目の上に乗ったタオルを持ち上げ、ぐで〜っと寝そべる由美を見詰めて困ったよう

に言う瞬。

 だが由美はやはり顔を伏せたまま、だるそうに、

「う〜〜。だったらさー、瞬、見てきてよー。で…大丈夫そうだったらぁ、あたしも帰る

からあ……」

「……って、お前、まーた俺にここまで戻ってこさせる気かよ」

「……うん……」

「ば…ばかやろぉ。じょーだんじゃねーよ。ンなしちめんどくせーこと……。

 だいたいおめーこんな状態じゃ、部屋着いたらすぐぶったおれ………と、そーだ!」

 由美の勝手な言い分に不機嫌そうに応えつつ、瞬はその言葉途中で、何やら思い

立ったか、ゆっくりと身を起こす。

「……ん?」

「その…電話で部屋、かけてみりゃいーんじゃん?」

 ちらりと目だけを覗かせて尋ねる由美に、彼女の背後、ジュースの自動販売機の

横に置かれている公衆電話を顎で示唆する瞬。

 まあ、ごく普通の公衆電話であるが、主にこーいったときのため(?)、各部屋との連

絡用のために置かれているものである。

「あーそーねー、じゃー瞬、かけて……」

 ともあれ、瞬の妙案に、だが由美は全く抑揚のない声で答える。

「ばーか。お前の方が近ぇだろーが。お前かけろよ……ほら、クォーター……」

 対して瞬は、憮然とした声でそう言い、また、めんどくさそうにスゥエットのポケット

から取り出した25セント硬貨をテーブルに放り投げる。

 投げられたコインはテーブル上でうまい具合に立ち、そのまま突っ伏す由美の方へ、

 ころころころころころ………。

 だが、由美はまったく動かず。

 たよりなさげに転がるコインは、やがて由美の頭上を過ぎていき、

「………お〜い…」

「ん〜〜」

 瞬が咎めるような声を発した瞬間、だるそうに伸ばした由美の手にわしっと掴まれた。

 由美は、瞬に向かってごろっと頭を転がし、握った拳を差し出して、

「じゃーさーこのコインで決めよ…って投げるのめんどくさいから……ジャンケンできめ

よーよ」

「ああ…?ばーか。ふざけんなよ。なんでわざわざジャンケ……」

 ちゃっかりコインはポケットにしまいつつ、そうもちかける由美に文句を言う瞬だが、

「は〜い。じゃーんけーん……」

 言葉途中で、由美のジャンケンモーションは始まっており、

「ぽーん」

「…く…っ…」

 反射的に出してしまった掌を見詰め、憎々しげに歯がみする瞬。

 対して由美は、

「じゃ…おねがいね〜〜」

 掲げたそのVサインを振って再び顔を伏せる。

「はぁ………」

 瞬は、しんそこ疲れ切った息を吐き、

「…ったくよー。…ん…しょっ…!」

 また仕方なく、その鉛のように重い身体をよろよろと立ち上げ、電話機の方に向かう。

「あ…瞬、ついでにダイエットコークお願い〜〜」

 くぐもった声で勝手なことをほざくわがままな黒髪に顔をしかめつつ、受話器に手を伸

ばし……

 ジリリリリリーン!

「え…うわぁっ!?」

 突如鳴り出した目の前の電話に、驚いて手を引っ込め、慌ててその場を飛び退く瞬。

「えっ?」

 さすがに由美もがばっと顔を起こす。

「え…ちょ…な…なんだよ…これ……?」

「…わ…わかんない……」

 眉をひそめて顔を見合わせる二人。

 リーンリーン……!

 だがその間も、甲高いベル音は一向に鳴り止む様子はなく、

「ちょ…瞬……うるさいからとりあえず出てみれば……?」

「え…けど……」

 なにやら無責任なことを言い出す由美に躊躇する瞬。

「へーきだよ。わけわかんなかったら、切っちゃえばいーんだし…どーせ、間違い電話

だよ」

「あ…ああ……」

 さらに無責任な言葉を発する由美に、だが瞬は納得し、再度おずおずと受話器に手

を伸ばす。

 リンッ……

 やかましいベル音が止み、

「ハ…Hello……」

 怯えたように声を震わせ瞬が電話に出た瞬間……

『…おー、瞬か?わりーけどさ…俺の洗濯モンも一緒に持ってきて。あ…あと、もう戻っ

てきていーぞ』

「え…?あ……?…」

 ツー…ツー…。

 一方的に言って途絶えた智也の声に。

「………………………。」

 受話器を握り締めたまま、わけがわからずぼーぜんと立ちすくむ瞬。

「ねー、なんだったの…?」

「いや…あのな……」

 尋ねる由美に事情説明し、

「…………………………。」

「…………………………。」

 沈黙しばし。やがて、

「……な…なによそれーっ?」

 由美の怒声が響いた―――もはや、深夜というより早朝に近い時間の地下ランドリー

ルームにて………。

 

メイプルウッド・ロード#2〜ジャグジールームの甘い霧☆〜 完。

   メイプルウッド・ロード#3〜嵐のI−5〜につづく

   

また…本編では書ききれなかった(^^;
智也&葉月の…☆

番外編〜ムーンライトヘブン☆〜は、こちら↓

メイプルウッド・ロード#2番外編〜ムーンライト・ヘブン☆〜

 

↑おもしろかった〜☆と思ってくださったら、押してくださいね☆(^^ゞ

 

あとがき
(筆者のたわごとです(^^;おヒマでしたらどうぞ。
また、特に読まなくともまったく差し支えありません)


 

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ご意見・ご感想用BBS『るますりーへひとこと言いたいっ!』

 

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